巨大市場である中国に進出したいが、勝手がわからず足踏み状態──。そんな悩み多き日本のITベンダーに、一筋の光明が差し込んでいる。台湾のIT産業と日本のIT産業が急接近し、共に中国を含む中華圏のビジネスに乗り出そうとしているのだ。(取材・文/信澤健太)
急速に成長を続ける中国市場への進出を目指す国内ITベンダーが増えている。生産スケジューリングシステム「Asprova」を開発・販売するアスプローバは、すでに現地SIerや日系SIerとの業務提携を推進しており、中国の地場企業へのシステム納入実績を伸ばしている。だが、こうしたITベンダーは少数派。日系企業向けのシステム納入や保守・サポートにとどまっているケースが目立つ。さらにいえば、大多数は中国市場に進出する糸口すら掴んでいないのが実情だ。
そんななか、注目が集まっているのがCISA(中華民国情報サービス産業協会)が提唱する「新ゴールデントライアングル」だ。日本国内のITベンダーの品質管理や信頼性の高いブランド力と、台湾のITベンダーの中華圏での商慣習や言語の理解度、マネジメント力というそれぞれの強みを相互に補完することで、中国をはじめとするアジア各国の市場を開拓するという構想である。
1980年代から2000年代にかけて、米シリコンバレー(R&D)を頂点に、台湾(管理)、中国(製造)の連携で、台湾のITハードウェア産業が繁栄期を迎えた。「新ゴールデントライアングル」は、この成功体験を踏まえ、日本(製品・品質)、台湾(業界ノウハウ)、中国(ソフトウェア受託業務)の協業関係を構築し、新たな成功モデルの創造を目指している。
国際CIO学会会長や早稲田大学の電子政府・自治体研究所所長を努める小尾敏夫教授は、「品質やブランドが強みの日本と、人脈とガバナンスに長けた台湾、安い労働力の中国という関係を生かしてアジアに進出できる」と強く訴える。
旗振り役であるCISAの劉瑞隆理事長(SYSCOMグループ総経理)は、「『新ゴールデントライアングル』が成功モデルになれば、日本版シリコンバレーが生まれる」と話す。これまでに、日台ITビジネスアライアンス交流会などを通じて、協業の可能性を模索してきた。今年6月に開催した交流会には、日本国内のITベンダーや台湾のITベンダー、IT団体、台湾政府などの関係者が多数参加。参加申込みは総勢200名を超え、過去最大規模となった。
劉理事長は、5年、10年といった中長期的な視点に立つ必要があるとして、「まずは、日本と台湾の間で情報共有などを進めるべき。次の段階で、台湾に合資会社を設立したい。中国で成功すれば、東南アジアにも進出していけるはずだ」と展望を語る。
中国と日本への理解が深い台湾
「新ゴールデントライアングル」構想はわかりやすい。では日本企業にとって、台湾企業と組む具体的なメリットとは何か。まず挙げられるのは、台湾と中国が締結したFTA(自由貿易協定)であるECFA(両岸経済協力枠組協定)を受け、緊密さを増す両国の経済関係の恩恵に浴すということだ。それだけではない。台湾ルートは、中国における厳しい法規制や異なる商慣習、文化といった障壁を乗り越える手段として期待が高まっている。
日本人が中国でのビジネスの現場に立つと、困惑してしまうケースが少なくない。例えば、中国は、“グレー”な部分が多く、日本での常識は通じない。日本では顧客である官公庁や企業との契約を前提としてビジネスが成立するが、中国では地縁や血縁などのコネなどによる信頼関係がより重要視される。組織への奉公よりも個人のメンツを大切にするのも、日本との大きな違いだ。
制度面では、日本を含む外資系企業の営業活動に多くの制限がかけられているほか、地域ごとに異なる制度が設けられていたり、頻繁に法改正が行われたりする。成功ノウハウを出し惜しみして、機能(ツール)の販売に乗り出そうとすれば、中国人の反感を買ってしまう。
こうしたさまざまな事情が重なって、結局のところ、日本本社の幹部が尻込みし、首を縦に振らないということになる。台湾ルートを経由した情報漏えい防止ソリューション「秘文」の販売を手がけた経験をもつビジネスブレイン太田昭和(BBS)の松江芳夫国際事業推進室室長は、「日本の企業は、中国で事業を展開するという姿勢をみせるだけで、実際には行動を起こさないという批判を浴びている」と指摘する。
松江室長は、「文化や制度面で壁が低く、大陸とのパイプが太い華僑」との提携の重要性を説く。同氏は2010年に日台ITビジネスアライアンス交流会に参加したのをきっかけとして、台湾大手食品グループに出資して中国で成功した日系商社の成功事例などの情報収集に努めた。その後、「秘文」の台湾ルートの開拓に乗り出している。
日本の関係者の多くは、「台湾は中国と異なり、日本と文化的に親和性が高く、協業しやすい土壌が整っている」と評価する。BBSの石川俊彦社長は、「台湾の制度や文化には、日本の統治時代の影響が色濃く反映されている。日本への親近感は強い」と話す。
2011年8月には、日本と台湾の間で、通常の投資保護協定に相当する「日台投資取り決め」を締結した。投資活動や投資財産の保護に際して、内国民待遇や最恵国待遇を無条件に受けられるというものだ。ECFAとの相乗効果も期待され、「新ゴールデントライアングル」の後押しになりそうだ。
専門コンサルサービス立ち上げ
BBSは、松江室長の経験を生かして、日本企業の中国IT市場の開拓を支援する「China & Asia Landing Service」を開始した。中国、アジア、とくにASEAN(東南アジア諸国連合)で協業パートナーと連携し、日本本社と現地法人向けに支援サービスを提供する。
これは、(1)SYSCOMグループをはじめとする台湾SIerとの協業による中国アジア開拓支援サービス「New Golden Triangle Service」、(2)日系製造業向け中国進出支援サービス「China Landing Service」、(3)日系製造業向けアジア進出支援サービス「Asia Landing Service」の三つのサービスで構成されている。
(1)に関しては、日系の独立系ソフトウェアベンダー(ISV)がソリューションを中国で販売する際に、BBSが仲介役となって台湾SIerとの交渉やマーケティング、営業活動を支援する。主に、従業員50人程度の中小規模のISVをターゲットに据える。「コンサルティング契約とアドバイザリー契約を締結してもらい、継続的にサポートしていく」(松江室長)というものだ。
「New Taipei Cloud Valley」の形成へ
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| 台湾雲端運算産業協会の副理事長を務めるCISAの劉理事長 |
台湾雲端運算産業協会(Cloud Computing Association In Taiwan)は、中華電信やマイクロソフト、富士通などの有力ITベンダーを会員として、クラウド産業の振興を目指す団体である。2010年から2014年にかけて総額240億台湾ドル(約624億円)を投資して、最終的にはクラウド産業の集積地である「New Taipei Cloud Valley」を形成しようと目論んでいる。
現在、台湾雲端運算産業協会には、会員企業のクラウドサービスを紹介するショールームが設けられている。ネットワークインテグレーションを手がける中華電信は、個人向けのクラウドサービス「個人雲」を展示している。「個人雲」は、ストレージやメール、アドレス帳、カレンダー、リモートワイプなどの機能などを実装しており、Google Appsの競合にあたるサービスだ。中華電信の呉尚恩・加値服務專案経理加値処は、「音楽配信サービスなども順次追加していきたい」と話す。
政府と民間によって設立された半官半民のシンクタンクである資訊工業策進会は、クラウドサービスの総合ブランド「CAFE(Cloud Appliance for Enterprise)」を提供している。ASUSTeKやノートPC受託生産大手のクアンタ、インベンテック、大同、Gigabyteなどが開発に関わっている。
「CAFE」は、「メインサーバークラウド」「デスクトップクラウド」「ストレージクラウド」「クラウド・情報セキュリティ」の四つのカテゴリーのサービスから成る。簡俍偆・資深業務推動経理は、「とくに、データセンター事業者向けにクラウドアプライアンスとして販売する」という。

クラウドサービスを紹介するショールーム
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