成長著しい中国IT市場を攻略するために、日本企業が台湾企業と組み、共同で中国に進出する動きが加速している。2010年後半から、両国の有力情報サービス業団体である日本の情報サービス産業協会(JISA)と台湾の中華民国情報サービス産業協会(CISA)がより親密な関係の構築に取り組むなど、日台連携が勢いを増す。日本×台湾×中国──。今、「ゴールデン・トライアングル」がかたちづくられようとしている。
「ウィン・ウィン」の関係を築く
強みを合わせて中国展開へ
2010年に台湾と中国が「両岸経済協力枠組協定(ECFA)」を締結したのを機に、日本のIT企業の注目は一気に台湾に集まってきた。すぐれたIT製品をもっているものの、言語の壁や商慣習の違いなど中国ビジネスに関するノウハウに乏しい日本のIT企業にとって、日台アライアンスは、中国市場へ進出する際の橋渡しとしての役割を果たそうとしている。
財貨貿易やサービス貿易、早期の市場開放などの諸分野で交渉を積極的に進めることを目的としたECFAの締結により、中国・台湾の間の経済・貿易・投資協力の強化や、物品・サービス貿易のさらなる自由化が見込まれる。みずほファイナンシャルグループによると、2009年時点ですでに対外投資の約70%を中国に向けている台湾だが、ECFA締結を境に、中国市場での存在感をさらに高めていく。
中台関係の緊密化を受け、中国進出を狙っている日本のIT企業は、台湾企業と連携することによって、中国の厳しい規制や不慣れな市場環境などの障壁を解消することに期待している。台湾企業との合弁や台湾子会社経由による日本企業の「台湾活用型対中投資」は、ECFA締結前の09年6月時点で、電気・電子や自動車・部品の業種をはじめ、合計415件(みずほ総合研究所調べ)となっている(14面の表参照)。今後、中国でニーズが急増しているITサービス業を含め、台湾活用型対中投資の件数は拡大していく見通しだ。

「台日ITビジネスアライアンス交流会」の会場
日台連携を本格化 IT分野での日台アライアンスによるメリットは大きい。台湾企業は、中国ビジネス展開の経験が豊富で、中国での幅広い販売網や人的ネットワークをもっている。政府との関係も緊密で、多くの日本企業が直面している、例えばクラウドサービスの提供に必要なライセンス登記ができないなどの制度面での障壁を克服することができる。一方、台湾は従来型のハードウェア中心の企業が多く、サービス化が進んでいる中国IT市場のニーズに対応するために、ソフト/サービスの領域を強化する必要がある。この点で、ソフト/サービス分野に強く、かつ品質管理を重視する日本企業は強みを発揮することができ、「(日本のソフトを)台湾のハードウェアと組み合わせて商品化するというウィン・ウィンの関係を築く」(日立ソリューションズ 中国・アジアビジネス推進第2部の松江芳夫部長)ことができる。
ECFAが締結されてから日台IT企業のアライアンスの具体化を推進しているのが、日本の情報サービス産業協会(JISA)と台湾の中華民国情報サービス産業協会(CISA)だ。CISAは台湾有力IT企業をはじめ、約800社の会員企業を有しており、日本側は、データベースソフト「DBMaster」を開発・販売するDBMaker Japanの蕭烱森代表を介して、CISAの窓口を設けている。
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CISA 劉瑞隆理事長 |
台北でビジネス交流会 CISAは、10年12月初旬に、アジア太平洋IT産業協会(ASOCIO)が台湾・台北市で開催した国際ICT(情報通信技術)サミット「ASOCIO ICT Summit 2010」の一環として、日本と台湾のIT関係者を招いた「台日ITビジネスアライアンス交流会」を主催した。イベントの場で、CISAの劉瑞隆理事長(凌群電脳=SYSCOMグループ総経理)とJISAの浜口友一会長(NTTデータ相談役)が、日台アライアンスの本格化に向けて、両団体の関係を強化することに合意したことを発表。浜口会長は本紙の取材に対して、「すでに日台連携を成功させている製造業に見習って、そのノウハウをソフトウェア業界へ展開していけるかどうかが今後の課題だ」とコメントした。
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JISA 浜口友一会長 |
会場では、日立ソリューションズや日本電気(NEC)、コンピュータソフトウェア協会など日本IT企業/団体24社と、凌群電脳など台湾IT企業/団体29社の関係者が集まり、プレゼンテーションなどで互いに自社の強みをアピールした。その際、台湾側の関係者の多くが自由な日本語で話すなどの様子から、日本と台湾の親和性がうかがえた。
CISAとJISA、活動加速 CISA/JISAは、10年12月の台北でのイベント成功を捉えて、今後、日台アライアンスの枠組みづくりの進化を目指して活動を加速させていく。中国で成長している医療や流通、金融、製造、農業の業種向けITに重点を置いて、「ビジネス交流会を企画・開催して、産業や技術、人材、投資などの分野で日台連携の可能性を探っていく」(CISAの蕭日本代表)方針だ。
とはいえ、CISAの劉理事長がいうところの「日本・台湾・中国のゴールデン・トライアングル」の形成は、決して短期に実現できるものではない。
JISAの浜口会長が「日本と台湾が一緒になって中国で事業展開するまでは、少なくとも10年くらいはかかる」との見解を述べているように、現時点では、日台ITアライアンスはまだ初期の段階にあるのだ。
以下、両国の企業はどのようにして日台連携を実現させ、中国進出を狙っていくかの取り組みを追う。
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