グローバルデリバリーモデルに取り組むSIerの動きがにわかに活発化している。グローバル化する情報サービスビジネスにおいて、有力SIerのシーエーシーは「アジア限定では伸びしろに限界がある」(メヘタ・マルコム執行役員)とみて、地域にとらわれないサービスモデルの構築に力を入れる。中国有力SIerの海輝軟件の李勁松副総裁は、「インド型のSIerがロールモデルの一つ」と捉えて、タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)やインフォシスなど欧米市場を主たるターゲットとして、グローバルデリバリーモデルでのビジネス展開をイメージしている。(安藤章司)
欧米型開発スタイルに勝機あり
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海輝軟件 李勁松 副総裁 |
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シーエーシー メヘタ・マルコム 執行役員 |
グローバルデリバリーとは、IBMやアクセンチュアといった世界トップSIベンダーがこぞって整備してきたビジネスモデルだ。ソフトウェア開発や運用の効率化を世界レベルで最適化するもので、その代表例がインドの人的リソースや地場SIerの活用である。コストを抑え、時差を利用した開発の迅速化、開発や運用の集積度を高めることでSEの稼働率を高める手法など、いわゆる“デリバリーセンター”をインドに置くことで、世界市場における競争力を高めてきた。日本や中国のSIerは、こうした潮流に十分対応できているとは言い難い状況にあったが、ここへきて有力SIerが積極的にグローバルデリバリーモデルへ移行する動きが活発化している。
シーエーシー(CAC)は、グローバルビジネスに実績のある人材を経営幹部に登用。中国とインドにすでに展開済みの開発拠点を生かすかたちで、欧米市場からの受注拡大に力を入れる。同社でグローバルビジネスを担当するメヘタ・マルコム執行役員は、「業種・業務ノウハウを生かして、できる限り、地域を限定せず世界主要市場をターゲットにビジネスを展開していく」と、強みとする金融や製薬などの分野でビジネスの拡大を目指す。直近で欧米拠点に計約50人、デリバリーセンターである中国約250人、インドでは中核スタッフと地場有力ベンダーとの協業で開発力を確保。海外売上高比率は今はまだ数%に過ぎないが、向こう5年で10%規模への拡大を目指す。
日系SIerでいち早くグローバルデリバリーモデルを確立したのは、業界トップのNTTデータである。図で示したように、日欧米の主要市場の近くにデリバリーセンターを置くニアショアと、コスト優先で遠隔地で開発や運用を行うオフショアの両方を整備。顧客の要望に合わせながら、バックヤードの整備を進めてきた。グローバルデリバリーモデルがIBMやアクセンチュアの専売特許のままでは、いつまでたっても本当の意味での世界市場への進出が難しいばかりか、中国やインドのSIerにいずれ追い越されてしまう。すでに、中国大手SIerの東軟集団は世界市場への進出に強い意欲を示しており、東芝グループをはじめとするグローバルカンパニーとの戦略的協業を積極的に推進している。そして今、準大手や中堅SIerでも、得意とする業種・業務をテコに、グローバル標準ともいえるモデルの実践に取り組む動きが出てきているというわけだ。
中国有力SIerの海輝軟件は、積極的なM&A(企業の合併と買収)を展開することで、直近の売上高全体で米国市場でのビジネスの構成比がおよそ5割まで拡大。海外SIerからの下請け的な受託ソフト開発ではなく、中国の大連や無錫などのデリバリーセンターの7000人余りの人材を武器に、情報システム子会社を含むユーザー企業からの直接受注を重視。直近では全体の約8割をプライム案件が占める。欧米SIerのグローバルデリバリーモデルの適用を追い風として急速に勢力を伸ばしてきたTCSやインフォシスなどインド有力ベンダーは、自らが主体となって日欧米主要市場に打って出ている。海輝軟件では先行するインドSIerをロールモデルの一つとして、「グローバルデリバリーモデルをさらに拡大する」(李勁松副総裁)と意気込んでいる。

グローバルデリバリーモデルの一例
表層深層
日系SIerは1980年代に、邦銀の海外進出に追随するかたちでニューヨークやロンドンなどの金融都市へ拠点を開設する動きがあった。バブル経済後に邦銀のグローバルビジネスが不調になると、こうした日系SIerの海外ビジネスは下火となり、今、再びユーザー企業のアジア成長市場への進出に追随するかたちで海外進出を進めている。このアジア偏重型の進出形態は、かつての「邦銀対応」を彷彿とさせるものがあり、その末路は決して明るいものではない。ITホールディングスグループのインテックの滝澤光樹社長は「国内市場はすでに成熟しており、80年代とは事情が異なる」として、現在取り組んでいる海外進出は日本のSIerにとって失敗は許されないとみている。
中国のSIerをみても、日本からの下請け的なオフショアソフト開発の比率が高いSIerは総じて売り上げが伸び悩み、IBMやアクセンチュア型のグローバルデリバリーモデルを積極的に指向する東軟集団や海輝軟件のようなSIerは売り上げが伸びている。だからこそ、CACはアジア成長市場に進出する日系企業対応を軸とするアジア偏重型ではなく、当初から世界標準であるグローバルデリバリーモデルを目指す戦略に出たわけだ。このモデルは世界市場で活躍するSIerの基本機能の一つであり、ここが十分でないと、多くの日系SIerが主戦場としているアジア市場でも競争力を失いかねない。