東南アジアの経済の発展や政治の安定化に伴い、日本のITベンダーは今、この有望市場に熱い視線を注いでいる。ITサービスやネットワーク、セキュリティなどの主要分野で、ITベンダーは東南アジアのマーケットをいかに開拓しようとしているのか。各社の最新の取り組みを探る。
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「ASEAN」は「Association of South-East Asian Nations」の略で、「東南アジア諸国連合」と訳される。1967年にタイの首都、バンコクで発足した。本部はインドネシアのジャカルタ。加盟国は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアの10か国。東南アジア地域での経済成長の推進や政治・経済的安定の確保を目的としている。ASEAN首脳会議をはじめ、外相会議や経済閣僚会議など、各種会議を定期的に開催する。
なお、この特集では、ASEANとほぼ同じ意味で「東南アジア」という表現を用いている。【東南アジアを概観する】
――ITサービスの需要が活発に
昨年あたりから、日商エレクトロニクス(ベトナムに拠点設立)や三井情報(シンガポール)、インターネットイニシアティブ(タイ)など、日本の有力ITベンダーが相次いで東南アジアに拠点を設け、日系企業や現地企業を顧客として、案件の獲得に取り組んでいる。
東南アジアはこれまで、自動車メーカーなど、主に日本の製造業の進出が多く、ITベンダーは日系メーカーの工場やオフィスでITインフラを構築するビジネスを展開してきた。しかし、ここ数年の間に、東南アジア各国の経済発展や政治の安定化が進み、現在は金融や流通、サービスといった業界の企業も活発に進出している。これらの企業は、東南アジアを「工場」としてだけではなく、「市場」として認識し始めている。こうした情勢の変化につれて、現地拠点での情報システムに関するニーズも大きく変貌してきた。
10年以上も前から東南アジアでビジネスを展開しているICT(情報通信技術)ベンダーのネットマークスが2012年に行った実態調査によると、「東南アジアに進出している日系企業は、3年前と比べて、ITインフラだけではなく、アウトソーシングを中心とするITサービスに関しても確実にニーズが高まってきている」(佐藤宏社長)という現象が現れている。多くの日系企業は東南アジアの数か国にわたって事業展開しており、拠点間で同じ品質の情報システムを求めるなど、ITの標準化の需要が拡大している情勢にある。
日本貿易振興機構(JETRO)の資料によれば、東南アジアで最も人口が多く、GDP(国内総生産)が高いのは、インドネシアだ(図1参照)。インドネシアは、1万8000以上の島で構成される国なので、遠隔地のオフィスとビデオ会議を行うなど、とくにネットワーク/通信に対するニーズが旺盛だ。多くの日本のITベンダーは、まずインドネシアで事業を拡大し、次のステップとして、東南アジア各国の市場を開拓するという戦略をとっている。
【Chapter 1】IT団体の動き
――現地で有力パートナーを獲得
有力IT団体は、東南アジアのIT市場の有望性に着目している。
国産のソフトウェアベンダーが集まるメイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS)は、この5月、タイの市場開拓に向けて動き出した。MIJSは、バンコク郊外のソフトウェアパークで開催された「日タイソフトウェアパーク交流会」に参加し、交流会の場で、タイのソフト産業の3団体・機関とパートナーシップを結ぶ覚書を交わした。3団体・機関は、タイ国立科学技術開発庁に属する「SWP(Software Park)Thailand」をはじめ、タイのIT市場に深く根づいた存在だ。各団体・機関の特徴を図2にまとめた。
SWP Thailandは、ここ数年、海外のソフト会社との連携を強化し、東南アジア各国のITベンダーとのパイプづくりに取り組んできた。MIJSはこうしたSWP Thailandの動きに着目し、SWP Thailandと連携したいという話をもちかけた。今回の覚書によって、日本のITベンダーはSWP Thailandと共に東南アジア市場に進出し、SWP Thailandの人脈を活用することで販路拡大を実現することができるようになった。MIJSは、今後2年の間、SWP Thailandと技術者レベルで相互交流を行い、3年目からは、販路開拓やアライアンスの締結など、具体的なビジネスモデルの検討に入るとしている。
また、情報サービス産業協会(JISA)は、民主化の兆しがみえるミャンマーとの交流を深めようとしている。7月初旬、ミャンマーで有数のIT団体である「ミャンマーコンピュータ連合(MCF)」との共同セミナーを開催し、参加者にミャンマーのIT事情を説明した。ミャンマーは、閉じられた国であったこともあって、ITがほとんど普及していないのが実情だ。MCFのU Thein Oo会長は、ミャンマー政府が、住民登録や収税など、各種手続きをデジタル化する「e-Government(電子政府)」に取り組んでいることを説明し、公共セクターをはじめ、金融や製造の分野でも、IT市場開拓のポテンシャルが大きいことを訴えた。
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