国内IT産業の成長がほぼ止まったなかで、「利益を増やすためには、少数精鋭の筋肉質な組織をつくらなければならない」と、多くのITベンダー経営者は言う。国内ITベンダーは今、新たな人材の採用と在籍するスタッフの育成について、どんなことを考えているのか。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査レポートから実情を読み解く。そのデータからは、人材が不足している状況や外国人スタッフの採用が進んでいる実態がみえてきた。(文/木村剛士)
figure 1 「過不足感」を読む
人材は不足気味、PMのニーズは旺盛
IPAの調べによれば、国内ITベンダーの就労人口は77万8000人(2011年度)で、前年度に比べて1万2000人ほど増加した。また、今後も増えそうな調査結果が出ている。それが右図に示したITベンダーに「IT人材の量(人数)」に対する過不足感をたずねた結果である。直近の11年度調査で、「大幅に不足している」と回答した割合が9.1%、「やや不足している」が55.6%となった。両回答の合計は64.7%で、半数以上が「足りない」と感じている。どちらの回答も、リーマン・ショックの影響でIT産業が落ち込んだ09年度と10年度の数値を上回った。「足りない」の内訳をIT人材の職種でみると、トップだったのが「プロジェクトマネジメント(PM)」。「大幅に不足」と「やや不足」が58.8%を占めている。「国内IT市場の成長はほぼ止まった」といわれ、大手コンピュータメーカーの業績は低迷して、人員を削減するケースもあるが、意外にも多くのITベンダーは「人が足りない」と感じている。
IT人材の量(人数)に対する過不足感
figure 2 「新卒採用」を読む
新卒社員の能力に不満!?
人材の獲得方法として有力な「新卒採用」の状況をみると──。右図では、ITベンダーが2011年4月以降に採用した新卒者数を、ITベンダーの従業員数別で示した。従業員が多いITベンダーほど、採用した新卒者が多いことがわかる。従業員30人以下のITベンダーで最も多いのは「ゼロ(採用なし)」(69.3%)で、従業員1000人超のITベンダーで最も多いのが「50人以上」(37.5%)だった。興味深いのが、採用した新卒者に対する満足度の変化だ。新卒者の人数が最も多い1000人超のITベンダーをみると、新卒者に対して「非常に満足」「おおむね満足」との回答値は67.5%。半数を超えていて、一見すると高いように感じるが、10年度と比較すると両回答の合計値は、18.2ポイントも下がっている。一方で、「やや不満」という11年度の回答は、6.8ポイント上昇し17.5%となった。新卒者に対するITベンダーの評価は下がってきており、優秀な人材を獲得しにくくなっているのが実情だ。
ITベンダーの従業員数別新卒者採用人数
figure 3 「外国人採用」を読む
中小ITベンダーが採用に積極的
国内ITマーケットの成長が見込めない状況にあって、海外進出を計画するITベンダーが増えてきた。その動きにつれて、外国人を採用するITベンダーも増加している。海外の顧客や協業会社と円滑なコミュニケーションを図るため、その土地の事情を理解して、ビジネスを成功させるためには、現地スタッフを採用するのが最適とみているからだ。ここで注目すべきは、従業員の少ないITベンダーが、外国人の採用を増やしていることだ。右図では、10年度と11年度の比較で、ITベンダーの外国籍スタッフの採用人数の増減を従業員数別で示した。300人超のITベンダーでは「増えている」の比率が減少しているのに対し、300人以下では増えている。極端なのが、1000人超のITベンダーと、30人以下を比較した場合。1000人超のITベンダーで、「増えている」の回答は17.8ポイントも減少しているのに対し、30人以下の場合は逆に28.8ポイントも増加している。従業員の多い大手ITベンダーの外国人採用はひと段落し、その一方で、海外に進出し始めた中小規模のITベンダーは、急いで外国人の採用を進めている状況とみられる。人材のグローバル化は、今は大手ではなく、中小企業が盛ん。国内ITベンダーのグローバル化は、企業規模を問わずに進んでいるのだ。
従業員別外国籍IT人材の増減
figure 4 「人材育成投資」を読む
教育投資は横ばいか減少傾向
ITベンダーは、採用した人材の育成にどれくらい投資しているか。「優秀な人材を育成したい」という願望とは裏腹に、ITベンダーは人材育成にあまり費用を投じていないし、今後も投じるつもりはなさそうな調査結果が出ている。図では、10年度の人材育成投資と、11年度の人材育成投資額の増減に関するデータを示した。この調査でいう人材育成投資比率とは、ITベンダーの年間総人件費のなかで、教育研修費用が占める割合を指す。10年度は、2%未満が49.5%でほぼ半数。11年度の人材育成投資額の増減率をたずねた回答でほぼ50%を占めたのは「昨年度とほぼ同じ」(50.3%)。この調査では、ITベンダーに勤務する従業員に対して、仕事の満足度も聞いている。その結果で、「どちらかといえば満足していない」と「満足していない」の合計回答値が最も高かった項目は、「自分のキャリアアップに対する会社の支援制度」だった。つまり、「スキルアップに向けた教育支援を会社が行ってくれない」ことに強い不満を感じているのだ。優秀な人材を求めているものの、その育成費用を増やさないITベンダー。それに不満を抱く従業員。逆の見方をすれば、魅力的な人材育成プランがあれば、ITビジネスマンの不満を解消でき、優秀な人材を確保することができるということだろう。
人材育成投資の状況