市場規模やITソリューションの成長率など、マーケット環境とか製品・サービス販売高の実績・予測データは多く発信されるが、IT業界で働く人材にフォーカスを当てた情報は、意外に少ない。日本のIT産業の就労人口はどのくらいの規模で、どのような仕事に従事しているか。どんな不満を抱えているのか。労働環境の悪さを指摘されるが、本当にそうなのか。IT産業で働く人々の今を、基本データをもとに俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「就労口」を読む
受託開発会社が64.9%
情報処理推進機構(IPA)の調べによれば、国内のIT機器・ソフトメーカー、ソフト開発会社やSIerなどのITベンダーに属する従業員数は、76万6025人(IT人材白書 2011)。IPAは、これらの従業員が所属する企業群を10種類に分けている。そのなかで最も多いのが「受託開発ソフトウェア業」で49万7355人。全体の64.9%を占める。受託開発ソフトウェア業とは、ユーザー企業・団体の要望に合わせて、顧客ごとにソフトを開発するビジネスである。同じソフト開発業でも、パッケージソフトメーカーよりも従業員数が多い。利益率が低く、成長の可能性も低いといわれるが、実は日本のIT産業の雇用を支えている。IPAは、IT企業に対して人材の「量」についても調べている。「大幅に不足している」と「やや不足している」の回答結果は全体の48.9%。「とくに過不足はない」は39.2%で、「やや過剰(削減や転職転換が必要)」が10.1%となっている。国内IT産業の規模はフラットだが、人材は足りないと感じているITベンダーが多い。
大規模なDCの新設が首都圏内で続いている状況だが、一方で、北海道、中国地方、九州地方などでも本格的なDCの構築が始まっており、IDC Japanは地方型DCの利用も拡大すると予測している。
業種別にみるIT人材
figure 2 「職種」を読む
アプリ開発者が多く、PMは不足
国内IT産業の就労人口である76万6025人の内訳を職種でみると──。日本には、経済産業省が主導してつくった「ITスキル標準(ITSS)」というITベンダーに属する従業員の職種を12種類に分けた指標がある。そのカテゴリで分類すると、最も多いのが「アプリケーションスペシャリスト」という職種で、全体の28.7%を占める。簡単にいえばアプリケーションソフトの開発者で、OSやミドルウェアの上で動作するソフトの開発を手がける人材を指す。次に多いのが「プロジェクトマネジメント(PM)」。システム開発プロジェクトの全体像を把握し、品質やコスト、進捗の管理を手がける。3位は「セールス」で、営業担当者のことだ。現時点で最も多い職種はアプリケーションスペシャリストだが、ITベンダーが欲している人材になると、順位が入れ替わり、「プロジェクトマネジメント」が1位になる。「大幅に不足している」と「やや不足している」という回答は54.5%で、全職種のなかでトップだ。
職種別にみるIT人材
figure 3 「開発者のスキル」を読む
C言語開発者が圧倒的に多い
ソフト開発者がもつ能力を示すのが右の図で、開発者が扱うことができる開発言語を表したものだ。言語ごとに「スキルを有する言語」と、「最も使用頻度が高い言語」を示しており、どちらも最も多いのが「C言語」だ。「C++」や「Java」のソフト開発者が増えているが、それでもC言語は歴史が古く、業務システム開発では最もポピュラーであるため、今でも数は圧倒的に多い。別の観点で、開発者の技術的トレンドをみている。公的機関やIT業界団体、メーカーが進めている資格で、開発者からの人気を集めているものを探った。IT技術者向け情報サイト「@IT自分戦略研究所」が2011年11月に調べた取得済み資格でトップは、公的機関の試験では情報処理技術者試験の「基本情報技術者」、IT業界団体の資格では、オープンソースソフトウェア(OSS)普及促進団体であるLPI-Japanの「Linux技術者認定試験(LPIC)」、メーカーでは日本マイクロソフトの「MCP」となっている。とくにLPICは、この調査で「今後取得したい資格」で6年連続でNo.1を獲得している。日本だけでなく世界約150か国で運用されているが、日本の受験者数は世界でトップ。特定のベンダーに依存しない中立的な資格であり、また今後成長が見込めるOSSにフォーカスしていることから、ニーズが強いわけだ。
開発者がもつ開発言語スキル
figure 4 「不満」を読む
新3Kは過去の話、むしろ将来を不安視
3K(きつい・汚い・危険)に代わる新3K(きつい・帰れない・給料が安い)といわれ、過酷な労働環境を強いる業界の代表例になったIT業界。新3Kは、ITベンダーの従業員のなかでも、主にソフト開発者を表現していることが多い。ただ、実際に働いている多くのIT業界人は、新3Kよりも不満に思っていることがある。右の図は、ITベンダーの従業員に対して複数の項目で満足度を聞いた結果だ。「きつい」はどの項目で測るかが難しいため触れないが、「帰れない」の項目に該当する労働時間で「満足」「どちらかといえば満足」の合計は55.7%、「休暇の取りやすさ」では58.4%とともに半数を超える。一方、「給料が安い」では「給与・報酬」の項目で44.5%が「満足」「どちらかといえば満足」としている。では、不満に思っていることは何か。「不満」「どちらかといえば不満」の合計値が多いのは、「自分のキャリアアップに対する会社の支援制度」(62.5%)、「社内での今後のキャリアに対する見通し」(64.2%)だ。待遇や労働環境よりも、将来に向けて自分がステップアップできる環境ではない、目指す姿を応援してくれるプログラムを会社が用意してくれないことに不満を抱いているのだ。新3Kは過去の話。今のIT業界人は所属する会社と自分の将来性を気にしている。
仕事や職場環境に対する満足度