シスコシステムズ(平井康文社長)が、パートナー体制の再編に取り組んでいる。2009年に投入したデータセンター(DC)向け次世代アーキテクチャ「Cisco UCS(Unified Computing System)」の事業拡大を狙い、これまで主にシスコのスイッチやルータの販売を手がけてきたパートナーに、UCS製品群を活用してDCソリューションとして提供してもらうために、技術サポートを強化する。パートナーが、UCSサーバーにISV(独立系ソフトウェアベンダー)が開発しているソフトウェアをプリインストールする販売モデルを目指す。パートナーのインテグレーション力を生かし、大規模な仮想環境を構築するソリューションを提供することによって、成長が見込まれるDC市場の本格開拓に取り組む。(ゼンフ ミシャ)

高橋慎介専務執行役員。日本IBMと日本マイクロソフトなどで要職務めた。日本IBMでは中堅企業向け事業のトップを務め、米IBMに移り米本社の副社長補佐を務めた経験がある。日本マイクロソフトでは、パートナービジネスを統括する執行役を務めていた。 シスコシステムズの平井康文社長は、「パートナーとより強固なコラボレーションモデルを構築する」ことを、8月1日に始まった2013年度の事業方針の柱として掲げている。マイクロソフトなど大手外資系ITベンダーでチャネル体制の変革を実行して、2012年度後半にシスコシステムズに入社した高橋慎介専務執行役員の下、パートナー戦略の再構築を推進している。
同社の米国本社は、クラウドコンピューティングの普及を受けて、データセンター(DC)で大規模な仮想環境を構築するための次世代アーキテクチャの開発に注力。2009年、サーバーや統合管理ソフトウェアから構成する「Cisco UCS」製品群を投入した。米国では、これまでのおよそ3年間、UCS製品群の販売が好調に推移してきた。中核となるUCSブレードサーバーは現在、ヒューレット・パッカード(HP)とIBMに次いで、第3位のメーカーシェアを握るようになっている(米IDC調べ)。一方、日本では、「UCSビジネスに適した販売体制が十分に整っていない」(高橋専務執行役員)ことがネックとなり、UCS製品群の展開が米国と比べて遅れているのが実態だ。
高橋専務執行役員は、「当社の販売パートナーの多くは、スイッチやルータをはじめとする従来製品しか販売していない。千数百億円に上る2012年度の売上高のうち、スイッチ/ルータの販売が大半を占めている。さらに、売り上げに大きく貢献する販社の数が少ないのが課題だ。2012年度の売上高の80~90%を、ネットワンシステムズや伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)など、6社のパートナーだけで稼いでいる」と、現状の販売体制の弱点を語る。
シスコシステムズは、これまで高品質なスイッチ/ルータをパートナーに提供し、パートナーの利益を確保する戦略をとってきた。しかしその一方で、パートナーの技術支援に関してはどちらかといえば消極的であり、パートナーがスイッチ/ルータ以外の製品を本格的に取り扱うための基盤を築いてこなかった。そうした状況にあって、高橋専務執行役員は就任して数か月の短期間に、「スイッチ/ルータ以外の製品も販売してもらうことを狙いとして、パートナーにプレッシャーをかけると同時に、技術サポートの強化に取り組んできた」と述べる。
同社は、技術サポートの具体的な施策として、パートナーにUCS各製品の体験版を提供し、「当社製品の優位性を体感してもらいながら、ソリューション展開に必要なテクノロジーのノウハウを提供する」(高橋専務執行役員)という。
シスコシステムズは、UCS製品群を単体ではなく、ISVが開発しているソフトウェアをプリインストールしたかたちで展開することを目指している。現時点では、NTTデータと三井情報のパートナー2社が、データ処理用のインメモリ型ソフトウェア「SAP HANA」をUCSサーバーに組み合わせて、DC向けソリューションとして提供している。シスコシステムズは、これを先行事例として、今後、パートナー向けの支援を強力に推進しながら、「UCS×ISV製品」の販売モデルを本格的に立ち上げていく。
表層深層
7月31日に決算期を終えたシスコシステムズの2012年度のグローバル売上高は、461億米ドル(約3兆6880億円)。前年度比6.6%の伸びだ。その成長エンジンの一つとなったのが、UCSビジネスである。
UCSビジネスは、日本で本格化するのはこれからだが、グローバルではすでに順調に伸びている。UCS製品群にISVのソフトウェアを組み合わせて提供するモデルも、大口受注の事例が出てきている。例えば、インドに本社を置き、鉄鋼や石油などの事業を展開するエッサール・グループ。同グループは、インドをはじめ、グローバルで500社以上の企業を運営している超大手だ。全社規模で「SAP HANA」の実装を行い、実装をサポートするために、シスコのUCS製品を導入した。UCSビジネスの有望性を裏づける大型案件の受注だ。
日本では、ネットワングループのディストリビュータであるネットワンパートナーズが、この10月にシスコのUCSサーバーのCTO(注文仕様生産)販売を開始した。同社は、サーバーに搭載するCPUやメモリなどの主要部品を在庫として保有し、組み込みと出荷検査を日本国内の施設で行う。これによって、システムインテグレータ(SIer)に出荷する製品の納期を、数週間かかっていたものを1週間に短縮することができる。
シスコシステムズは、ネットワンパートナーズを通じてSIerの開拓を目指す。日本でも、UCS製品の強みを事業拡大につなげようとしている。