大手ネットワーク機器メーカーのシスコシステムズ(平井康文社長)は、2010年10月に開始した、従業員数5~99人の企業をターゲットとする「スモールビジネス」の事業展開に拍車をかける。「スモールビジネス」は、伸び率は大きいものの、売り上げの規模がまだ小さく、販売代理店ではシスコがスモール企業に適した製品を扱っているという認識が薄いとみたシスコシステムズ。8月から始まる新年度に、営業体制を改革するほか、2次店の新規開拓と販売支援を加速化する。スモール企業への展開に加え、もともとパイプを太くしている大手企業の支社・支店への導入を狙い、シェアを拡大していく方針だ。(ゼンフ ミシャ)
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パートナービジネス アーキテクチャ ビジネス推進 高村徳明部長 |
シスコシステムズは、2010年10月、エンタープライズ(大企業)やパブリック(公共分野)、SP(サービスプロバイダ)への製品展開に加えた新規事業として、従業員数が100人以下の企業をターゲットにして、必要十分な性能と低価格を実現したルータやスイッチなどを提供する「スモールビジネス」を開始した。
ボリューム販売で収益を狙う「スモールビジネス」への参入は、大手企業などの大規模システムを得意としている同社にとって存在感が薄いうえに販売網を築いていない市場へ挑戦していくことを意味している。同社は「スモールビジネス」の販売展開にあたり、ダイワボウ情報システムとソフトバンクBBの二社を1次販売店としており、これまで約580社の2次販売店を新規パートナーとして獲得してきた。
「スモールビジネス」の指揮を執っているパートナービジネス アーキテクチャビジネス推進の高村徳明部長は、現段階での事業進捗について、「今年度の第3四半期(2011年2~4月)に、売り上げが前四半期比で280%と大きな伸びをみせた。だが、当然ながら、まだ売り上げの母数が小さい」と語る。シスコシステムズは、新規事業のスロースタートの主な理由について、小規模企業を相手にした市場には、ヤマハやバッファロー、アライドテレシスなど、ローカルの強い競合がひしめいており、販売代理店の間では、シスコシステムズが使いやすくて低価格なスモール企業向け製品を取り扱っているという認識が低いためとみている。
シスコシステムズは、製品のローカライズに時間がかかり、米国など海外市場と比べて「スモールビジネス」の日本での提供が遅れていることもあって、今年8月から始まる新年度に、事業展開を大きく加速化していく。事業の成長とマーケットシェアの拡大を目指し、営業体制とパートナー戦略の強化を柱として、「スモールビジネス」に活を入れる。
高村部長は、「これまで、少人数の専門チームが『スモールビジネス』製品の営業を担当していたが、8月1日からその体制を変えて、当社の全セグメントで展開していくようになる」と語る。全社挙げての営業体制を採ることによって、他の部署/製品との相乗効果を図り、スモール企業にとどまらず、もともと同社がパイプを太くしている大手企業の支店や部門単位での導入を狙う戦略だ。高村部長は、「大手薬品メーカーなどが、『スモールビジネス』製品を自社の支店に導入するなど、ブランチでの案件が出ている」と、もともとは想定していなかった分野での手応えを感じている。
同社は、営業体制を改革することに加え、パートナー戦略を強めていく。これまで獲得した2次販売店の約580社を1000社以上に拡大して、2次販売店に機器を無償提供して実物に触る機会を設けたり、トレーニングなどのかたちで「スモールビジネス」製品に関する知識を向上させることによって、「『シスコの製品は難しくて、価格が高い』というイメージを払拭したい」(高村部長)と意気込みを示す。
シスコシステムズは、LANスイッチやルータの需要にけん引され、5~99人の企業規模のITインフラ投資が、2011年の約717億円から、2014年をめどに約830億円に増加するとみて、「スモールビジネス」の展開を急いでいる。来年に向けて、米国などではすでに発売している新製品を日本にも投入し、製品のポートフォリオを拡充する。高村部長は、「ネットワーク機器をトータルで提供できる点が、当社の大きな強み。また、幅広いラインアップに加え、運用管理サービスなどのサポートによって、競合との差異化を図っていく」という。
マーケットシェアの目標については、高村部長は口を閉ざすが、「(8月から始まる)事業展開の2年目は、ゼロから積み上げていく」と、シェアを少しずつ上げていく方針をほのめかしている。
表層深層
シスコシステムズは、4年ほど前から「スモールビジネス」を米国やヨーロッパで展開しており、海外での順調な売れ行きを踏まえて、昨年秋に日本での事業開始を決めたという。
しかし、日本では、米国をはじめとする海外の市場と比べて大きく異なる点がある。シスコシステムズに対して、販社やユーザー企業が抱くイメージがそれだ。「有力な外資系メーカーであり、製品の性能や機能性が高く、大手企業などのハイエンドマーケットを得意とするシスコ」──。同社がこれまでの日本でのビジネス展開で大きな強みとしてきたことが、小規模企業の市場開拓にあたっては、逆にネックとなりそうだ。
高村徳明部長は、米国ではローエンド市場においてもシスコの認知度が高く、「スモールビジネス」をスタートしたときに、時間をかけて、販社の啓発活動に力を入れる必要がなかったという。それと異なり、日本では地道な啓発活動によって、「シスコ=高価格」というイメージをいかに払拭するかが、成否のカギを握ることになるだろう。
高村部長は、「スモールビジネス」を成功に導くために、「これから先、倍々ゲームのような速度で売り上げを伸ばしていかなくてはいけない」と、自らハードルを高くする。
シスコシステムズは、新規事業の名称を「スモールビジネス」と名づけたが、回収モデルの面からすれば、それを、今後“ビッグビジネス”へと成長させていく必要がある。