基幹システムで国内に残された「参入障壁に守られる市場」は、徐々に消滅する──。NTTデータイントラマート社長の中山義人の“大胆予測”に、ピー・シー・エー(PCA)社長の水谷学は、真っ向から反論する。1995年以降の熾烈な争いの経験がその背景にある。北米で市場を席巻する会計ソフトウェア会社、米インテュイットが日本市場に参入したものの、10年もたずに撤退。「商慣習の壁は依然大きい」と水谷はみる。(取材・文/谷畑良胤)
北米市場のヒット製品で、現在も市場を拡大し続ける会計ソフト「Quick Books」を開発・販売する米インテュイット。日本市場に参入したのは1995年。当時、国産会計ソフトでシェア上位を占める「大番頭」のミルキーウェイと「弥生会計」の日本マイコンを次々と買収した。2大ソフト会社を手中に入れたインテュイットが日本市場を席巻することを疑う者は少なかった。
だが、2003年。当時のインテュイット日本法人社長、平松庚三らのMBO(経営陣による買収)で、あえなく撤退。米国で売れに売れている「Quick Books」を売りたかったインテュイットは、「頻繁に変更される会計制度や税制などに製品を適合することができなかった」。PCA社長の水谷は、当時はソフト開発責任者の地位にあって、外資系ソフトベンダーの進出に気を揉んでいた。しかし、結果的には日本の商慣習の壁を乗り越えるのが簡単でないことを改めて確信し、自信を得た。
実は米インテュイットは、最近、欧州からも撤退を余儀なくされた。「Quick Books」は、同社のカナダ法人が開発した小規模企業向け会計ソフトだ。経理の知識がなくても、請求書や領収書の金額などをを入力すれば会計処理が簡単にできることを売りにしている。紙ベースの会計処理で、いまだに税理士任せの会社は日本に多い。だからこそ、「Quick Books」は日本市場を席巻する──。業界関係者は、誰もがそう予想した。だが、革新的な技術があっても、国固有の商慣習には勝てないことを歴史が証明したのだ。
PCA社長の水谷は、公認会計士でもある。突き詰めれば突き詰めるほど、日本の会計制度は外資系ソフトベンダーにとっては対応しにくい面がある。国内会計ソフト市場は、成熟しており、競合も乱立している。それでも水谷は「伸びしろはある」という。12年3月期は連結売上高が約65億円のPCA。「3倍は伸ばせる」。水谷の顔は自信に満ちている。

秋の「PCA戦略フォーラム」で、販売パートナーを前に「コラボモデル」の構築を呼びかけるPCAの水谷学社長。(左下は、「PCAクラウド」のスマートデバイス版)
その背景には、クラウドコンピューティングの普及がある。08年5月。競合に先んじてSaaS版の基幹ソフト「PCA for SaaS」を発売し、現在約1500社の導入実績を積み上げた。第一期のデータセンター設備の投資は減価償却を終え、次の拡張を計画中だ。最近、サービスの名称を「PCAクラウド」に変更して、「PCAクラウドAPI」と呼ぶクラウド開発環境も用意した。
PCA社長の水谷がAPIを出すきっかけとなったのは、都内の家電量販店、ヤマダ電機を訪れた時のことだ。あるテレビの裏側を見ると「REGZA」と表示されている。このテレビはヤマダ電機のプライベートブランド(PB)なのだが、機能を減らして安価な製品に仕立て上げているのだ。「既製品は価格競争に巻き込まれる」。水谷は意を決してAPIの開発を指示した。昔のように“自前主義”では勝てない。販売パートナーが同社製品との連携製品を加え、PB商品(水谷はこれを「コラボモデル」と呼ぶ)をつくる環境が必要だと考えるに至った。
クラウド・サービスで国内会計ソフト業界をリードするPCA。仮に価格競争が起きても、施設投資の償却は終えているので、「いくらでも安くできる」(水谷)と語る。[敬称略]