中堅・中小企業(SMB)向け会計ソフトウェアを中核製品とする大手業務ソフトベンダーは、2012年、クラウド・コンピューティングとスマートモバイルに関連するビジネスを加速する。本紙が1月中旬に実施した大手5社の座談会で各社の経営トップは、成長戦略の一環として、これらの強化策に言及した。オービックビジネスコンサルタント(OBC)は、自前のクラウドサービスを今春に開始。ピー・シー・エー(PCA)も、今秋に既存主力パッケージソフトのクラウド提供を始めるほか、弥生は個人事業主向けに仕訳知識不要の財務用クラウドサービスを今春にサービスインする予定だ。2011年、各社は東日本大震災の影響を免れて、好業績が目立つ。2012年は、新サービスで新規領域を開拓し、継続的な成長を確実なものにする。(谷畑良胤/信澤健太)
本紙は1月中旬、OBC、PCA、弥生、応研、OSKといった国内大手5社の経営幹部が参加する座談会を開催した。このなかで、各社の経営トップは、2012年の成長戦略を明らかにした。
まず、製品の販売面では、PCA、OBC、弥生が、クラウド事業を本格的に展開することを明言した。
PCAは、クラウド事業を2008年に開始し、この事業の黒字化を果たしている。今秋にも最新版の業務パッケージソフト「Xシリーズ」をクラウドで提供する計画だ。水谷学社長は、「当社のクラウド事業は、2011年に前年比で2倍程度に伸びた。規模は数億円と小さいが、さらに伸びる可能性がある」として、クラウドサービスの拡大は企業の成長に欠かせないと語った。また、「競合他社がクラウド・サービスの提供を本格化することで、販売・財務・給与のソフトを中心としたクラウドサービスが伸びる」(同)と、他社の追随を歓迎している。
OBCは、同社初となるクラウドサービスを「3月か4月に開始する」(和田成史社長)ことを明らかにした。プライベート版の自社基盤とパブリック版であるマイクロソフトの基盤「Windows Azure」を使ってサービスを提供する予定だ。和田社長は、「当社のMS/DOS版の『奉行21シリーズ』を使っているユーザーだけで、依然として数万社があり、こうしたユーザーなどに対してクラウドサービスを提供する」という方針を明らかにした。既存顧客のリプレースだけでも十分なクラウド需要を見込めると踏んでいるようだ。
これまでに、「Azure」を利用するオンラインストレージサービス「OBCストレージサービス」を提供しているが、クラウド事業の本格展開には、慎重姿勢を貫いてきた。しかし「OBCクラウドという新しい形式のクラウドサービスを提供する」(和田社長)ことで、クラウド事業のアクセルを踏もうとしているのは確実だ。
弥生は4月、クラウドサービスを「弥生オンライン」の名称で提供を開始する。同社が“半自計化”を支援し、会計ソフトを使わずに手計算している個人事業主などへの普及を目指す。岡本浩一郎社長は、「これまでの『弥生会計』のユーザーよりも規模の小さい新規層を、会計事務所と一緒に開拓する。日報の代わりに入力するだけで、自動的に仕訳できる仕組みを提供する」と、会計ソフトをまだ使っていない層への浸透を図り、中期的な成長を目指す。
一方、OSKと応研は、業種・業界特化とスマートモバイルで市場開拓をしていく方針を明らかにした。OSKの宇佐美愼治社長は、「これから力を入れるのは生産管理だ」という。すでに、生産管理システム「遉(さすが)」や「CoRE-Chain」を取り揃え、業種特化の製品を拡充してきた。「モバイル対応にも積極的に取り組む」ことも明らかにしている。
応研は、2011年度(11年12月期)の成長に大きく寄与した売上・仕入・在庫統合型システム「販売大臣」の業界・業種テンプレートを拡充する。得意先分類、仕入先分類などを大幅に追加できる「DBアドバンスユニット」を活用し、近年増加傾向で好業績を支えている大規模ユーザーの開拓を推進する。さらに、モバイル事業の確立を急ぐ。上野眞宏・取締役開発部長は、「iPhoneで利用できる『販売大臣NX スマートフォンユニット』が非常に好評だ。12年はこれを柱に関連製品の販売拡大を目指す」と、11年度に前年度比で2ケタ成長した勢いの持続を図る。

業務ソフトベンダーの2012年の重点施策
表層深層
座談会で各社に共通していたのは、「2011年は好業績だった」という発言である。国内景気の低迷を尻目に、各社が投入した製品・サービスがユーザー企業に支持を受けたというのだ。
座談会を通じて目立ったのは、PCAの競合各社に対する対決姿勢だ。水谷学社長は、「スタンドアロンの時代には当社は絶好調だった。だが、ネットワーク版への対応をためらったために、OBCとの差が広がった。今後はクラウドの時代。クラウドで先行する優位性を生かし、差を縮める」と述べた。PCAは、このほかにも社会福祉法人向け会計システムの販売実績で先行する応研を、クラウドサービスを武器に追撃する構えをみせる。応研は、「PCAに負けるわけにはいかない」(上野眞宏取締役)としており、市場の主導権争いが激化しそうだ。
PCAに追われる立場のOBCは、「iシリーズ」に加えて中堅企業向けの「奉行V ERP」の販売も好調で、12年度(13年3月期)はリーマン・ショック後の苦境を脱する勢いだ。和田成史社長は、「強みはパッケージとしての完成度の高さだ」とアピール。クラウドサービスをリリースすることで、小規模法人から中堅企業まで幅広い層を取り込む。
各社は、従来と異なる製品・サービスの投入や新規領域の開拓で、持続的な成長ができると判断している。PCAだけでなく、OBCも含めて大手メーカーのクラウドサービスの足並みが揃い、クラウド市場の成長につれて業務ソフト市場も発展が期待できる。(信澤健太)