米オラクルには、『ムーアの法則』ならぬ『ラリーの法則』がある。何でも2倍にするという考え方だ。米オラクルCEOのラリー・エリソンは「何でも2倍にしろ」と技術者に命じる。この言葉は、開発者が使うオラクルの隠語だ。同社は、10月、米国で開催した自社イベントでIaaSへの参入を表明した。日本オラクルの幹部は、帰国後、記者の耳元でささやいた。「Google、Amazonに戦いを挑む」。パブリッククラウドで独立系ソフトウェアベンダー(ISV)の囲い込みが始まる。国産ISVはどう向き合うか──。(取材・文/谷畑良胤)
「日本のIT産業には、参入障壁のすき間があった」。NTTデータイントラマート社長の中山義人は、外資の入れない領域で、あぐらをかいてきた国産ISVに警鐘を鳴らす。サンフランシスコで米オラクルのイベントが開催された時の話だ。併設する「Java One」に参加した後、中山は米国の数か所を巡った。次世代システム基盤「intra-mart Accel Platform」などを販売してくれるパートナーを探すためだ。
中山は、純国産ERP(統合基幹業務システム)「Biz∫(ビズインテグラル)」を開発・販売するNTTデータビズインテグラル社長も兼務している。「ERPのコモディティ化は加速している。価格競争は激烈だ」。販売会社からみれば、追加開発など派生ビジネスの期待が大きかったERPも、価格の叩き合いで儲けを生みにくくなった。ERPでさえ、定価の半値はあたりまえの状況。クラウド・サービスでERPを売り、今は顧客基盤を固めて、IT業界にも降りかかるデフレからの脱却を待つしかない。
締め日の翌月払い、2バイト文字……。わが国独特の商慣習や日本語文化などが、ERPなどの領域で外資の参入を阻んできた。「すき間とは?」の問いに、中山は、国産ISVが“黒船の襲来”を回避できていた領域を列挙する。日本独自の専用通信回線を使うEDI、日本の法制度に縛られる人事・給与体系、独特の決済フロー環境があったワークフローなどなど。
しかし、国内産業が成熟し、GDP(国内総生産)の伸びも低調。国内企業は、必然的に海外へシフトする。10年ほど前までは、新興国は低賃金で雇用できる人材豊富な“工場”にすぎなかった。一転、今は日本市場の低迷を補填する“代替市場”へと姿を変えた。グローバル対応の潮流にあって、日本固有の慣習や文化は、少しずつ消えていった。
それにつれて、企業の情報システムについても、日本の商慣習への対応に弱点をもつSAPやオラクル、マイクロソフトなどのグローバル対応のアプリケーションが売れ始める。「国産ERPというだけでは通用しない」。NTTデータイントラマートを率いる中山は、だからこそ、プラットフォーム戦略に大きく舵を切っている。「自社単独では外資に勝てない」。単に寄り合うのではない。国産ISVの強みを基盤上に集積するのだ。
「世界的には、外資系大手ITベンダーへの資本集約が起きている」。東アジアで実績を上げつつあり、欧米にも視野を広げる中山は警戒する。特徴のないアプリは消え、尖ったアプリは外資に吸収される。「とにかく今は『intra-mart Accel Platform』を磨く」。ライバルはGoogle、Amazon、Salesforce。オラクルまでがここに参戦。技術を磨くこと、ビジネスモデルを確立することは、待ったなしだ。
国内に残された「すき間」は、徐々に消滅。NTT傘下のNTTデータイントラマートはまだしも、そうでないISVにとっての市場は、欧米外資が参入していない新興国になる。
NTTデータイントラマートが10月に開催したパートナーイベント「Enterprise Web Solution 2012」では、中山義人社長が新プラットフォームを発表した(東京・恵比寿のウェスティンホテルで、囲みの中は、イベント中に突撃質問をした本紙の谷畑良胤編集長)