輸出金額に対して輸入はその100倍──。2000年にIT業界団体が公表したソフトウェアプロダクトの輸出入比率だ。現在の数値を表す信頼できるデータは見当たらない。極端な構成比率だが、今も大きな変化はないだろう。日本市場にこだわるピー・シー・エー(PCA)社長の水谷学だが、かつて、海外進出を果敢に挑戦したことがある。だから、海外進出をまったく検討していないわけではない。しかし、当時のトラウマが水谷を国内に向かわせている。(取材・文/谷畑良胤)
PCAは、2000年、ITの利活用が急激に進み、経済発展も著しいマレーシアに進出した。英国製で多言語多通貨の機能をもつERP(統合基幹業務システム)のOEM供給を受け、一部機能を追加した「PCAワールドモデル」という製品名で売り出した。
この開発には、水谷自身が責任者として携わった。「ユーロ圏の3通貨換算の問題があって、英国の製品を使った」。このモデルの日本語化も行って、マレーシアに現地法人を置く日系企業などに販売した。しかし、現地の安価な会計製品に惨敗してしまった。「売れる地域を見極めてマレーシアを選択したが、地場を知り尽くすベンダーには勝てなかった」(水谷)と、この時の悔しさが国内で外資の進出を許さない、頑なな方針へと向かわせた。
「PCAワールドモデル」は、わずか6年で撤退。ただ、「多言語にはいつでも対応できる」と水谷がいうように、必要があれば海外へ踏み出せるわけで、ムダな投資ではなかったようだ。
これで世界を制覇したい──。NTTデータイントラマート社長の中山義人は、シンガポールで実現した協業が実を結びつつあると口元を緩める。シンガポールで生命保険会社向けに高いシェアをもつパッケージソフト会社に、NTTデータイントラマートの次世代システム基盤「intra-mart Accel Platform」をOEMで提供しているのだ。このOEM方式で、徐々にシンガポールでの売上高を伸ばしつつある。
NTTデータイントラマートは、中国・香港の営業事務所を通じて東アジアでこうした案件を複数獲得している。このシステム基盤が海外諸国でトップシェアのパッケージに関連して現地企業に普及すれば、プラットフォームの分野で「世界制覇」ができる。これが中山の夢だ。「規模をどれだけ追えるか、今はそこに集中している」(中山)。「intra-mart Accel Platform」が世界の基盤になれば、同社と関連する国産アプリケーションも、一緒に世界へ出ることができる。「All Japan」。同社を媒介にして、日本ソフトの結集が実現する可能性は十分にある。
PCAは「国内重視」。一方、NTTデータイントラマートは「海外」を視野に入れている。この状況をみて、国内だけのベンダーは消極的、海外に出ているベンダーは積極的と、単純に区分することはできない。国内の中小企業向け販売・財務・給与ソフトの市場はすでに成熟したといわれる。海外をにらんで国内市場を拡大するには、相当の体力が必要となる。両社に共通しているのは、この難題にクラウドを武器にして挑んでいることだ。
PCAの水谷は、「国内の限られたパイをクラウドで獲る」と、残された国内の“ブルーオーシャン”を攻める。安価でも顧客数が増えてデータセンターの稼働率が上がれば、利益率が大幅にアップする。水谷にはそんな思惑がある。
NTTデータイントラマートの中山は「海外の価格要求にクラウドで対応する」と、安価な提供でアジア領域でパイを広げようと躍起だ。すそ野が広がれば、あとはシステム基盤に乗せるモノを追加するだけで商売ができる。クラウドの技術革新を進め、果敢に挑む時期にきている。[文中敬称略]

MIJSとBCNが共催で中国・上海で実施したセミナーでは、両国ISVの協業が拡大するかにみえたが、尖閣問題以来、暗雲が立ちこめている(写真と本文は関係ありません)