中国ITベンダーの日本法人は、主にオフショア開発の受注窓口として成長を遂げてきた。だが、中国のシステムエンジニアの賃金が急騰したり他国との競争が激化したりするなかで、新たな施策を打ち出すことが求められている。日本企業向けの中国進出コンサルティングや、日本製パッケージの中国での販売などに乗り出した中国ベンダーを取材した。(取材・文/信澤健太)
【中軟東京】
中国進出コンサルティングに注力
日本製パッケージの販売パートナーへ

中軟東京
于晞社長 中国軟件与技術服務股分有限公司(CSS)は、税務、タバコ産業、エネルギーなどの分野を得意分野としており、従業員は2011年末時点で1万2000人を超えている。その強みは、中央政府の人脈に加えて、国営銀行などのミッションクリティカルなシステムを開発してきたことにある。売り上げの半数は政府向けだが、近年は民間企業向け事業のテコ入れを図っている。
2001年に、グローバル展開の一環として欧米と日本の市場の開拓を開始した。日本に向けたオフショア開発事業の拠点として、北京本社と大連に開発部門を設置。2003年に設立した日本法人である中軟東京が、日本企業の中国進出コンサルティングやソフトウェア開発を手がけている。中軟東京の于晞社長は、「来年で10年目を迎える。これまでオフショア開発の受注窓口としての役割を担ってきて、年間1億円ずつ売り上げを伸ばしてきた」と話す。
そんな景気のいい話も、リーマン・ショックで大きく変わった。売り上げは下降傾向に陥り、2011年の東日本大震災が追い打ちをかけた。「コスト抑制のために企業が自社グループで内製化する傾向が強まった。社内のシステムエンジニアが中国に帰国してしまう事態も起きていた」(于社長)。
危機感を抱いて、最近力を入れているのが日本企業向けの中国進出コンサルティングだ。具体的なメニューとして、会社設立から会計・税務・法務支援、現地法人の運営、リスク管理、中国国内向けの市場戦略の策定など、メニューを幅広く揃えている。すでに、実績がいくつかある。例えば、スポーツクラブが中国国内に出店するにあたって、開業前の現地銀行などとの交渉を支援。国内で利用していた会員管理システムをカスタマイズして、中国の店舗にも導入した。
このほか、ソフトウェアライセンスのサポートデスクを設けた。中国はソフトやデジタルコンテンツの海賊版が多く、諸外国の反発を受けて違法使用の取り締まりが厳しくなっている。「中国でのライセンスを未購入なので、直ちに購入してください。もし、数週間以内に購入しない場合は弁護士を通じて訴訟を起こします」といった突然の通告を受けることは珍しくない。中軟東京は、ライセンス相談の窓口となって、ライセンス購入手続きや決済の代行、現地販売会社、中国人弁護士の紹介などを手がける。現地では、CSSや提携先の日系SIerがサポートする体制となっている。
中国進出を狙うSIerに対する支援実績はまさにこれからだ。パッケージの業務適合度を中国本社で検証し、OEM(相手先ブランドによる生産)契約を結んだCSSが中国で販売するシナリオを描いている。「政府から無条件で受注できるので、日本のSIerにとってメリットが大きい」(于社長)。期待している商材がいくつかあり、日本の地方ベンダーとの商談が進んでいる。
【YIDATEC日本】
付加価値のあるオフショア開発で勝つ
大手SIerの下請けに甘んじない

崔海紅
社長 「YIDATECは、単純なオフショア開発事業者ではない。日本企業のビジネスパートナーだ」。YIDATEC日本の崔海紅社長は、こうアピールする。オフショア開発をはじめ、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)や人材育成、新規拠点の立ち上げ支援などを手がけ、近年急速に事業を拡大している。
YIDATECの前身は、大連への企業誘致やビル管理などを手がける大連軟件園股份有限公司(DLSP)のIT事業部だ。2004年9月に、大連ソフトウェアパーク日本(現・YIDATEC日本)を設立した。その2年後、DLSPから独立したIT事業部が大連軟件園諮詢服務有限公司(YIDATECの前身、SPCS)を設立し、大連ソフトウェアパーク日本の全株式を取得。SPCSが大連億達信息技術有限公司(YIDATEC)に名称変更したことに伴い、2009年からYIDATEC日本として、日本市場の開拓に努めている。
崔社長は、「会社全体で2500人弱で、年間売上高は約3億元、毎年50%以上の率で伸びている」と話す。グループ拠点は、大連本社をはじめ、北京、上海、深セン、成都、シドニー、東京の計7拠点。当初、日本向けのビジネスが全体の売上高の約80%を占めていたが、現在は約60%に落ち着いている。

和田康志
担当部長 YIDATEC日本の位置づけは、中国のリソースを活用したいとか、中国に進出したい日本企業向けの営業拠点だ。BPO、オフショア開発の新規案件の獲得に取り組んでいる。崔社長は、「2006年に会社を立ち上げた際に考えたのが、日本の大手SIerに頼っていてはダメだということだ」という。単なる下請けに甘んじず、システム構築から業務支援まで、独自性の高い事業を展開することで、生き残りを図っている。「業務そのものをアウトソーシングしてもらい、コストや業務の効率化に貢献する」(和田康志・営業開発本部営業担当部長)。日本では、約30社の顧客をもつ。
独自性が現れている事業の一つが、人材育成への取り組みだ。資格学校を運営するTACと合弁会社として泰克現代教育(大連)有限公司を設立し、日系企業と中国企業向けに日本語、IT、ビジネススキル、簿記会計、経理実務などの教育事業を展開している。現地の大学とも提携して、日本語教育を受けた学生をパートナー企業や日本の顧客に紹介している。
崔社長は、「BPOは単なるデータのエントリーというイメージが強いが、そうではない。業務そのものだ。数百人単位でリアルタイムにデータ処理や分析作業をしている。業務を深く理解し、英語や韓国語、日本語など多数の言語に対応してアジアパシフィックのほとんどをカバーしている」と強調する。日本語のうち、関西弁の問い合わせにも対応できるという。
なお、2013年には、YIDATECグループ企業と香港中華石炭ガス傘下の企業との合弁会社が設立したデータセンターが稼働を開始する予定。ラック数は約90という。
【大連ニューランドシステム】
「日本のSIerのビジネスパートナーになる」
地方でのパートナー開拓を推進

劉勁柏
社長 大連ニューランドシステムは、2006年4月に大連ハイテクパークで誕生して以来、日本向けのオフショア開発を主な事業としてきて、2008年に日本法人を立ち上げた。ここ数年は、中国国内の事業展開を加速しており、日本と中国の売り上げ比率は55:45程度となっている。
劉勁柏社長は、「社員の満足度が高くなければ、会社の発展はない。社員の誕生日を皆で祝ったり、自社のSWOT分析をしたりしており、民営企業では社員の定着率はかなり高いほうだと思う。2009年と2010年は、定着率がほぼ100%だった」と話す。
日本法人は、これまでのオフショア開発の受注窓口という役割のほかに、独自商材の販売やSIerの中国進出支援というミッションを負っている。得意分野は物流システムの開発だ。在庫管理や需給配車のシステムなどの開発実績がある。劉社長は、「オフショア開発だけでは生き残りが難しい。中国開拓における日本のSIerのビジネスパートナーになる」と話す。
同社が設計開発したものに、パーソナルユースの放射線測定器「XC-1 86062011型」がある。放射線量の計測機能と表示機能、アラーム機能(設定した規準を超えた場合)を搭載している。百貨店の髙島屋で販売している。劉社長は、「とにかく新しいことを始めて、あらゆる可能性を模索している。今後はJA(農業協同組合)向けに放射線測定器を提供することも考えている」と語る。
日本のSIerとのパートナーシップで特徴的なのが、地方とのつながりだ。有力な地場SIerからはオフショア開発やBPOなどを請け負っているほか、製品販売でも提携を進めている。2013年には、長野県の有力SIerである電算が開発するワークフロー製品の中国での販売に乗り出す計画だ。今後は、こうした事例を増やしていく考えである。
劉社長は、「日本の方法論をそのまま中国にあてはめるのは大間違い。中国の場合、日本と違ってほとんどが前金で、例えば、最初に30%、その後、30%、30%、10%と段階を踏んで支払うことがある。そのほか、納期を守らないだとか、契約書ありきだとか、独自の商慣習を踏まえる必要がある。当社は、中国で実績があるので、パートナーとして活躍できる」と訴える。