【大連発】中国・大連市にあるソフトウェア産業基地「大連軟件園(DLSP、大連ソフトウェアパーク)」は、得意とするITO(ITアウトソーシング)とBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の業務を拡充するため、産業分野別のサービス事業を開始した。このほど週刊BCNの取材に応じた同パークの田豊・副総裁は、「この1年で、内外の入居者が約4000人増えた」ことを明かし、2008~09年のリーマン・ショックの影響が微小だったと、サービス事業など新規事業開拓に向けて再び舵を切る方針だ。
不況下でもアウトソーシング30%増 大連市は遼寧省南部に位置する地級市(地区クラスの市)である。人口は約211万人。大連市と同じ緯度には、日本の仙台市や米国のサンフランシスコ市がある。夏場は30℃を超す日が続くが、湿度が低くて過ごしやすく、気候は日本の札幌市に似ている。
大連市の西郊外の旅順沿い、黄海を望む巨大な敷地に「大連ソフトウェアパーク」がある。市内中心部とは異なり、駐車場には高級車がずらりと並んでいる。ここに勤めるエンジニアは、一般市民に比べて高給であることがよく分かる光景だ。
大連ソフトウェアパークは、ソフト開発・研究開発のITOとデータ入力やコールセンター、総務・人事会計業務のBPOなどで大半の収益をあげている。リーマン・ショックによる世界経済の冷え込みにより、IT業界の受託件数・売上高が減少する憂き目にあったのは、中国も例外ではない。だが、蓋をあけてみれば、遼寧省のIT産業は、「2009年は前年に比べて30%超の増加を果たした」(胡斌・同省商務部外資司副司長)という。この好調ぶりから、世界からアウトソーシングの受託を再び拡大するチャンスだと捉えている。
遼寧省のIT産業発展の基軸となっている大連ソフトウェアパークは「09年初頭には、受託案件が激減し、パーク内の施設などの開発プロジェクトを縮小・凍結した」(田・副総裁)。しかし、09年後半から持ち直し、最近では日本航空(JAL)からマイレージカードのデータ入力を受託するなど、2010年に関しては、「1~5月だけで、09年1年間に相当する収益を計上することができた」(同)そうだ。リーマン・ショックの影響が極小だったことから、09年後半から施設などの拡張と、事業拡大に向けた新戦略を開始。中国IT産業の「スピード感」をここに垣間見ることができる。

大連ソフトウェアパーク内の大会議室で週刊BCNの取材に応じる田豊・副総裁(中央)。右は同パークの田新・高級経理、左は週刊BCNの谷畑良胤・編集長
金融などの人材育成体制を拡充  |
| インタビューでは「リーマン・ショックの影響は極小」と、大連ソフトウェアパークの事業が安定的に伸びていると答える田豊・副総裁 |
6月23日に大連市内で開催されたイベント「2010 中国国際ソフトウェアと情報サービスアウトソーシング年会(CSIO)」では、遼寧省の王金笛・対外貿易経済合作庁庁長が大連ソフトウェアパークを核とする成長戦略をこう語った。「経済特区の瀋陽市や大連市を含め、これだけアウトソーシング産業が集約された地域はない。アウトソーシング体制を全面的にグレードアップする」。これを受けて、田・副総裁に具体的な内容を問いかけたところ、「ITO/BPOを産業分野別にサービス体制を拡充する」との新戦略を示した。
田・副総裁によると、大連ソフトウェアパークでは当面、「金融」とCADなどの「工業デザイン」「通信」で、人材育成用の教育トレーニング体制を強化。近隣の大学や入居する外資系ベンダーの米シスコシステムズや米IBMなどと組み、ベンダー内トレーニングも本格化し、スキル向上を図ることが計画されている。
これに関連して「通信」では、中国第2位の携帯電話通信キャリアで3G携帯電話サービスを開始したチャイナユニコム(中国聯通)と組み、データベース管理やシステム開発などでのアライアンスが進行中。田・副総裁は「中国内の金融機関向けデータエントリー(データ入力)などでは、独占的に大連ソフトウェアパークが担っている」と語る。この実績をもとに世界の金融機関からの受託を増やそうとしているのだ。
現在、大連ソフトウェアパークとシンガポールに本社置くアセンダスグループとの合弁で、6棟のオフィスビルにライフ、レジャーを一体化させた総合ITパーク「大連アセンダスITパーク(大連軟件園騰飛園区)」の建設が急ピッチで進んでいる。田・副総裁が「中国内や世界の人材定着を狙っている」と語るように、データセンターや監視センターなど、世界のベンダーがセンターとしてこのITパークを利用し、長期的に入居するための生活環境の整備をしているところだ。王庁長は「中国中央政府からは、省内全体のIT産業について、少なくとも5年以上、成長率50%を継続するよう指導されている」と話す。
また、戴玉林・大連市副市長は、「中国は『世界の工場』から『全世界のオフィス』になる」と公言している。大連のアウトソーシング・ビジネスは今後、BPOからBTP(ビジネス・トランスフォーメーション・アウトソーシング)と呼ぶ、戦略立案から業務改革、日々の業務運用まで含め、委託先と共同で事業を推進する方向へ転換を図っていくとみられる。
安い人件費を背景に、中国全体が国家戦略として世界のアウトソーシングを獲得する動きを強めるなかで、日本のデータエントリーを担っているITベンダーの行く末は厳しくなることが予想される。(谷畑良胤)