リレーショナルデータベースのテーブルを制御する言語である「DDL(Data Definition Language)」を扱う技術力が違う──。学習管理システム(LMS)を中核とする教育コンテンツ会社のシステムテクノロジーアイ社長の松岡秀紀は、「ある定義をすると、マルチプラットフォームのソフトウェアはすぐにつくることができる」と、さらっと言ってのける。製品化段階で、多くの独立系ソフトベンダー(ISV)は、オラクルやマイクロソフト、IBMなどのデータベース対応に一苦労する。だが、同社にとってはお手のものだという。(取材・文/谷畑良胤)
アイデアがひらめいたとして、ISVがまず直面する課題は共通している。技術力が競合他社より秀でているかどうかだ。マルチのデータベースに対応する段階で、ひと手間かかる。ここで足踏みすれば、開発が遅れる。IT技術系の教育コンテンツを制作する側にいるシステムテクノロジーアイだからこそできる迅速な開発を実現する秘技だ。
LMS業界は、世界的に生き残りが厳しい。米国では、某LMSベンダーが業績不振のせいで上場を廃止した。システムテクノロジーアイにとっても“対岸の火事”ではない。IT技術者向けのLMSを主体に事業を展開してきたが、ニーズが低調になりつつある。そんな状況にありながらも、社長の松岡は強気な姿勢を崩していない。「上位層のホワイトカラーだけでなく、すべてのビジネスパーソンは学習意欲が高い。潜在ニーズはまだまだ旺盛だ」。不景気が逆にスキルアップへと向かわせた。
技術力があっても、市場が縮小すれば、自らの事業存続も危ぶまれる。松岡は3年前、ITベンダーに限定せず、一般企業に目をつけて、慣れない領域ながらも、新規市場の開拓に走った。ただ、IT技術で実現したコンテンツをeラーニングで学習する方法は、一般企業には馴染まない。そこで、利用者個々人や企業内の部門や担当分野に応じて、柔軟に学習できる環境を整えることを編み出した。
昨年12月、「オリジナルeラーニングが利用可能なクラウド型学習管理システム」と銘打ったeラーニング型LMSを発売した。「予め用意された豊富なeラーニング教材や集合研修を受講するだけでなく、企業内の独自教材やナレッジをeラーニングのコンテンツにして、オリジナルのeラーニング教材として従業員のスキルアップ、ナレッジ共有に活用することができることが売り」と松岡は説明する。

企業内の学習環境は、システムテクノロジーアイの技術で様変わりする(写真と本文は関係ありません) 企業内で生成された研修用ドキュメントを使った学習管理ができる。クラウド型にしたことで、業界最安値の100円/月で提供できるようになり、優位に立った。ただ、販売代理店経由でも直販でも、LMSを切り口に売り込むのでは、ユーザー企業に響かない。最近、IT業界では「タレントマネジメント」という言葉が流行している。人材マネジメントのプロセスを改善し、職場の生産性を高め、必要なスキルをもつ人材の意欲を増進する考えだ。だが、そこに大型の投資をする企業は、さほど多くない。
同社は価格の敷居を下げ、しかも販売面では別角度の切り口でアプローチできる製品を投入した。それがスマートデバイスや電子黒板などを使ったペーパレス会議システムだ。最大の特徴は、資料作成支援ツール「iStudy Viewer Studio」という膨大な資料を簡単に電子化して活用できるツールであることだ。5月には、最新OSの「Windows 8」に即対応した。
LMSは高価な買い物だ。しかも、ユーザー企業側で学習環境のフローを見直す必要があり、商談が長期化する──そんなイメージは、システムテクノロジーアイの製品・サービスなら払拭できる。大手LMSベンダーが苦戦する一方、同社はいち早くサービス指向のプロダクトに転換。サービスの積み上げで、現在の年商10億円弱から2倍に増やすことを目指す。売りにくい製品だからこそ、同社の技術革新が生きてくる。[敬称略]