上田貴文さんの社会人としてのキャリアは、複写機メーカー系企業での直接販売営業からスタートした。その後、直販のスペシャリストとして競合のエプソン販売に転職したが、担当することになったのはパートナー営業だった。新たなチャレンジだ。しかし近年、ITのパートナー営業のあり方が変わり、上田さんがエンドユーザーに対してハイタッチ営業(メーカーの直接営業)を行う機会が増えてきたという。(構成/本多和幸 写真/長谷川博一)
[語る人]
●profile..........上田 貴文(うえだ たかふみ)
複写機メーカー系企業の営業職を経て、2001年7月、エプソン販売に入社。当初は、地方自治体向けに、エプソン製品と他社ネットワーク、サーバー、ソフトウェア製品などを組み合わせて提案、販売するソリューション営業に従事した。2006年、現部署に異動し、販売パートナー担当に。パートナーと協業し、エプソン製品をエンドユーザーに販売している。
●会社概要.......... セイコーエプソンの販売子会社。プリンタやプロジェクターなどのエプソン製品を中心に、直接販売、間接販売の両方のチャネルで提供している。
●所属..........ビジネス営業本部
SI営業部
SI首都圏営業四課
●営業実績.......... 2011年度に社長賞を受賞。社長賞は、半期に1回の割で、エプソン製品の拡販で顕著な実績を上げた社員を表彰するもの。上田さんの場合は、担当する販売パートナーを通じて大手外食チェーンに導入された実績と、その後のサポートの取り組みが評価された。
●仕事.......... 国内最大手の情報サービス企業であるパートナーを専属で担当し、流通、小売り、外食産業などの大手エンドユーザー向けに製品、サービスを提供している。タブレット端末の普及などに合わせ、クラウドサービスを活用した入出力環境の提案なども行っている。
パートナーに成果を還元
私が担当しているパートナー営業は、エプソン製のプリンタなどを、パートナーが手がける業務システムなどに組み込んで売ってもらうために、各方面にさまざまな働きかけをするのが仕事だ。従来は、パートナーからの引き合いありきの受け身のビジネスだった。だから、営業活動の軸足も、担当するパートナー企業の内部でいかにエプソンの認知度を上げるかという点に置いていた。
しかし、ここ数年で状況が変わってきた。エンドユーザーもITシステムの周辺機器に対して詳しい知識をもつようになり、そういうお客様のワークフローをきちんと理解して、ニーズを把握したうえで価値のある提案をしないと、受注につながらなくなってきた。だから当社は、現在、顧客へのハイタッチ営業も積極的に展開する方針を採っている。
そこで私が工夫したのは、社内で他パートナーを担当する営業マンや他部門のメンバーを巻き込んで、業界や企業について研究する機会を設けたことだ。これまではパートナー単位で集積していた情報を、エンドユーザーを起点として整理し直すスキームをつくったのだ。そうすると、いろいろなところから思いがけず情報が集まるようになり、攻めるべきターゲットとアプローチの方向性が明確にみえるようになった。そのうえで顧客への訪問を繰り返し、現場のニーズを把握することに力を入れている。受け身から、攻めの営業スタイルへの転換が成功しつつあるという手応えがある。
ただし、パートナーとの関係もあるので、頭越しの営業にならないように気をつけなければならない。また、パートナーと顧客で、当社製品に対する認識や要望が食い違っていることもよくある。そんなときは、それぞれの立場を理解して、うまく調整することもパートナー営業の腕の見せどころ。その場合も、顧客ニーズを適切に把握していることは、大きな武器になる。
ハイタッチ営業の成果をパートナーに還元することができた事例もある。もともとパートナーが納めていたPOSや基幹システムを、他社に乗り換えてしまった顧客がいたのだが、当社の周辺機器は変わらずお使いいただいていた。そのリプレース案件をハイタッチ営業で獲得し、パートナーに販売を手がけてもらったのだ。案件単体でみると、当社の周辺機器の販社になってもらっただけだが、パートナーにとっては、将来、再度基幹システムを取りに行くために顧客との関係を再構築するきっかけにもなる。こうした受注が、パートナーとの信頼関係構築のベースになっている。