NTTドコモ(加藤薫社長)は、今年9月、中小企業向けのクラウド型サービスを本格的に開始した。新たに「ビジネスプラス」というサービスを立ち上げて、同社で厳選した12種類のサービスを最大三つ組み合わせることが可能で、月額525円(税込)の安価で提供。全国の直販店舗や携帯電話代理店と連携し、競合他社が攻め切れていない中小企業を対象に利用者のすそ野拡大を目指す。(取材・文/谷畑良胤)
推奨パックを店舗法人担当が売る
「ビジネスプラス」は、スマートフォンやタブレット端末を使った業務効率化などを中小企業が簡単に取り組めるように、NTTドコモが厳選したアプリケーションを集めたパッケージ型のクラウドサービスだ。
このサービスでは、グループウェアや勤怠管理、オンラインストレージ、ネットワーク電話帳など、12種類のサービスを用意。顧客はこのなかから必要なアプリを選択し、1アカウント/月額525円で利用することができる。NTTドコモによれば、「煩雑な申し込み作業や請求の取りまとめサービス・サポートは、すべて当社が一元管理する」(松木彰・法人事業部法人ビジネス戦略部長)と、技術面の知識が豊富な情報システム担当者が不在でも導入できると強調する。
基本的には、顧客側で12種類から三つを選択する。しかし、業務効率化をより実現しやすくするためにグループウェア(NTT製の「モバイルグループウェア」)、ドキュメント編集・閲覧(キングソフト製の「KINGSOFT Office for Android」)、情報共有ツール(ソニックガーデン製の「youRoom Lite」)を基本パックとして推奨している。また、中小企業が安心して使えるように、ウェブ画面から遠隔設定や制御を実行するサービス「ビジネスmoperaあんしんマネージャー」でのセキュリティ対策を提案している。申し込み後は、最短5営業日でサービスの利用ができるようになる。
サービスで利用できるアプリは、このほかレッドフォックスのリアルタイム位置情報を用いた動態管理「GPS Punch! for DOCOMO」やヒューマンテクノロジーズのオンラインで出退勤管理・自動集計ができる「KING OF TIME for DOCOMO」、AXSEEDの遠隔で端末ロックや初期化、機能制限ができる「SPPM 2.0」、ジョルテの法人向け機能を付加したカレンダーアプリ「ジョルテ for Biz」など、企業の業務に最低限必要な機能を用意している。「来年度(2015年3月期)中には、現在の12種類から20種類に増やす」(松木部長)ことを計画している。
BYODの普及を見据えて法人攻めを強化
顧客がこのサービスを利用するのに対応している機種は、Android OSのスマートフォンかタブレット端末。取材時点でNTTドコモがiOS端末を販売するという情報が入っていたが、松木部長は、「iOS端末を扱うようになれば、それ向けのサービスも必要になるだろう」と答え、法人向けでシェアの高いiOS端末のサービス拡充が今後見込まれそうだ。
現在のサービスは、ドコモ法人営業担当かドコモショップの法人営業担当への対面か、ドコモビジネスオンライン(
https://www.docomo.biz/contact/)で直接申し込みができる。同社によれば、法人営業拠点は、代理店を含め、全国に1400拠点あり、各営業担当が顧客の要望を聞きながら、提案活動でサービスを普及させる。代理店に関しては、販売分に応じて月額収入からインセンティブが積み上がる。
同社では、法人営業に限らず、システムインテグレータ(SIer)やデータセンター事業者などのMVNO(仮想移動体通信事業者)にも販売網を拡大するなど、この先、別チャネルを開拓することが予想される。同社の場合、数は非公表だが、従来型携帯電話の販売で多くのSIerと一緒に販売してきた実績がある。スマートデバイスの法人販売では、iOS端末を扱う通信事業者の後塵を拝しているが、過去の実績をもとに急速な挽回が予想される。
調査会社IDC Japanによれば、タブレット端末のBYOD(個人端末の業務利用)ユーザー数は、2016年に1265万人まで拡大し、年平均成長率が45.8%に達すると予測する。松木部長は「企業で利用されているクラウドサービスが、個人端末で使われる率が増す」と、法人攻略が同社提供の端末と通信を拡大するうえで重要になるという。現在、KDDIがブランドダイアログと組んで安価なSFA(営業支援システム)などを提供し、ニフティも「ハコクラ」と呼ぶ箱のパッケージで訪問販売会社が中小企業を攻める策を講じている。ここに本丸のNTTドコモが加わったことで、中小企業のクラウドサービスを巡る攻防は激しさを増しそうだ。

東京・溜池山王にある本社のクラウドサービスを紹介する
ショールームで取材に応じる松木彰・法人ビジネス戦略部長