ニフティ(三竹兼司社長)は、IaaSで展開する「NIFTY Cloud SaaS series」を箱形のパッケージにして、大手流通卸経由で販売会社から提供する「箱クラ(仮称)」の販売を9月に開始する。家電量販店に並ぶソフトウェア・パッケージと同じ形態の箱に、取扱説明書、シリアル番号、アカウントを同梱。ユーザーがこれを購入してインターネットでログインすると、980~2000円で1~2か月間試用でき、継続利用する場合は、月額課金制で利用が可能となる。SaaSは、スマートデバイスに最適化されたSFA(営業支援システム)などを提供する予定。パッケージでクラウドを間接販売する流通方法は業界初。中小企業へのクラウドサービスの普及方法として注目される。(谷畑良胤)
「箱クラ」で提供するSaaSは、ニフティと代理店販売契約を結んで同社のIaaS上にある国内独立系ソフトベンダー(ISV)のアプリケーションで、主にスマートデバイスで利用可能なサービスだ。9月の販売開始時には、SFAやアンケート集計など5タイトルを用意して、年内に20タイトルを投入することを計画している。
IaaS上にあるアプリは、MDM(モバイルデバイス管理)や会計ソフト、名刺管理、経費精算、ファイル共有、ウェブ会議など、現在100タイトル程度がある。提供後の販売本数の推移や評判に応じて、「箱クラ」で提供するタイトルを順次揃えていく。
ユーザーは、インターネットでシリアル番号などを入力すれば、すぐに試用できる。試用時の利用料金はタイトルにより異なり、1か月980~2000円で、試用期間も1~2か月に設定する。ユーザーが試用期間を過ぎて継続利用を希望する場合は、ニフティと再契約して月額課金制で使える。
「箱クラ」で提供するパッケージは、ニフティと再販売代理契約を結んだ大手流通卸のダイワボウ情報システム(DIS、野上義博社長)を経由し、DISの二次店である全国の訪問販売系の販社を通じて企業や個人へ販売する。試用期間中の販売額と月額課金制に移行した後の毎月の利用料金は、DIS、販社、ISVに分配する。将来は、家電量販店での展開も視野に入れている。

SaaSを箱形パッケージで販売する この仕組みを企画したニフティの福西佐允・クラウド事業部クラウドパートナー営業部長は、「訪販系の販社は、今が旬のスマートデバイスを販売したいが、クラウドアプリが少なくて売り方に困っている。また、仮にクラウドを販売しても、売り切りで薄利なので、積極的には販売しない。『箱クラ』は、有償のカタログと捉えてほしい」として、事務機ディーラーなど販社の訪問型での販売形態に合わせて、ユーザーがなじみやすい箱形にして、「販売本数に応じてストックが安定的に積み上がる方法を編み出した」と開発の経緯を語る。

クラウドパートナー営業部
福西佐允 部長 競合他社では、ソフトバンクBBがアップルのiPadとクラウドサービスを販社を通じて販売しているが、「中小企業には、申し込み方法でハードルがある」(福西部長)とみて、販社が使い方の説明を含めてセットアップする方法でないと、拡販が難しいと判断した。
ニフティは、7月に山形県で開催したDISの「DISわぁるど in 山形」に初出展し、県内を中心とする販社に説明した。今後は、タイトルを増やしながら、新たなISVと代理店契約を進めるほか、二次店の開拓を急ぐ。また、ユーザーからの利用問い合わせに応えるコールセンターや出張サポートに関しても、外部企業と提携して拡充する予定だ。
同社は、1987年から2006年まで、パソコン通信サービス「ニフティサーブ」を利用して、ソフトのダウンロード販売の先駆者として全盛を極めた。福西部長が「当社には、ニフティサーブのDNAがあり、サービス提供の質で他社を上回る」というように、競合他社の追随は難しいとみている。現在、IaaSはアマゾンやグーグル、国内サービスベンダーの競合が激しく、価格競争が激化している。ニフティは、将来的にクラウド事業全般を伸ばすために、IaaSだけでなく「箱クラ」を売上高全体の3分の1まで到達させることを目指している。
表層深層
調査会社の富士キメラ総研は、国内SaaS市場は2015年に現在の1.5倍の3000億円程度になると予測している。これまでのクラウド市場のメインは、IaaSとPaaSで8割近くを占めていた。だが、アプリの種類が揃ってユーザーの選択肢が増えたことやスマートデバイスの普及でSaaSが急成長中だ。
この間、同業他社のなかでニフティは、SaaSの普及でアマゾンなどに遅れをとった。加えて、IaaSがコモディティ化して利益を生みにくくなりつつあった。
一方、販売する側は、安価なSaaSで利益を上げるには、大量に販売する必要があるが、思うように伸びず、中小企業向け販売を諦めつつあった。最近、スマートデバイスの普及が加速しているが、中小企業向けだけはアプリの種類が乏しく、「売り方」が難しいために普及していない。福西部長は、「市場に一石を投じたい」と、「箱クラ」を考案した。
「箱クラ」は、販社と大手流通卸に月額課金の数十%を配分するので、販売量に応じてストックを積むことができ、一緒にスマートデバイスも提案しやすくなる。すでに大手の事務機ディーラーやパソコン販売会社が意欲を示しているようで、急速な普及が予想される。中小企業向けSaaSは、多くが失敗してきた。だが、売り手と買い手の双方にメリットのあるこの仕組みは成長が期待できる。