ネットワークインテグレータ(NIer)のテリロジー(津吹憲男社長)は、今年11月、新たな基幹業務システムとして、プライベートクラウド上でERPのテスト運用を開始した。アプリケーションがサイロ化していた従来の基幹システムを刷新するとともに、今後、ITの販社としてクラウド商材を扱っていくことを見据え、まずは「隗より始めよ」ということでウェブベースの製品を採用した。実は、当初は別の製品に決まりかけていたのだが、土壇場で新たな選択をした。その理由とは?
【今回の事例内容】
<導入企業> テリロジーネットワーク、セキュリティ関連製品の販売、エンドユーザーへのシステムコンサルティング、ネットワーク構築工事、保守サービスなどを手がけるNIer。社員数は110人(2013年3月末現在)
<決断した人> 阿部昭彦 取締役副社長1989年、代表取締役社長の津吹憲男氏とともにテリロジーを創業。営業の責任者として販売活動に従事。その後、管理本部長として2004年12月ジャスダック上場を果たし、2012年12月より現職
<課題>これまで使っていた業務システムは、アプリケーション間の連携ができなかった
<対策>プライベートクラウドでERPを導入
<効果>業務部門の日常業務が効率化されるとともに、サーバーがダウンすることもなくなり、安定したシステム運用ができるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>妥協しない製品選び、製品探しと、基幹システムへのクラウド導入という決断が、既存業務の効率化だけでなく、さまざまな副次効果にもつながり、社内が活性化した
メガベンダーのERPは大きすぎた
基幹業務システムの刷新は、どんな企業にとっても一大プロジェクトになる。テリロジーも同様で、従業員110人の1割を超える14人のメンバーでプロジェクトチームを結成して、3年前に検討に着手した。
課題は明白だった。従来のシステムは、オーソドックスな国産オンプレミス型ERPの会計と販売管理モジュールを基幹部分に採用していたが、ワークフローやインシデント管理、保守契約管理などの周辺システムは、それぞれ別のソフトウェアを採用していて、アプリケーション間の連携ができない状態で運用されていた。
プロジェクトチームの陣頭指揮を執った阿部昭彦・取締役副社長は、「基幹部分のシステムがサポート切れとなるタイミングで、分断されていたアプリケーションが統合データベース上で連携して動く、本当の意味でのERP製品を導入したいと考えていた」と語る。
さらに、同社が扱うネットワーク機器やセキュリティ製品は、約7割が海外ベンダーのもの。テリロジー自身もアジア・太平洋地域に進出し始めており、多言語多通貨対応も必須だった。こうした条件と照らし合わせると、外資系メガベンダーの中堅企業向けERPが当然有力な候補になる。「当社の企業規模には大きすぎる、そして高すぎるシステムだったので非常に悩んだが、ほかに選択肢がなく、大手外資系ベンダーのERPを導入することにほとんど決まりかけた」(阿部副社長)という。そんな状況が一変したのが、昨年6月のことだ。
決め手は規模感とクラウド
「新聞を読んでいると、クラウドベースで使える多言語多通貨のERPが登場したという情報を偶然目にした。これだ! と思った」と、阿部副社長は当時を振り返る。その製品こそ、結果的に採用することになる内田洋行のウェブベースのERP「スーパーカクテルInnova」だった。
いったい何がそれほどまでの訴求ポイントだったのか。まずは想定ユーザーの規模だ。この製品は、年商300億円以下の中堅・中小企業を対象としている。「既存システムの延長上の感覚でリプレースできそうだと考えた」(阿部副社長)という。
さらには、拡張性が高く、クラウドに対応していることも魅力だった。「スーパーカクテルInnova」は、NTTデータビズインテグラルのクラウド対応型業務アプリ開発・実行基盤「Biz∫APF」を採用しており、NTTデータイントラマートの「intra-mart Web Platform」をシステム共通基盤としている。阿部副社長は、「自社のビジネスとしても、クラウドに取り組まなければならないと考えていた。自分たちの業務システムにクラウドを使うことでノウハウの蓄積に役立てたいという思いもあった」と説明する。
RFPはすでに完成していたので、細部を摺り合わせ、10月には正式に採用を決めた。その後は、週2回のペースでプロジェクトチームや情報システム部門の関係者がベンダー側と打ち合わせを重ねてきた。その過程で、「社内の業務の流れが組織横断的に改めて整理され、プロジェクトチームのメンバーがリードして業務の効率化を進めている」(阿部副社長)という。
テスト稼働を開始してからまだ間もないが、すでにさまざまな効果を実感している。テリロジー本社が入居するビルは古く、空調の故障でサーバーがダウンすることもあったというが、プライベートクラウド上で稼働させている「スーパーカクテルInnova」は可用性が高い。さらに、既存のオンプレミスのシステムと並行稼働でき、「ハードウェアの運用の影響で、ユーザーへのサービスを止めることがなくなるのは非常に大きな利点」と、阿部副社長も手応えを語る。ベンダー側とのコミュニケーションも良好で、システムのリプレースでは肝となるデータ移行もスムーズに進んでいるという。また、プロジェクトチーム内では、クラウドの特性を生かし、スマートデバイスなどを使った新しいERPの活用方法やワークスタイルについてもアイデアが出始めている。(本多和幸)