産業廃棄物の処理を手がける高俊興業(高橋俊美代表取締役)は、伝票の入力作業に手間と時間をとられていた。運搬トラックのドライバーが紙の伝票を作成する方式をとっていて、作成場所が事務所に限定されていたので、一度に大量の伝票を処理しなければならなかったのだ。そこで高俊興業では、3年ほど前に伝票管理システムを構築。さらに、ドライバーの入力作業を簡易化する目的で、端末とアプリケーションのUI(ユーザーインターフェース)をこのほど刷新した。
【今回の事例内容】
<導入企業> 高俊興業産業廃棄物の処理を手がける。東京都大田区と千葉県市川市に産業廃棄物の中間処理工場を有している。従業員は375人(2013年6月1日現在)
<決断した人> 情報システム部 藤沢宏部長2010年に伝票管理システムを導入した時点から一貫してプロジェクトを指揮してきた
<課題>伝票の入力作業にかかる負担を軽減し、業務の効率化を図ろうとした。システム導入後は、ユーザーの使い勝手の改善が課題となった
<対策>伝票入力管理システムを構築。その後、端末をWindows MobileからiPadに移行した
<効果>ドライバーが待ち時間に伝票を入力できるようになり、業務を効率化。さらに、端末を刷新して使い勝手を向上した
<今回の事例から学ぶポイント>システムを導入してそれで終わりではなく、実際に使うユーザーの意見を取り入れて継続的に改善していくことが大切
終わらない伝票入力
産業廃棄物の処理を手がける高俊興業は、不法投棄を防止し、適正な処理を行うために、廃棄物処理法によって交付が義務づけられている「マニフェスト伝票」と呼ばれる帳票を作成している。毎月、産業廃棄物の運搬トラックのドライバー(2010年当時は約150人)が、約4万枚の伝票を作成し、その後、事務員が処理をしている。しかし、以前は伝票を紙で作成していたので、ドライバーは事務所に帰ってから記入する必要があった。ドライバーは一度に大量の帳票の作成に追われ、事務員は集まった帳票の一括処理に手間をとられるという負担を抱えていたのだ。情報システム部の藤沢宏部長は、「帳票の処理に人手が足りなくて、専任の派遣スタッフを3人雇っていた」と当時を語る。
そこで、伝票管理システムの導入を検討。ドライバーにモバイル端末を配布して、運搬の待ち時間など、外出先で入力できるようにすることを考えた。汎用のパッケージソフト製品と、以前から取引のあったマジックソフトウェア・ジャパンが提供するアプリケーション構築プラットフォーム「Magic uniPaaS RIA(リッチクライアント)」を比較し、「RIA」で伝票管理システムを構築することに決定した。藤沢部長は、「システムを構築する際に、通常はサーバー側と端末側で個別に、複数の言語を組み合わせて開発する必要があるが、『RIA』は一つの言語で開発できる点が魅力だった」と説明する。その後、数か月をかけてシステムを構築し、2010年の9月に稼働を開始。すべてのドライバーが場所を問わずに伝票入力できるようになったおかげで、事務員の伝票の処理フローの負担も軽減し、派遣スタッフ3人分のコストを圧縮できた。
使い勝手にとことんこだわる
いったんは業務の効率化に成功した高俊興業だったが、入力管理システムを使っていくうちに、新たな課題が発生した。ドライバーはWindows Mobileを入力用の端末として利用していたが、画面の小さいデバイスでは視認性が低く、入力もキー入力に限られていたので、予想していたよりもドライバーが入力作業に手間をとられていたのだ。「とくに年配のドライバーにとっては、小さい画面とキー入力は使い勝手が悪く、負担をかけていた」(藤沢部長)。
さらに、追い打ちをかける出来事が起こる。システムを構築して約3年が経過し、利用していたWindows Mobileを提供していたメーカーが、機種の生産を終了したのだ。「ドライバーを180人まで増員し、今後200人まで増やすという会社の方針があった。専用のモバイルアプリケーションを構築していたので、機種は限定されていたうえに、これ以上の数を手に入れることはできなくなった。伝票管理システム全体を見直す必要がでてきた」(藤沢部長)のだ。
そこで藤沢部長は、次なる端末として、iPadに目をつけた。画面の大きいタブレットにすることで、視認性を高めようとしたのだ。入力管理システムに関しては、新しいシステムを構築することは検討しなかった。コストも時間もかかるうえに、ドライバーには再度アプリケーションの使い方を覚えてもらう必要があるからだ。そこで、Windows Mobileでドライバーが利用していた伝票管理のモバイルアプリケーションをiPad上に移植することに決めた。「Magic uniPaaS RIA」では、Windows Mobile用に開発したアプリケーションを簡単にiOSやAndroidのネイティブアプリケーションに対応できるという特徴があったのだ。さらに、藤沢部長は、ドライバーのニーズをくみ取り、およそ2か月間をかけて移植後のシステムの画面を設計。「ドライバーの入力の負担を軽減するため、使い勝手にはとことんこだわった」と熱く語る。
高俊興業では、今年9月に全180人のドライバー分の端末をiPadに移行。「iPadにしてからは、従前と比べて、入力時間を2分の1程度に軽減できている」(藤沢部長)という。さらに、端末にかかる通信費とパケット料金の見直しを図ったことで、年間で約100万円のコスト削減にも成功している。(真鍋武)