松本市にある総合病院の松本協立病院(具志堅進院長)は、院内ネットワークを増強するために、高速インターコネクト技術「InfiniBand」に着目し、IT商社のアルティマが日本の販売代理店を務める米メラノックステクノロジーズ(メラノックス)製のInfiniBand関連システムを導入した。システム管理者が少ない中堅クラスの病院がこうした最新技術を導入するのは、異例中の異例。背景には、大手ITベンダーの技術者だったCIOの奮闘と、新たなパートナーのサポートがあった。
【今回の事例内容】
<導入機関> 松本協立病院長野県松本市に1981年に開設した総合病院。外科や内科、小児科など12診療科があり、1日の来院者数は約500人。病床数は約200床
<決断した人> 松本協立病院 白川栄治課長前職は大手ITベンダーの技術者。ベンダーからユーザー企業に移籍した異色のCIOだ。新しい技術の調査・研究に時間を惜しまない
<課題>サーバーやデスクトップ環境の仮想化を進めるなかで、ストレージのI/O性能の低さが問題だった
<対策>高速インターコネクト技術「InfiniBand」に着目。InfiniBandの導入を実現するネットワーク製品と構築を支援する新たなパートナーを選定した
<効果>バックアップ時間の短縮に成功。InfiniBandを活用したネットワークを基幹系システムに移植する予定
<今回の事例から学ぶポイント>新技術の導入は、すでに協業するパートナーでは対応できないケースがあり、その分野に精通した新たなパートナーと組むのも選択肢
基幹システムを相次いで仮想化
病院は、他の業種に比べてIT化が遅れている。患者の病歴などの情報が漏れるリスクや、医師のITリテラシー不足、経営難でIT投資力が乏しいことなどが足かせになっている。例えば、病院の基幹系システムといえる電子カルテの普及率は28.7%(調査会社のシード・プランニング調べ、2013年4月発表)にとどまり、高い水準とはいえない。とくに中堅以下の病院でのIT環境は、きちんと整っていないケースが多い。
長野県松本市にある松本協立病院。病床数は約200床、職員数は380人ほどの中堅病院だが、IT環境は大規模病院に引けを取らない。新技術を積極的に取り入れている(下表参照)。とくに、仮想化技術の利用範囲は広く、先進的だ。
2005年にサーバーの仮想化を試験的に開始。「Windows Server 2008 R2」で機能が強化されたハイパーバイザー「Hyper-V2.0」が登場したことを受け、本格導入に踏み切った。2010年には電子カルテシステム、2012年には医療画像管理システムといった病院の基幹系システムを次々と仮想化。2011年には、デスクトップ環境の仮想化にも取り組んでいる。
地方の中堅病院が、先進のIT技術をここまで早い時期に取り入れて運用しているのは、一人の情報システム部門担当者が在籍しているからだ。数人しかいない情報システム部門を統括するシステム課の白川栄治課長がその人で、日本の大手ITベンダーの技術者だったというキャリアをもつ。出身地である長野県での勤務と、日本の医療現場をITで支援したいという思いから、10年ほど前に松本協立病院に移籍。松本協立病院の一連のIT環境の整備には、白川課長がほぼすべて関わった。
新たなパートナーとタッグ
システムの仮想化によるコスト削減と、運用の効率化を順調に進めているなかで、白川課長が新たに直面した課題が、ストレージシステムの運用だった。「仮想化したサーバーには、CPUやメモリといったコンピュータリソースを十分に確保することはできていた。問題はストレージで、大容量データの保存・読み込み速度の遅さが問題だった。医療画像は日増しに高精細化しており、データ容量が増えている。時間がたてばたつほど、問題は深刻になると思った」と白川課長は話す。
ストレージのI/O(データの入出力)性能を上げるため、白川課長が着眼したのが高速インターコネクト技術「InfiniBand」だった。InfiniBandは、信頼性と可用性、保守性を兼ね備えた先進技術で、導入に成功すれば、低コストでI/Oの性能を向上させることができる。白川課長は、InfiniBandが登場した直後に注目し、「Windows Server 2012」で強化された『Hyper-V』やファイル共有プロトコル『SMB 3.0』の登場で導入時期がきたと判断。InfiniBandと組み合わせた仮想インフラを構築すれば、「ストレージのI/O性能を劇的に改善できる」(白川課長)と考え、導入に向けて本格的な準備を始めた。
だが、壁は意外なところにあった。導入をサポートするITベンダーがいなかったのだ。InfiniBandは、その当時新しい技術だっただけに、導入するスキルをもつITベンダーがなかなか見つからなかった。転機になったのは、白川課長がたまたま訪れたIT系の展示会だった。InfiniBand関連のシステムを開発・販売するメラノックスの総販売代理店であるアルティマのパートナー、ニューテックに出会い、技術力を評価して導入支援を依頼。アルティマとニューテックが支援するかたちで、メラノックスのInfiniBandスイッチなどを導入した。白川課長は院内システムのうち、まずは「Exchange Server」を基盤にしたファイルサーバーシステムで採用。目論み通り、大容量データのバックアップ時間を大幅に短縮できた。効果を実感した白川課長は、利用範囲の拡充を検討している。InfiniBandスイッチを増やし、電子カルテや医療画像管理システムといった基幹系システムで使うネットワークでの利用にも踏み切る。
不具合が許されないミッションクリティカルシステムを運用している病院のシステムの改善には、慎重にならざるを得ない。しかし、白川課長は少ない投資で最大の効果を得ようとするときに、新技術は欠かせないという考えをもつ。緻密な調査と検証を経て、システムの増強に今後もチャレンジする。(木村剛士)