静岡県・川根本町のいやしの里診療所(清水史郎所長)は、富士通の電子カルテシステム「HOPE/EGMAIN-RX」を導入している。電子カルテをビデオ会議システムと連携させて、ほかの病院の専門医がリアルタイムで患者情報を把握し、遠隔診療を行うことができる仕組みを実現している。ICT(情報通信技術)の活用によって、山間部でも町民に高度な医療サービスを提供し、川根本町の深刻な問題である医師不足の解消を目指している。
ユーザー企業:川根本町役場 いやしの里診療所
静岡県・川根本町の診療所。内科などを診療科目とする。川根本町の五つの診療所の一つとして、高齢者をはじめ、数多くの患者の診療を行っている。所長は、清水史郎氏が務める。
サービス提供会社:富士通
プロダクト名:電子カルテシステム「HOPE/EGMAIN-RX」
【課題と決断】医師不足を遠隔診療で解消
川根本町は、静岡市からクルマで約1時間の山間部にある。人口およそ7500人のうち、40%強が65歳以上の高齢者だ。住民に安定した医療サービスを提供することが、喫緊の課題となっている。しかし、川根本町では医師が大幅に不足。すでに70歳を超えたベテラン医師もまだ現役であるなど、医師の高齢化も進んでいる。
「お父さん、聞こえないから、もう少し声を大きくして」。ビデオ会議を利用して、いやしの里診療所で静岡県立総合病院の専門医と話す男性は、妻からアドバイスを受けつつ、違和感が少しずつ薄くなってきている。隣で見ている清水史郎所長は「このシステムのおかげで、患者さんは町を出なくても、専門医に診てもらい、適切な診療を受けることができる」と喜ぶ。
いやしの里診療所は、2011年8月に担当医師が不在となり、3か月間ほどの休診を余儀なくされた。現在、富士通のビデオ会議や電子カルテなどのツールを活用して遠隔診療を実現しているのは、11年11月に所長に就任した清水氏の努力の賜だ。氏は、導入の決定権をもつ川根本町役場に対して、ICT活用のメリットを強く訴え、限られた予算のなかでシステムの導入にこぎ着けた。
2012年3月にビデオ会議を入れたのに続き、同年9月には電子カルテシステムの稼働を開始した。これらを静岡県の広域医療連携ネットワーク「ふじのくにねっと」に接続し、「仮想総合病院」を実現している。

いやしの里診療所の清水史郎所長【効果】電子カルテでリアルタイムの情報共有
静岡県立総合病院の地域医療ネットワークセンターのセンター長を兼務する清水氏は、「とくに県内のほかの病院とリアルタイムで患者情報を共有することができる仕組みづくりが必要だ」と捉え、ビデオ会議に加えて、電子カルテシステムの導入を重視したという。
ビデオ会議だけを利用する従来の方式では、いやしの里診療所での処方や検査結果などの情報をあらかじめ静岡県立総合病院に郵送し、数日のタイムラグで遠隔診療を行っていた。しかし、これでは時間がかかるだけでなく、患者が気軽に診療を受けることができない。そんな状況下で、清水氏は、ビデオ会議と簡単に連携することができる電子カルテシステム「HOPE/EGMAIN-RX」の追加導入を川根本町役場に訴えた。
現在は、「HOPE/EGMAIN-RX」を活用して、他病院の専門医は、いやしの里診療所側の患者情報をリアルタイムで参照しながらの遠隔診療ができるようになっている。さらに、専門医によるアドバイスが記録され、いやしの里診療所の患者が静岡県立総合病院などで診療を受ける際に、静岡県立総合病院の医師がそれらを参照することができる。
住民の高齢化が進み、医師が不足する事態は、川根本町に限ったものではない。静岡県をはじめ、全国各地の市町村は、川根本町と同様の問題を抱えている。
川根本町はそうしたなかにあって、ICTのさらなる活用を考えている。いやしの里診療所を成功事例として、遠隔診療のモデルを確立し、川根本町のほかの診療所にも、同様のシステムを導入する計画を進めている。(ゼンフ ミシャ)

電子カルテシステムを活用し、専門医と診療情報をリアルタイムで共有する3つのpoint
診療所が他の病院と連携
山間部で高度診療を実現
安定した医療サービスを提供