SIerが所有するデータセンター(DC)の収益力が低下している。一つのDCを複数のSIerで共有したり、自前でDCを所有するのをやめて、DC専業事業者などから借りる動きが活発化。場合によってはAmazon Web Servicesをはじめとするパブリッククラウドを活用するケースも増えている。サーバーやパソコンといったハードウェア販売ではSIerの利益が出なくなって久しいが、DC事業もある種のハードウェア商材であって、規模の大きさによる優劣が出やすい特性がある。SIerはDCそのもので利益を稼ぐのではなく、DCを活用したサービスへ迅速にシフトしていく必要に迫られている。(安藤章司)
コストの負担増で経営を圧迫
SIerのビジネスにとってDCは欠かせない設備だ。クラウドやアウトソーシングなどの伸びしろが大きい主力サービス商材は、いずれもDCを活用したビジネスであり、さらにいえば、コンピューティングそのものがDCを軸としたものに変わろうとしている。だが、SIerが所有するDC設備の収益力は向上しないだけでなく、そのコスト負担が大きく経営を圧迫するケースも現れ始めているのだ。
コストの問題がいかに深刻かを象徴する出来事がある。野村総合研究所(NRI)が2016年夏をめどに関西地区で竣工する予定の大型DCを、ITホールディングスグループのTISと共同で運営する取り組みがそれだ。ライバル同士の呉越同舟だが、そうでもしないと採算が合いにくくなっていることの裏返しでもある。このほかにも、公表されていないものも含めて、SIerが所有するDCに同業他社が相乗りするケースは珍しくなくなっている。海外でも、一時期はTISや日立系のSIerなどが中国でのDC設備拡充に意欲的だったが、ここへきてトーンダウンしている。
クラウドサービスの勃興期は、新しい技術が次から次へと登場し、自前でのDC運営のノウハウがなければ新技術に追随できない焦りと、2000年前後のネットビジネス隆盛期に建てられたDCの更新期とが重なったことから、SIerのDC建設が、ここ数年増えていた。首都圏だけでも、TISやNRI、キヤノンマーケティングジャパン、新日鉄住金ソリューションズ、富士通エフ・アイ・ピーなどが最新鋭のDCを竣工している。SIer各社はユーザーの初期の需要は満たしたものの、このままDC設備の拡張を続けるかどうかの判断を迷っているところだ。大手SIer幹部からは「DCの設備貸しだけでは価格競争に勝てず、受注すらも難しい」という声が聞こえてくる。
では、なぜ3ケタ億円規模の先行投資をしながら、収益力が失われてしまうのか。それはひとえに、DC事業がかつてのハードウェアビジネスと構造的に似ているからだ。ハードウェアは薄利だが、販売台数の規模が大きければそれなりに利益が得られる。だからこそ、ダイワボウ情報システムやJBCCホールディングスグループのイグアスなどのディストリビュータは、ハード販売では利益を得られないと判断する多くのSIerを尻目に、ハード販売に積極的に乗り出してきた。
SIer尻目にDC専業は積極的
DCビジネスは、コンピュータリソースを生み出すという点では、サーバーやパソコンなどのハードウェアと共通している。DC設備内にあるか、客先にあるかの違いはあるが、規模のメリットがモノをいう点では同じだ。例えば、DC専業で約6000ラック規模を運営するビットアイルは、今秋開業する新DC棟が加わることで、キャパシティはラック換算で7500ラック規模に増える。独立系DC事業者では最大規模となる。同じくDC専業のIDCフロンティアは、主力の北九州市のDCが5棟で計約2730ラック、福島県白河市のDCが2棟で計約1200ラックに相当する規模。予測可能なキャパシティでは、北九州が計12棟、白河が9棟まで拡張可能なことから理論上は計約1万2000ラック規模になるという。
IDCフロンティアはほぼ毎年のようにDC棟を拡張しており、ビットアイルも計画的にDC規模を拡大。規模が大きくなればなるほどハード部材の購買力が高まり、オーバーヘッドロスも相対的に小さくなる。さらに低価格帯のDCサービスではAmazon Web Services(AWS)など外資勢が価格攻勢を強めており、一定の割合でAWSに客が奪われることも計算に入れる必要がある。SIerのDCは、DC専業事業者やAWSよりも割高な側面があるし、DC専業事業者やAWSの側からみればSIerは重要な「販売パートナー」になり得る存在。したがって、DC専業事業者はSIerとの関係を重視するとともに、SIer自身もDCそのもので稼ぐよりも、DC上で稼働する業務アプリケーションやきめ細かなサービスで収益を得ようとする方向へシフトしている。
SIerは稼ぎにくい自社DCよりも、今後はDC専業事業者やAWSなどの外部DCを積極的に活用していく方向に強く動くだろう。クラウドサービスの拡充を意欲的に進めるJBCCホールディングスも、「自前でDCをもつよりは、外部の施設を借りるほうが経済的」(山田隆司社長)といい、ITホールディングスも現在の中国・天津の約1200ラック相当のDCが完売となる予定の2015年以降、「新しい自社DCを中国で竣工する計画は今のところない」(前西規夫社長)と慎重だ。中国で積極的にビジネスを伸ばしている日立システムズ中国法人の小林茂彦董事長も、「SIerとしての主力は業務アプリケーションの開発やサービス」と捉えて、“箱モノ”の自社所有にこだわらず、収益力のあるソフト・サービス重視の姿勢を明確に示す。(10~13面に関連記事)
DC需要には波がある
次のブームは2020年か?
DCの建設ブームには、明確な波がある。メインフレーム時代から始まって、2000年前後のインターネットに対応したネットビジネス型のDC、2010年前後のクラウドネイティブの次世代型DCと、おおよそ10年周期でブームに沸いてきた。技術革新とDC建屋の寿命との兼ね合いで起こる現象で、新技術に対応したブーム初期はSIerが自前で新型DCを所有しても十分な利益が得られる。しかし、ハードウェアと同じで、発売からの時間の経過とともに価格(料金)は下がり、利幅も縮小する。
IT分野で次世代のイノベーションを予測することはほぼ不可能ではあるが、DC建屋の寿命を考えると、次のブームは2020年頃だと予測できる。それまではSIerの投資によるDC建設は下火となり、DC専業事業者やAWSのような規模で勝る事業者が大きく勢力を伸ばす可能性が高い。仮に2020年頃に次のイノベーションが起こらなかったとすれば、SIerのDC投資ブームも先送りになる可能性があり得る。
SIビジネスはフロー型であって、DC活用ビジネスはストック型であるという収益形態の違いがあり、月額課金で安定して収益を得られるストック型の割合が増えれば増えるほどSIerの収益力は安定する。また、自社DCは好きなように改造できるので、研究開発センターとしての役割や、サービスのプロトタイプ開発に適しており、かつ資金調達の際の“担保”としての資産価値も無視できない。こうしたメリットがある一方で、市場や技術の動向を見据えた中長期の戦略なしには成り立たないリスクも抱えている。