他産業よりも成長率が高いネットサービス産業。BtoB、BtoCを問わず、インターネットを活用したサービスが次々と生まれている。ネットサービス事業者は、ITがビジネスを支える重要なインフラだけにIT投資額が多く、ITベンダーにとっては魅力的なユーザーといえる。伸び盛りのネットサービス事業者の今を探る。(構成/木村剛士)
【User】IT投資額は他産業の2.5倍
インターネットサービス業は新興産業だけに、さまざまな定義があるが、公的機関のなかでは経済産業省の「特定サービス産業実態調査」で分類されている「インターネット付随サービス業」が最も近いジャンルだ。この調査でのインターネット付随サービス業の定義は、「ネットを活用した情報提供やサーバーなどのIT機器の機能をユーザーに提供する事業」。具体的にいえば、ウェブサイトの運営やアプリケーションソフト・コンテンツをネットを通じて提供する企業や、ネットを利用する際のサポートを提供するサービス事業者などを指している。
インターネット付随サービス産業の現状を図1に示した。約1600事業者が存在し、4万人ほどの従業員がいて、産業規模は約1兆円(2010年)。日本の名目GDP(国内総生産額)が約482兆円(2010年)であることからすれば、規模は小さい。だが、ほぼ毎年、前年実績を超えている成長産業である。とくに、BtoCのEC(電子商取引)ビジネスは伸び盛りで、経済産業省によれば、2012年の個人向け製品・サービスのECの前年比伸び率は12.5%増。EC化率も徐々に高まっている。過去5年、ほぼ同じ割合で伸びている(図2)。
インターネットサービス事業者の特徴は、ベンチャーが多く小規模な事業者が大多数であることだ。特定サービス産業実態調査によれば、従業員50人以下の企業が全体の93%を占める。ただ、規模が小さくてもIT投資額は多い。インターネットサービス事業者のIT投資額は、他産業に比べて約2.5倍(経済産業省)だ。ITがビジネスを支える重要なインフラになっているだけに、ITにかける費用が多い傾向がみられる。ITベンダーにとっては規模が小さくても、ある程度の投資が見込める魅力的な顧客といえる。
【Vendor&Maker】DC事業者の存在感が大きい
インターネットサービス事業者はIT投資に積極的なことから、大手のITベンダーは専門の営業部隊を設置しているケースが多い。とくにサーバーの開発・販売部隊では、インターネットサービス事業者のなかでも、年商規模が大きいユーザーに、個別で専門の営業部隊を設置している。
NECのサーバー担当者は、「全業種のなかでサーバーを販売する機会が最も多いのはネットサービス事業者だ。一度に受注できる台数も多く、唯一伸びているマーケットといっても過言ではない」という。この分野ではNECや富士通、日立製作所ほか、日本IBMや日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、デルといったほぼすべてのサーバーメーカーが拡販に力を入れている。
ストレージメーカーも同様だ。インターネットサービス事業者は他業種よりも、大量データの処理が求められるだけではなく、膨大なデータの格納も必要になる。それだけに、ストレージメーカーにとっても魅力的な顧客。EMCジャパンやネットアップなどのストレージメーカーは戦略的にインターネットサービス事業者に焦点を当てた戦略を進めている。
また、インターネットサービス事業者にとって重要になるITベンダーが、データセンター(DC)事業者だ。インターネットサービス事業者は、自社施設内でシステムを運用するよりも、DC事業者の施設内にシステムを預けるケースが他産業よりも多い。重要なインフラだからこそ、プロ(ITベンダー)に任せたほうがいいという考え方が浸透している。DC事業者としては、NTT、KDDI、ソフトバンクといった通信事業者のグループ会社が大規模なDCをもつほか、ビットアイルやさくらインターネット、エヌシーアイ(NCI)、KVHなどの独立系DCベンダーが存在し、また、関電システムソリューションズやオージス総研、アイテック阪神阪急、ほくでん情報テクノロジー、東北インフォメーション・システムズ(TOiNX)などのように、地方に所在するITベンダーが存在感を示している。
大手のDCベンダーは、1か所のDCだけでなく、万が一、システムを運用しているDCにトラブルが発生した際に別の地域のDCに切り替えて運用できるように複数のDCをもつケースが多い。サーバーメーカー同様に、DCベンダーはインターネットサービス事業者をターゲットにした営業活動に積極的で、このマーケットではDCベンダーの存在が欠かせない。
【Solution】ビッグデータと高可用性にニーズ
クラウド技術が進化するとともに、ユーザー企業がIT基盤をITベンダーに預けて運用も任せるケースが増えている。インターネットサービス事業者はビジネスの根幹をなす重要なインフラだけに、情報システム部門のスタッフ数も多く、豊富な知識と高度な技術力をあわせもつスタッフが多い。ITベンダーにとっては、レベルの高いユーザーといえる。
こうした特色があるインターネットサービス事業者に受け入れられるのが、ビッグデータ関連のソリューションと高可用性システムだ。ネットサービス事業者は、他産業の企業よりも扱っているデータの量が多く、強固なIT基盤が必須の業種だ。大量データを効率的に処理するインフラがなければ、多額のコストがかかり、利益を圧迫する。ビッグデータを処理するためのプラットフォームを求める傾向は他産業よりも強い。
そのなかで、注目を集めているのが大量データの効率処理に適したオープンソースソフトウェア(OSS)の「Hadoop」だ。データを複数のサーバーに分散させて処理することに長けているソフトウェアで、2~3年前から注目を集めている。ITベンダーのなかには、すでにインターネットサービス事業者にターゲットを置いたHadoopを活用したソリューションを積極的に提案する動きがある。
一方で、高可用性システムもニーズが高い分野だ。システムの停止時間が売り上げの減少に直結するビジネスモデルだけに、システムの停止は許されない。ハードウェアであれば、ftサーバー、ソフトウェアであればクラスタリングソフトといったシステムを冗長化するための製品は他産業以上に求められる。
高可用性システムに関連して、システムの運用監視ツール・サービスのニーズも高い。システムの状態を常時監視し、トラブルを未然に防ぐほか、万が一システムに不具合が発生しても迅速に復旧する仕組みを取り入れているからだ。一般企業では受け入れられないような高価で高度なツールでも、受け入れられる可能性が高いのがインターネットサービス業。ITベンダーにとっては、高度な提案が要求されるものの、案件単価が高いという魅力があるターゲットだ。