ITベンダーの従来型のビジネスと様相が大きく異なるデータセンター事業。どういうプレーヤーが存在して、各社はどんなサービスを提供し、どのような売り方をしているのか。ここへきて需要が旺盛になってきているデータセンターのビジネスを徹底解剖する。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
DCについての素朴な疑問
調査会社のIDC Japanによれば、2012年末時点の国内のサーバー設置台数273万7000台のうち、98万4300台(36%)が、事業者が運営するデータセンター(DC)内に設置されている。コスト面でのメリットや災害時のデータ保護を考慮して、DCの利用に踏み切る企業は徐々に増えている。時代がITの「所有」から「利用」にシフト転換するなかで、DCサービスの提供はITベンダーにとって有望なビジネスになりつつある。この特集の本題である「DCサービスの売り方」を紹介する前に、まずはDC関連の「そもそも」をコンパクトに解説する。
【Q.】DCサービスとは、利用するメリットは 【A.】DCサービスは、ユーザーが保有するサーバーやストレージなどをユーザーに代わって運用する「ハウジング」、DCが保有するITリソースを貸し出す「ホスティング」、DC内でシステムを構築し、インターネット経由で提供する「クラウド」の3形態が中心になる。近年は、システムが故障したり、被害を受けたりした際のバックアップサイトの構築など、BCP(事業継続計画)を切り口とするサービスも増えている。
DCの利点として、自社で設備を用意する必要がないという「コストメリット」、運用管理をプロに任せることができる「ユーザー側の負荷の低減」、災害時のデータ保護など「セキュリティ」が挙げられる。ちなみに、既存システムの保守切れをきっかけとして、DCサービスの利用に切り替えるユーザー企業が多いといわれている。
【Q.】主要プレーヤーは 【A.】主なDCプレーヤーが集まる日本データセンター協会の正会員は現在、107社。DC事業を手がける会社は、「DC事業者」「システムインテグレータ(SIer)」「PaaS/SaaSベンダー」の三つに大別することができる。これらのほか、富士通やNEC、日本IBMなどのメーカー系もDCを運営している。
DC事業者には、さくらインターネットやIDCフロンティアなどDC専業の企業のほか、通信回線をもつキャリア系企業が含まれる。NTTコミュニケーションズがキャリア系の代表例だ。DC事業者は、センター設備や通信インフラの保有を強みとしており、システム構築に関しては、SIerの力を借りることが多い。
SIerも時代のニーズを読み取り、NTTデータなど大手を中心に、DC事業に力を注いでいる。SIerは、システム構築やアプリケーション開発が本業であることから、とくに中堅・中小SIerは自らDCに投資せず、DC事業者にセンターを借りてビジネスを展開するケースが少なくない。「設備」と「SI」を補い合うことを目指し、DC事業者とSIerの協業が進んでいる。
国産のDC事業者を脅かしているのは、スケールメリットを生かして価格をアグレッシブに設定する外資系のPaaS/SaaSベンダーだ。アマゾンやグーグル、セールスフォース・ドットコムなどである。一方、SIerは、PaaS/SaaSベンダーの設備を利用してサービスを提供することもあるので、必ずしも外資とライバル関係にあるわけではない。
【Q.】どうやって差異化を図るか 【A.】主な差異化点は「価格」「サービスメニュー」「立地条件」の三つ。サービスの価格を下げるために、郊外の安価な土地にDCを建設したり、外気や省エネ機器を取り入れて電気料金を低減したりなど、DC事業者はあらゆる手を打っている。
一方、価格で勝負せず、ホスティングやハウジング、バックアップサイトの構築などの充実したサービスメニューを武器とするプレーヤーも存在する。DC利用によるビジネスの改善を提案し、投資を中期的に回収することができることを訴求するわけだ。
東日本大震災の発生をきっかけとしてユーザー側がとくに重視するのは、地震や津波のリスクはどのくらいあるかといった立地条件だ。ベンダーは、北海道や沖縄など、震災が発生する確率が比較的低い場所にDCを建設し、第三者機関のデータを使ってリスクの低さをアピールする。また、ベンダー数社で提携し、震災に備えたDC分散サービスを提供する動きが活発になっている。
【Q.】今後もDCビジネスは盛り上がるか 【A.】クラウドの普及やビッグデータ活用などによって、DCの需要は向こう数年の間、活発に伸び続ける確率が高い。災害対策の一環として、自社に企業内DCを設けずに、DCの専門事業者の設備やサービスを利用する企業が増えると見込まれる。
DC事業各社は、需要の拡大に備えてセンターの新設・増設に取り組んでいる。IDC Japanは、DC事業者がセンター建設に投資する金額は、2017年までに1500億円以上に伸びると予測している(図2参照)。その影響で、DC向けIT機器やファシリティを提供するなどの周辺ビジネスも活性化するとみられる。
一方で、DC事業者間の競争が激化している。プレーヤーの淘汰が進み、数年後には大手数社に集中されるという見方が強い。各社は生き残りをかけ、設備の改善やサービスメニューの拡充を急いでいる。
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