NTTデータ(岩本敏男社長)は、2015年1月、中国事業を統合再編した。中国のグループ会社が保有するノウハウやスキル、営業・開発の人的リソースを集約し、中国国内向けビジネスを中心とする事業会社をNTT DATA(中国)=NDCに、オフショア事業を中心とする事業会社をNTT DATA(中国)信息技術(NCIT=旧無錫NTT DATA)に再編。中国の投資子会社、NTT DATA(中国)投資=NDCIを地域統括会社に位置づけた。NTTデータの中国総代表で、NDCとNDCIの董事長を務める稲葉雅人執行役員に、統合再編の狙いと今後の構想について聞いた。(取材・文/上海支局 真鍋武)
稲葉雅人
執行役員 中国総代表
1959年生まれ、東京都出身。東北大学工学部を卒業後、日本電信電話(NTT)に入社。その後、海外事業の要職を歴任し、NTT中国総代表などを経て、2014年6月、NTTデータ執行役員中国総代表、NTT DATA(中国)投資董事長、NTT DATA(中国)董事長に就任した。
中国事業の人員規模は維持
──今回の中国事業の統合再編の背景と狙いについて教えてください。 稲葉 大きな目的はオフショアビジネスの最適化です。2012年末から急激な円安が進行していて、ここ2年間で為替レートは50%ほど変動しました。当社のオフショアビジネスは円ベースの契約ですので、円安は利益に直結する死活問題です。そこで将来を見据えて、統合再編の検討を始めました。
──統合再編によって、具体的にオフショアビジネスがどのように変わったのですか。 稲葉 NTTデータのオフショアビジネスは、これまで北京のNTT DATA(中国)=NDCと無錫NTT DATAが二大拠点で、各社が個別に日本から案件を請け負っていました。ですので、北京が忙しいときに無錫の稼働率が低かったり、その逆のケースがあったりしました。そこで、これを一つの会社に統合して、稼働率の向上を目指したわけです。
実は2014年4月から、先行して、各社がもつ技術・ノウハウの共有を進めてきました。NDCと無錫NTT DATAは、それぞれ得意分野をもっていましたが、稼働率を向上するためには、双方が同じ技術・ノウハウを有している必要があったのです。それが一定の段階に達したことを受けて、今年1月に統合しました。
──中国事業の人員体制に変化はありませんか。最近、オフショア開発の状況が厳しくなったことを受けて、人員を削減したり、事業から撤退したりする企業が出てきています。 稲葉 NTTデータの中国事業の人員数は4000人規模で、以前と変わっていませんし、削減もしていません。ただし、自然減はあります。北京では、とくに人件費が高騰しているので、採用を控えていますし、退職者が一定数いることは事実です。
──では、今後も4000人の規模を維持する方針でしょうか。 稲葉 そのつもりです。受注は減っていませんし、日本では技術者不足が深刻化している状況ですから、むしろこれから受注が増えてくると期待しています。中国側が自ら進んで人員削減することはありません。中国でしっかりとした技術を身につけて、NTTデータの一部を担う会社として成長していく。この姿勢に変わりはありません。
円安は難敵だが果敢に攻める
──受注量は増加傾向にあるとしても、利益を捻出することは難しくなっています。NTTデータは、人件費が安い内陸地の活用や、ソフト開発の上流工程へのシフトなどを以前から進めておられますが、対策は十分でしょうか。 稲葉 対策は欠かせませんね。NTTデータでは、ソフトウェア開発の工程を簡易化する自動化ツールを保有しているので、中国でも現在、その導入を急ピッチで進めています。これによって、少ない工数でより多くのソフトウェアをつくることができるようになります。そうすれば、人件費が増大しても、多少はカバーできます。ただし、これだけでは、今の円安に対応することは厳しい。そこで今回、組織を再編したわけです。
──日本は技術者不足ですが、受注金額の値上げには望みがありますか。 稲葉 当然、値上げもしています。しかし、オフショア開発は、日本のマーケットとの価格競争になりますから、日本よりも安くなければ勝ち目はありません。日本は技術者不足ですので、人月単価は上昇傾向にあると思いますし、多少の値上げをこちらも要求することができます。しかし、値上げをしたところで、円安の影響をカバーしきれませんね。
──円安がどこまで進めば、オフショア開発で利益が出せなくなるとみていますか。 稲葉 当社の場合、1元あたり22~24円になると、相当厳しくなりますね。2015年の為替レートは、1元あたり19円と想定しています。最近は為替の動きが落ち着いてきたので、少しほっとしています。しかし、現段階では、この為替レートで十分に利益を出せるレベルに至っていませんので、今回の組織再編に加えて、細かな調整を進めていく必要があります。
──稲葉さんは、これからのオフショア開発のあり方についてどのようにお考えですか。 稲葉 状況は確かに厳しくなっていますが、私はオフショアビジネスには前向きです。肌で感じているのは、時代が変わってきていること。昔のオフショア開発は、安さに最大の価値を置いていましたが、今は違います。安さのメリットは薄れている。さらに、日本では技術者が不足している状況にあって、優秀な人材を国内で大量に確保することは難しい。ソフトウェア開発の部隊を、数千人規模で抱えることができるのは中国ならではです。これを生かさない手はありません。
潮目は確実に変わってきていて、もはや中国を日本の会社の一部として活用していかないと、日本の社会そのものを維持できない状況になりつつあります。日本のお客様のために、価値のある高品質なソフトウェアをお届けることがわれわれの使命です。