「ハコ売り」からの脱却を目指し、変革の途上にある米IBM。CAMSS(クラウド、アナリティクス、モバイル、ソーシャル、セキュリティ)という五つのトレンドを軸としたソリューションに注力する方針であることを、近年、繰り返し発信してきた。ただ、こうした変革に販売パートナーがついてこれているかといえば、必ずしもそうとはいえない状況であるのも事実だ。そこで米IBMは、まずソフトウェア事業で、いち早くCAMSSを軸にした製品群・ブランドの再編に着手し、パートナーのCAMSSソリューション提案を促進・支援する体制を整えつつある。当然、その影響は日本IBMにも及んでいる。いまだにx86サーバー事業売却の衝撃に揺れている伝統的なIBM販社も多いなか、IBMの新たなチャネル戦略のアウトラインが、ようやくみえてきた。(本多和幸)
グローバルでチャネル対応の組織を統一
米IBMは、2月にラスベガスで開いたビジネスパートナー向け年次イベント「IBM PartnerWorld Leadership Conference(PWLC) 2015」で、IBMのパートナー対応の組織を「The One Channel Team」として一つに統合したと発表した。これまでは、ハードウェア、ソフトウェアなど四つの事業別に縦割りでパートナープログラムを運用していたが、パートナーに「ハコ売り」を脱却してもらい、顧客のビジネスプロセスに即したソリューション提案を促すには、IBM側も縦割りのパートナー戦略をあらためる必要があった。

清水徳行
理事
ソフトウェアパートナー事業事業部長 この動きの背景としては、コモディティ化したx86サーバー事業「System x」をレノボに売却した影響が大きい。日本IBMの清水徳行・理事ソフトウェアパートナー事業事業部長は、「伝統的にIBMは、ハードウェアを中心としたパートナービジネスが強く、ハードウェアのパートナーとソフトウェアのパートナーは、ある部分で競合関係が発生することもあり、IBM側も一つの組織として両者に対応するのは難しかった。しかし、System xを売却したことで、ハードウェアはメインフレームの「System z」や独自OSを搭載する「IBM Power Systems」、あとはストレージ製品がラインアップの中心になったが、System zは直販メインであることから、従来のハードウェアのパートナーにSystem xのビジネスがなくなった分を補ってもらうためには、クラウド商材を含め、ソフトウェア製品も合わせて扱ってもらうことで、シナジーを発揮してもらう必要があるという事情が出てきた」と説明する。
The One Channel TeamでIBMが具体的に実行しようとしているのは、多くのパートナーがCAMSSに沿ったソリューションを顧客に提供できるようにすることだ。そのためには、製品群のブランディングもCAMSSという軸で再編する必要がある。米IBMは、システム製品、クラウド、アナリティクス、セキュリティ、コマース、ワトソン(人工知能)、ヘルスケアという七つの軸で、まずはソフトウェア製品の体系を整理した。主なブランドを新しい軸でどう再編したかは、次ページの図に示した。実際には、ほとんどの既存のソフトウェア製品の再編はワトソン、ヘルスケアを除く五つの軸でなされているが、この軸ごとにさまざまなブランドの製品を統一的に扱うことで、ソリューション提案がしやすくなるように、体制を整えたというわけだ。日本IBMのソフトウェアパートナー事業部も、ほぼこの軸に沿ったかたちで組織を再編し、新体制ですでに動き始めている。清水事業部長は、「実質的にはCAMSSにほぼ沿った組織体系にグローバルでも変革した。日本IBMも、ソフトウェアのパートナー支援体制も同じ軸で再編したため、パートナーにとっては、長い目でみてCAMSSソリューション提案をやりやすくなったといえる」と、狙いを説明する。
伝統的なIBM販社をあらためて取り込む
米IBMはPWLC 2015で、System xの売却により離れていった販売パートナーがいる一方で、ソフトウェアを中心に、それ以上の新規パートナーを獲得していることも明らかにした。清水事業部長も、「ソフトウェア事業がこれからのIBMの戦略の軸になる」と力を込める。事実、CAMSSへの注力に向けては、ソフトウェアが先行して組織やパートナー戦略の変革をリードしている。
では、実際に日本市場で、どのようにビジネスを成長させていくのか。まず注力するのは、VADとの連携強化だ。ハードウェア同様、ソフトウェアも昨年から日本IBMが直接取引するのは数社のVADに絞り込んでおり、VADがリセラーに商材を卸すかたちをとっている。ソフトウェアのVADはイグアス、NI+Cパートナーズ、ネットワールド、ソフトバンクC&Sの4社だが、「彼らのミニIBMとしての役割をしっかり果たしてもらえるように、IBMとしても投資を積極的に行っている」(清水事業部長)という。
この4社のVADと連携し、リセラーの拡大に取り組むわけだが、最優先で手をつけるのは、全国の「伝統的なIBM販社」のてこ入れだ。もともと、とくに地方のIBMパートナーは、サーバー系のパートナーが多かった。彼らの多くはレノボに移管した後もSystem xを販売しているが、競合の攻勢などによりなかなか受注が伸びず、IBMが事実上、System xの後継ビジネスと位置づけるIaaSの「SoftLayer」にしても、サーバー製品に比べれば単価が低いため、ハードウェアの売り上げへの依存度が高い伝統的なIBM販社はそれほど積極的に手がけていないことは、本紙でも既報の通りだ。しかし、CAMSS対応を進めたソフトウェア事業のパートナーとして、彼らをソフトウェア販売のエコシステムにあらためて招き入れることで、ソリューション提案へのシフトを促すことができると考えているのだ。
清水事業部長は、「ハードウェア中心にこれまでおつき合いのあった地方のパートナーのなかにも、顧客の業務プロセスに即したソリューション提案ができるパートナーが相当数おられるとみている。手厚い報奨金プログラムやスキル習得プログラム、マーケティング支援金プログラムなどをすでに用意していて、彼らをソフトウェアパートナーとして獲得することに、とくに力を入れていかなければならないと思っている」と話す。一方で、「地方のパートナーは、CAMSSのすべてをカバーできない場合が多いのも実際のところ。ミッドマーケットは最終的にすべてパートナービジネスでカバーしたいと考えているので、『専門性』をキーワードに、強みをもつ領域があり、リードの獲得を含めて新規顧客の開拓までしっかりやってくれるパートナーを、VADと協力してリクルーティングしていく」と、ただ闇雲に既存のハード販社に声をかける方針ではないことも強調する。
VADのなかには、「CAMSSセンター」のようなものをつくって、そこに専属の人間を置き、リセラーやリセラー候補のベンダーを招いてリクルーティングやスキル教育に取り組み始めようという動きも出てきているという。こうしたIBMの変革に対して、伝統的なIBM販社の反応は「まだほとんどない」(清水事業部長)というが、この新しいパートナー戦略が機能するかどうかは、CAMSSへのシフトが成功するかどうかの試金石になりそうである。