米エバーノート(フィル・リービンCEO)は、熊本県人吉市のクラウド専業ベンダーであるシステムフォレスト(富山孝治代表取締役)と、法人向けクラウドサービス「Evernote Business」の販売代理店契約を結んだ。Evernote Businessの販売代理店は、NTTドコモに続いて全世界で2社目。この協業には、地方でのクラウドビジネス成功のヒントが隠されている。(本多和幸)
ローカルベンダーが選ばれた理由
全国に販売網をもつドコモはともかく、システムフォレストは、九州を中心に事業展開するローカルベンダーだ。米エバーノートは、なぜ同社を販売代理店に選んだのか。その理由は、「地域密着型のクラウドビジネスで成功しているから」ということに尽きる。エバーノート日本法人の井上健・ゼネラルマネージャー(GM)は、「Evernote Businessを真に全国に浸透させるためには、全国的な販売網と大規模な営業リソースをもつドコモのような代理店に売ってもらうのと並行して、地域から全国に広げていくという取り組みも必要になる。システムフォレストとの協業は、その強力な原動力になる」と期待を寄せる。
今回の米エバーノートとシステムフォレストの協業で特徴的なのは、システムフォレストがハブになって、全国9社のリセラー網を整備したことだ。地元九州はもちろんのこと、東北、関東、関西を網羅し、いずれも地域密着型のクラウドビジネスを主要事業とするベンダーが参加している(内訳は図を参照)。井上GMが目論む「地域から全国への浸透」は遠い将来の構想ではなく、そのための体制が整いつつあるということになる。実は、こうした販売網の構築も、システムフォレストにとってはすでに成功体験がある。
受託開発からの事業転換
システムフォレストは、もともと、受託開発を主要事業とする、よくあるローカルベンダーでしかなかった。しかし、リーマン・ショック後に仕事が激減し、経営戦略の抜本的な変革を余儀なくされることになる。そんなときに、富山代表取締役が出会ったのが、セールスフォース・ドットコムのクラウドCRM「Salesforce」だった。「分析に長けているなど、製品の機能そのものもすぐれているが、営業を科学するツールとしての精神や哲学が従来の製品とはまったく違うので、大きな可能性を感じた。実際に自分たちで導入してみて、これは自信をもってお客様に勧められる製品だと確信したこともあって、それまでの受託開発をすべてやめ、Salesforceを担いでクラウドビジネスに100%転換すると覚悟を決めた」(富山代表取締役)と振り返る。
富山代表取締役自らが率先して泥臭く動き回り、セミナーなどを開催して確度の高いリードを発掘していった。やがて、地域密着型のクラウドビジネスの成功のキーポイントにたどり着いたという。富山代表取締役は、「クラウドサービスは、ユーザーがこれをどう使って、どんな効果を目指すべきかなどの導入コンサルティングが重要であるとともに、使い続けてもらうための取り組みも必要。そこで、定着化支援をサービスメニュー化した。これにより、解約率が非常に低くなり、ストックビジネスとしての単価も上がった」と説明する。

握手を交わすシステムフォレストの富山孝治・代表取締役(右)とエバーノートの井上健・ゼネラルマネージャー ただし、リソースに恵まれているわけではないローカルベンダーがこうした業務を展開できる地理的な範囲は限られる。そこでシステムフォレストは、地域密着型で業務を展開し、顧客の課題を熟知する九州地区内のローカルベンダー10社以上と手を組み、Salesforceの導入や定着化支援を展開するパートナー網を形成した。各地域の参加ベンダーが顧客との直接的なコミュニケーションを担当。Salesforceのビジネスで先行し、製品情報や活用ノウハウに精通したシステムフォレストがとりまとめ役となり、参加ベンダーへの営業支援やプロジェクト支援を行っている。この仕組みは大きな成果を生み、2014年度の九州地区のSalesforceユーザー数は465社を超え、単年度での売上高は東名阪を超えたという。「セールスフォースのパートナーエコシステムの中でも画期的な取り組みだったと自負している。セールスフォースとのライセンス契約をシステムフォレストだけが結ぶことで、個別の参加ベンダーはSalesforceの販売を小さなリスクや負担で手がけることができる。当社も、この仕組みが機能すればリターンは大きいわけで、結果的にうまくいった」と、富山代表取締役は手応えを語る。
ユーザー会の結成で盛り上げていく
Evernote Businessも、ほぼ同様のスキームで拡販に挑む。ただし、注目商材ではあるものの、1か月あたりの使用料は1ユーザー1100円と、Salesforceに比べて非常に少額だ。システムフォレストは、これを再販することにどんなビジネス上の価値を見出しているのだろうか。富山代表取締役は、クラウドソリューション提案の価値を高めるパーツとして、Evernote Businessのポテンシャルを高く評価している。「例えば、SalesforceとEvernote Businessを連携させれば、Salesforceの顧客情報にEvernoteに保存された情報を紐づけることができる。Salesforceだけでは非構造化データを活用できないが、Evernote Businessを使うことで構造化データと非構造化データを有機的につなぎ、新しい価値を生み出すことができる」。
まずは、9社のパートナーと連携し、今春だけで20回以上のセミナーを全国で開く予定だ。また、エバーノート日本法人とも連携し、Evernote businessユーザー会の設立にも動く方針だ。富山代表取締役は、「Salesforceは、ユーザー会の活発な活動がビジネス拡大を大きく後押しした。Evernote businessも、同じようにユーザー会のようなものをつくって事例を共有したりして議論を盛り上げていきたい」と話している。
エバーノート側も、「日本市場でのEvernote Businessのパートナーエコシステム構築のきっかけになるモデル」(井上GM)として、さらに連携を強化していく意向だ。
Evernote Businessとは?
テキストメモや音声データ、ウェブページといった、さまざまな情報をクラウド上に保存し、マルチデバイスで閲覧・編集できるEvernoteの法人向け製品。検索機能も「売り」として訴求している。ユーザー数は、全世界で1万6000社を超えている。