町田市立図書館は、本の予約貸し出しシステムにカラーバーコードを採用した。予約した本が、書棚のどこにあるのかを即座に知らせる仕組みをNTTデータが開発。カラーバーコードは、通常のバーコードと異なり、離れたところからでもカメラでコードを読み取ることができる特性を応用している。これによって利用者の予約・貸し出しの利便性を高めるとともに、図書館側の作業効率化につなげている。
【今回の事例内容】
<導入団体>町田市立図書館町田市立図書館は、本館の中央図書館を筆頭に、地域図書館の鶴川図書館、さるびあ図書館、金森図書館など計9館を市内に展開し、運営している。地域図書館の拡充に力を入れており、今年に入って忠生図書館が開業している
<決断した人>吉岡一憲
担当課長
カラーバーコード導入の推進役を担う。予約棚のリアルタイム位置検索と、棚卸し業務に適用。職員の業務負担の軽減を実現している
<課題>地域図書館の数が増える状況にあっても、職員の人員は抑えられているため、ITシステムの活用で業務の効率化が避けられない状況だった
<対策>図書館システム開発で取引関係にあったNTTデータに相談したところ、カラーバーコードの活用を提案された
<効果>従来のICタグでは実現できなかったことがカラーバーコードによって実現
<今回の事例から学ぶポイント>図書館業務におけるカラーバーコードの活用実績はまだ少ないにもかかわらず、町田市立図書館はNTTデータと密に連携をとって、先進システムの実用化によって業務の大幅な効率化につなげた
「ICタグ」では実現できない
町田市立図書館ではICタグ(無線タグ)や従来型バーコード、番号シールなど複数の手法を組み合わせて蔵書を管理している。今回、新たにカラーバーコードを追加導入したのは、「予約貸し出しの専用棚」と「蔵書点検」の二点で効果があると判断したからだ。貸し出しや返却といった業務には従来通りICタグを使っている。では、なぜ「予約貸し出し棚」と「蔵書点検」にカラーバーコードが威力を発揮するのか。
まず、利用者が図書館やウェブから本の予約を入れると、本が揃い次第「予約棚」に予約された本が集められる。ただ、利用者からすると、びっしりと本が詰まった予約棚から自分が予約した本を探すのは容易なことではない。
そこでカラーバーコードを本の背に貼ることで、どこにどの本があるのか即座に把握できるようになるというわけだ。カラーバーコードは数メートル離れた場所から、カメラでその情報を読み取ることが可能で、「職員が予約棚のどこに本を置いても、カメラが即座に情報を読み取って、予約した本が棚のどこにあるのかを、リアルタイムに利用者に伝えてくれる」(町田市立図書館の吉岡一憲・図書館サービス担当課長)ようになった。

図書の背表紙にカラーバーコードの「カメレオンコード」が貼ってある。あまりに小さいので肉眼では見えにくいが、スマートフォンのカメラ程度の性能で必要十分な読み取り精度がある もう一つカラーバーコードに期待していることは、図書の“棚卸し”作業の効率化である。毎年、数日間の休館日を設けて、図書館本館と町田市内にある地域図書館の本およそ計100万冊を棚卸ししている。これまでは従来型バーコードやICタグなどでチェックしていたが、この方式では職員が1冊ずつ本を手に取ってコードを読み取らなければならなかった。ICタグは非接触の無線方式なのだが、どの本のコードを読み取り損ねたのかはっきりしないという大きな課題があった。「ICタグの読み取りが100%であればいいのだが、実際にはアンテナ部分が損傷していたり、電波干渉で読み取りエラーを起こしたりと、完璧ではなかった」(同)と話す。
スマホなどの市販機器を応用

NTTデータ
長谷川康彦
PFI推進部主任 この点、カラーバーコードを使えば、書棚にある本を職員が手持ちのスマートフォン(スマホ)のカメラで写すだけで、その棚にどのような本があるのか判別できる。もちろんカラーバーコードが汚れていたり、破損していればエラーが起きるわけだが、どこでどの本に読み取りエラーが起こったのかをスマホの画面上に表示する機能を実装し、読み漏らしを確実にチェックできる仕組みにした。また、多くの職員がスマホに使い慣れていることもあって、機器操作を覚える手間も省ける。
さらに、カラーバーコードは、市販のプリンタでカラーバーコードを出力でき、市販のカメラ、市販のスマホで読み取れるなど、カラーバーコードに関するソフトウェアを除くハードウェア部分は、すべて汎用機器を使える。このため「ICタグに比べて大幅にコストを削れる」(カラーバーコードのシステムを実装したNTTデータの長谷川康彦・PFI推進部主任)という。カラーバーコードそのものは複数のベンダーが開発しているが、NTTデータが選定したのは都内に本社を置くシフトの「カメレオンコード」と呼ばれるもので、町田市立図書館の要望に応えられるかどうかNTTデータとシフトの間で「何度も試験を繰り返して検証した」(長谷川主任)。
今年3月にカメレオンコードを導入した町田市立図書館では、さっそく予約棚に適用。受付機で発行されるレシート状の紙片に予約棚のどこに予約した本が置かれているのかが記されており、利用者は迷うことなく本を手にできるようになった。本の場所はカメラがほぼリアルタイムでカメレオンコードを読み取っているため、仮に本が他の棚へ移されても、現在の場所が受付機に反映されるようになっている。セルフ貸し出しシステムは従来通りICタグを使って貸し出し手続きを行っており、カメレオンコードとICタグの特性を踏まえ、「適材適所で使い分ける」(町田市立図書館の吉岡担当課長)ことで、図書館業務の効率化を果たしている。(安藤章司)