インターネットを活用した転職支援サービスで急成長中のビズリーチは、その業態の特性上、当然ともいえるが、ユーザーの行動情報など、さまざまなデータに基づいてサービスの企画やクオリティの向上に取り組んでいる。エンジニアリングやデータサイエンスに大きな力を注いでいて、もちろん、ITツールの導入にも積極的だ。注目のベンチャー企業は、どんな“攻めのIT投資”をしているのか。
【今回の事例内容】
<導入企業>ビズリーチ管理職・グローバル人材の転職サイト「ビズリーチ」をはじめ、インターネットを活用した転職支援サービスを展開する。2014年12月現在で従業員数は348人
<決断した人>カスタマーサービス部
サービス企画マネージャー兼メディアプロデューサー
小川晋一郎 氏
大手情報サービス会社で法人営業、コンサルタント、新規事業企画、データサイエンティストを経験し、2014年にビズリーチに参画。データサイエンスのスキルを生かし、サービス企画・設計を担当する。
<課題>意思決定の根拠となるKPIの管理・レポートをExcelでこなしていたが、業務の負荷が大きかった
<対策>BIツール「Tableau」のデスクトップ版を導入するとともに、AWS(Amazon Web Services)のDWHである「Amazon Redshift」を使って、データソースと常時接続する仕組みを構築
<効果>従来のKPI管理・レポートの業務プロセスを自動化できた
<今回の事例から学ぶポイント>ユーザーがやりたいことを明確にし、社内のエンジニアもうまく巻き込むことで、IT導入の効果が最大化できる
Excelでの作業に限界
大手情報サービス企業でのデータサイエンティストとしての経験を、サービス企画に生かすべく、2014年3月にビズリーチに参画した小川晋一郎・カスタマーサービス部サービス企画マネージャー兼メディアプロデューサー。入社後は、主力サービスである管理職・グローバル人材の転職サイト「ビズリーチ」を主な対象として、KPIの管理など“数字”を見る仕事に携わることになった。当時、同社ではKPIの管理にExcelを使っていた。「週に1回、レポートをCSVではき出してExcelに貼り付け、グラフに加工するというような流れだった」と、小川マネージャーは振り返る。
しかし、実はここに効率の悪さを感じていた。同社サービスのKPIは数百項目にわたり、Excelにデータを貼り付けてかたちを整えるだけでもそれなりの時間を要することになるし、意思決定の基になる資料なので雑な処理もできない。「これだけで半日ぐらいかかってしまう、なかなか手間のかかる作業だった」という。

Tableauのインターフェースイメージ さらに小川マネージャーは、「KPIが週に1回しか更新されないことも問題」だと考えていた。「指標はできれば毎日見て、“健康状態”を管理したかった。また、指標を見て、ここがおかしいけど細かく見たらどうなっているんだろうというような疑問が出てきた時に、データを深掘りしようとすると、システムの管理側にデータの抽出をあらためて依頼する必要があって、その部分のレポートは次週になってしまうということもあった」。インターネットサービスを手がける企業としては、こうした部分でのスピード感のなさが大きなリスクになるという危機感があったのだ。
小川マネージャーは、自身で調べるのはもちろんのこと、これまでのキャリアで出会ったデータ分析ツールに精通した知人も頼り、打開策を練るための情報収集を進めた。そうしてたどり着いたのが、タブローソフトウェアのBIツール「Tableau」だった。
直感的な使いやすさが魅力
BIツールの選定にあたっては、いくつか競合製品を比較した。「知人が進めてくれたので、Tableauをひいき目では見ていた(笑)」と小川マネージャーは実際のところを語るが、当然ながら、明確なメリットを見出していた。「まず、Tableauのデスクトップ版はライセンス買い切りなので、試しに使ってみるというやり方にも対応できる料金体系だった。機能面でも、私自身、それほどITツールに強いタイプではないが、直感的に使いやすかった。例えば、データをピボットしただけでグラフが自動でレコメンドされて出てくる。ある意味で特殊スキルだった業務が、非常に手軽にできるようになった。グラフィックもすごく綺麗で、説得力のあるプレゼンにつながっている。BIを浸透させ、データドリブンで意思決定できる組織にしたいと考えていたが、それを後押ししてくれるツールだと感じた」。さらに、タブローソフトウェアの業績が伸びていて、開発投資を重視している点も大きかったという。
ビズリーチでは、四半期ごとに合宿を開き、ディレクター陣が事業構想を議論している。小川マネージャーはこの場でTableauの導入を提案し、即座に合意を得て、昨年5月にはライセンスを購入した。ただし、当初はExcelの代わりとして使っていたのが実態。小川マネージャーは、それでは業務の効率改善としては不十分だと感じていた。そこで、情報収集のためにTableauのユーザー会に赴き、AWS(Amazon Web Services)のDWHである「Amazon Redshift」を使ってデータソースとTableauを常時接続する仕組みを構築すれば、レポーティングまでを自動化することができそうだという手応えを得た。社内のエンジニアの協力も取り付け、年末にはベータ版の稼働が始まり、年明けには本稼働に至った。
「手でレポートを出す必要はまったくなくなったので、いったんは目的を達成できた」と、小川マネージャーは手応えを語る。ただし、「ゴールはここではない」とも強調する。「もっと多くの人が数字を見ながら意思決定できるようにしたい。究極は、個人個人がそれぞれの立場で見るべきデータをリアルタイムで得られる仕組みを考えたい」と、小川マネージャーのチャレンジは続く。(本多和幸)