データセンター(DC)世界大手の米エクイニクスによる、国内大手DC事業者のビットアイルの買収発表は、情報サービス業界におけるDCビジネスに少なからぬ影響を与えている。ビットアイルは、緻密な計画にもとづく的確なDC設備投資によって、右肩上がりで売り上げを伸ばしてきた優良会社である。それでも企業売買を手がける会社の「売り出し中リストのなかにビットアイルの名前が出ていた」と、ある大手SIer幹部は証言する。ビットアイルの株主はオーガニック成長をするより、売却した方が利益が大きいと考えたようだ。(安藤章司)
業界に大きなインパクト

エクイニクス・ ジャパン
古田敬
代表取締役 米エクイニクスは、同社日本法人を通じてビットアイルの株式公開買い付けを、10月26日まで行っている。買収価格の総額は、333億円(2億8000万ドル相当)の見込みで、早ければ来年初めには全株式の取得が完了する予定だという。この買収価格についてエクイニクス・ジャパンの古田敬代表取締役は、週刊BCNの取材に対し、「発表していること以外、何も言えない」としつつも、「米本社とビットアイルの株主、双方にとって魅力ある価格だ」と話す。
ビットアイルは東京5か所、大阪1か所にDCをもつ国内有数の独立系DC専業事業者だ。都内の「第5データセンター」(ラック換算で1440ラック相当)は、今年3月に開業したばかりで、熱効率の高い最新鋭の設備を投入している。同社の計6か所すべてのDC累計のラック換算数は、7500ラック相当になる。ビットアイルに対するM&Aが達成されれば、エクイニクスグループの国内累計DCは、東京9か所、大阪2か所、ラック換算での総ラック数は1万2000相当(ビットアイル分の7500ラック相当を含む)の規模へとほぼ倍増する。エクイニクスでは2016年第1四半期(1~3月期)に、都内に新しいDCを開設予定であるため、東京・大阪を合わせて、計12か所へと増えることになる。

ビットアイル
寺田航平
社長 情報サービス業界に大きなインパクトを与えた点は、国内におけるエクイニクスの存在感が増し、規模の論理で価格を含めた競争力が高まるという脅威が一つ。二つ目は、堅実な業績を積み上げて、緻密で計画的な設備投資で売り上げを伸ばしてきたビットアイルが、どうして(株主の意向があったとはいえ)売りに出ることになったのか。三つ目は、DC専業の業態で勝ち残るには、規模が重要だと改めてみせつけられた格好となったことだ。
エクイニクス側からみれば、DCの設備規模を一気に倍増できるメリットが大きい。新しいDCを自らつくろうにも、東京五輪開催に向けて建設資材や人件費が高騰しており、容易ではない。実際、ビットアイルも第5DCを開業した際の説明会で、寺田航平社長が、「DCの建設費用が4割ほど上がっている」と述べている。その一方で、DC需要は堅調に伸びていることから、「エクイニクスは、とにかく設備が欲しかったのではないか」(別のDC事業者幹部)との声が聞こえてくる。
設備と顧客基盤に着目か
エクイニクスは、世界主要33都市でDCを展開している世界大手で、他の複数のDCや通信事業者との“相互接続”サービスを強みとしている。空港に例えれば“ハブ空港”のポジションの獲得に成功したDC事業者だと評価される。空港でもそうだが、いったん、ハブ拠点の地歩を固めると、相互接続(乗り継ぎの利便性)を求めて次から次へとユーザーが集まる好循環を生み出せる。
このためエクイニクスは、世界のどこへ行っても均質なサービスを提供できるよう、徹底的な標準化、共通基盤を独自に構築してきた。こういった技術的な側面からみると、日本国内で独自に発展してきたビットアイルに、技術的魅力を感じたというよりは、設備と顧客基盤に333億円を投じることになる。
折しも円安傾向が続いているため、米本社にとってみれば割安であり、主に国内のビットアイル株主にとっては、利益になる提案だったようだ。
DC事業者のタイプは、エクイニクスやビットアイルのようなDC専業事業者と、NTTコミュニケーションズやIDCフロンティアなどの通信キャリア系事業者、SIer/コンピュータメーカー系事業者の大きく三つに分かれる。
エクイニクスからみれば通信キャリア系DCは、特定のキャリアの色がつきやすくなることから、M&Aの対象になりにくい。マルチキャリア・マルチベンダーが、中立のハブ拠点には強く求められるからだ。SIer/コンピュータメーカー系は、彼らのビジネスと密接に絡んでいるため、エクイニクスが欲している最新鋭のDC設備だけを切り離して売りに出すことは考えにくい。
SIerからビットアイルをみたケースでは、「DC設備だけが増えても、本業のシステム構築(SI)との相乗効果がよほどはっきりとみえない限り、食指を動かすことはない」(大手SIer幹部)と話す。これらの結果として、エクイニクスがビットアイルに白羽の矢を立てたのだ。
過去を振り返れば、DC専業のさくらインターネットが双日傘下に入り、その後、国内有数の大規模DCを北海道石狩に開設。英DC大手のColtテクノロジーサービスは、昨年末に兄弟会社の旧KVH(現Coltテクノロジーサービス)を買収した。また、ITホールディングスグループのTISが、来年、関西で竣工予定の大型DCは、同業ライバルである野村総合研究所(NRI)と共同で建設している。
通信キャリア系やSIer/コンピュータメーカー系のDC事業者は、グループの本業を支えるという側面が強いが、DC専業の場合は、DC単体で強力な差別化を成し遂げ、収益を上げなければならない。それだけに、今回のエクイニクスのビットアイル買収劇に触発されるかたちで、DC専業事業者の再編が加速する可能性がある。