米デルは、10月20日から22日までの3日間、本社を置く米テキサス州のオースティンで、プライベートイベント「Dell World 2015」を開いた。同社は、10月12日にEMCを670億ドル(約8兆円)で買収すると発表し、市場に衝撃を与えたばかり。今後の具体的なビジョンにどの程度言及するのか、マイケル・デル会長兼CEOらの発言に注目が集まった。(本多和幸)
22分野のリーダー企業に

米デル
マイケル・デル
会長兼CEO 「EMCと組めることに、非常に興奮している。サーバー、ストレージ、仮想化、PCというITの四つの主要分野で世界をリードする企業が誕生し、極めて強力な新規市場開拓のエンジンをもつことになる」。Dell World 2015が開幕した20日の記者会見で、デル会長兼CEOはこう切り出した。そして、新興市場やSMBに強いデルと大企業に強いEMCが、顧客基盤やチャネルといった資産を共有することで、相互の製品・サービスの市場を拡大できるとの考えを示した。さらに、「結果として、製品分野ごとの勢力図を示すガートナーのマジック・クアドランドにおいて、22分野でリーダーポジションを獲得することになる。そして、それらがすべて株式非公開企業として経営される。両社のイノベーションエンジンが合わさることでR&Dも強化されるし、当社のワールドクラスのサプライチェーンもEMCグループの製品で活用できるようになる。収益は800億ドル以上になる見込みだ。どれだけすばらしいポジションをもった会社になるのかわかってもらえるだろう」と、EMC買収の意義を説明した。
会場のメディアからは、ライバルの米ヒューレット・パッカード(HP)が分社化に舵を切っていること、さらには同社のメグ・ホイットマンCEO(分割後のヒューレット・パッカード・エンタープライズのCEOに就任)が今回のEMC買収に財務面などの課題が多く、HPにとってはチャンスであるというコメントを社内向けに出したことに対する見解も問われた。デル会長兼CEOは、「HPはヴイエムウェアの大事なパートナーだ。以上」と笑いを取りつつ、「HPとわれわれでは視点が違い、スケールを非常に重要視している。データセンターでもボリュームが大きいほうがいいし、網羅的なポートフォリオをもっていることで、お客様により価値のあるソリューションを提供できる。さらには、お客様自身がこれ以上多くのサプライヤーを求めておらず、統合によりお客様側の仕事をしやすくすることになるという声もいただいている。何が正しいのか、これから実績をもって証明していく」と、EMCの買収を含め、スケールアップしていくことのメリットを強調した。
翌日のデル会長兼CEOの基調講演では、ここから特別踏み込んだ内容の発言はなかったが、仮想化ソフトのヴイエムウェア、セキュリティのRSA、データ活用ソリューションやCloud FoundryべースのPaaSを提供するPivotal、クラウドサービスプロバイダのバーチャストリームといったEMCのグループ企業の製品・サービスに、すでにデルが買収で入手済みのエンタープライズ向け製品群を合わせ、「エンド・トゥ・エンドのITソリューションを提供できる唯一のプロバイダになった」と再度強くアピールした。また、前日の記者会見での発言を踏襲し、これらの製品のほとんどが、2013年に株式を非公開化したデルの流儀に従ってプライベートカンパニーから提供されるようになることで、「短期的な利益にとらわれることなく、スピーディな意思決定のもと、イノベーションに積極的に投資できるようになる」と説明。株式非公開化が、デルにとっても顧客にとっても大きなメリットをもたらしていると主張した。
マイクロソフトのナデラCEOも登場
「SMB向けのハードウェア販売を最大の強みとして成長してきたデル」と、「エンタープライズ向けのハイエンドストレージ市場で確固たる地位を築いたEMC」という構図でみれば、ポートフォリオの相互補完性はあるにしても、両者の統合でどの程度のシナジーが期待できるのかは未知数な部分も多い。例えば、EMC傘下の仮想化ソフトベンダーである米ヴイエムウェアにとっては、前述したHPのようにデルの競合サーバーベンダーも当然ながら重要なパートナーだ。デルは、ヴイエムウェアを独立した上場企業として存続させる方針こそ明確に示しているが、デルグループ入りすることが本当に同社の成長につながるのか、懸念する声も大きい。仮想化ソフトにしろ、これをベースにしたクラウドサービスにしろ、デルがヴイエムウェアのソリューション拡販を目に見えるかたちで後押しすれば、これまで同社が密接な協業関係を築いてきたマイクロソフトとの関係に変化が生じるのではという疑問も浮かぶ。

米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOも登場し、マイケル・デル会長兼CEOと対談した そうした事情を考慮してというわけではないだろうが、Dell World 2015には、米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOもゲストスピーカーとして登場し、デル会長兼CEOと対話した。TV番組「ブルームバーグ・ウエスト」のアンカーであるエミリー・チャン氏が進行役を務め、同氏からは、「デルがEMCを買収することで、マイクロソフトとの関係に変化はないのか。また、マイクロソフトはタブレット端末やノートPCも自らのブランドで売り始めている。二社は敵なのか、友達なのか」という質問が投げかけられた。これに対して、両者が共通して口にしたのは、「お客様にとって選択肢があることが重要」という言葉だ。そのうえでデル会長兼CEOは、「もちろん友達であり、マイクロソフトはSurfaceシリーズで新たな市場を開拓し、Windowsのプラットフォームを前進させようとしている。これはWindows 10のエコシステムの進化にもつながるので、私はその取り組みをワクワクしながらみている」とした。一方、これを受けてナデラCEOは、「われわれの友情はお客様に奉仕するための友情であり、2社で独占して儲けようということではない。とくにエンタープライズのお客様に関しては、彼らの現実に合わせた提案が必要で、業界内の事情にこだわっていてはダメ。デルがEMCを買収するわけだが、協業できる部分が増えるという側面もある。大切なのは、いかにお客様のニーズに応えるかということだと思う」と、双方大人のコメントともいえる発言で、トップ同士の良好な関係をアピールしてみせたかたちだ。
いずれにしても、買収のすべてのプロセスが完了するのは来年半ば頃で、具体的な統合後のビジョンはその後に示すことになる。IT市場の勢力図に大きな影響を与える台風の目として、デルの動きからしばらく目が離せないことは間違いない。