主要SIerの上期決算（2015年4～9月期）は、良好な景況感に後押しされるかたちで、軒並み増収増益の基調となっている。主に国内のユーザー企業がITを積極的に活用していく姿勢がSIerの売り上げに直結する一方、ハードウェアやネットワーク系の商材の粗利率の低さは依然として継続している。また、案件増加によって人手不足感が強まっており、人材の適材適所の配置や、プロジェクト管理がおろそかになると巨額の不採算案件へと転落しかねない危うさも孕んでいる。（安藤章司）

　SIer最大手のNTTデータの上期（15年4～9月期）は、公共や金融、産業、海外の主要セグメントすべてで増収となり、上期連結売上高は前年同期比6.8％の伸び率を達成。SIerの多くが下期偏重の収益構造であると考えると、上期の高い伸び率は好材料である。野村総合研究所（NRI）も期初予想を上振れする好調ぶり。また、新日鉄住金ソリューションズ（NSSOL）は期初予想を上回ったことから通期業績見通しを上方修正、SCSKも通期見通しを上方修正している。

　ハードウェア販売に強い伊藤忠テクノソリューションズ（CTC）は、サーバーやネットワーク機器の販売が好調がゆえに、上期ベースでの粗利率を押し下げる皮肉な現象も起きている。機器販売の利幅は限られているため、想定以上にハードウェア販売の比率が高まると、売り上げは伸びても、会社全体の粗利は低下する構造にあるのだ。CTCは上期多少の減収ではあったものの、売り上げは伸びており、通期の業績見通しは据え置きで目標達成に強い意欲を示している。

　公共・金融分野は、ともにマイナンバーや、少子高齢化に伴う医療・介護分野の制度対応のIT投資、東京五輪、地方創生を見据えた潜在的なIT需要など、「予算の制限からIT投資の総額は増えないまでも、高い水準は維持される」（NTTデータの岩本敏男社長）見込みであり、産業分野もよほどの世界的な経済異変が起きない限り、景況感は良好に推移するものとみられている。

　こうしたなか、深刻な問題となっているのが人手不足だ。情報サービス産業協会（JISA）の10～12月期のDI（景気動向指数）調査によれば、人手不足は「過去最高」の水準が続いており、下請けの中小SIerのある幹部は、「新卒や中途を採用しても、社員数が減ってしまう」と、よりよい条件を求めて転職者が続出する厳しい状況だと話す。大手でも、例えばNRIは業績好調で総額15億円規模の臨時賞与を出したり、CTCも賞与を業績連動で増額するなどして従業員に報いている。

　NRIは中国のオフショアソフト開発パートナーから、NRI向けオフショア開発事業、従業員数ベースで1300人規模を譲り受け、人材のつなぎ止めの施策を打っている。中国国内でもIT人材は逼迫しており、これまで対日オフショアソフト開発を手がけていた開発会社が、成長余地が大きい中国国内向けのビジネスを増やし、優秀な人材を中国国内に割り振る動きが活発化している。NRIでは、パートナーとともに育ててきた人材を自社内に取り込むことで、開発力や品質の維持に努めている。今回の事業譲渡によって、NRIグループの従業員数は初めて1万人を超える。

　人材確保と並んで懸念されるのが、大型の不採算案件の発生である。情報サービス業の過去の経験に照らし合わせれば、受注が高水準で続く状況下で不採算は発生しやすく、一旦発生すると問題プロジェクトの手あてに人手を割かなければならないため、他の順調な案件に悪影響が及ぶ負の連鎖が起きかねない。受注競争のなかで多少の不採算は各社ともに織り込み済みだが、コントロールできないほどの不採算に陥らないよう、人材の確保と適材配置がポイントとなる。