「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌を遂げつつある中国。日系ITベンダーは、どのようにビジネスを拡大しようとしているのか。現地のキーパーソンに、これまでの進捗状況や現在の市況感、今後の戦略を聞いた。(構成:真鍋武)
耐希克(広州)
NECネッツエスアイ
田澤 洋総経理
生年 1966年
出身 東京都
●実物を体感してもらう ネットワーク分野を強みに、基盤インフラや情報セキュリティ、映像製品を活用したマルチメディアなどのICTソリューションを提供している。顧客の8割方は日系企業で、現在、最も力を注いでいるのが、什器などの設備手配や空間設計を含め、オフィス環境の改善をトータルで支援するソリューション「EmpoweredOffice」だ。
ターゲットは、オフィスビルに入居する企業全般で、現在は従業員数10~100人程度の日系企業が中心。近年、日系企業の新規拠点設立は勢いが衰えているものの、急激に需要が落ち込むことは考えにくい。むしろ中国では、賃金の上昇に伴って、コスト削減を目的にオフィスを移転する企業が一定数あるため、安定した需要が期待できる。実際、2015年度は、以前よりも確実に引き合いが増えている状況だ。
今年6月、中国統括会社のNEC(中国)が北京の本社オフィスを移転したが、新オフィスではEmpoweredOfficeを採用しており、来客向けのショールームとして展示する役割も担っている。口頭で説明するだけでなく、実際の活用例を現場で見てもらうことで、顧客の受け止め方が変る。本社オフィスは、実際に顧客案件の入り口になっている。
中長期的な目標は、18年度(18年12月期)に売上高を現在から倍増させること。今後は、ネットワークに強い特性を生かして、EmpoweresOfficeだけでなく、SDNソリューションなども提供していく。NECグループ間のクロスセルも強化する。
松下信息系統(上海)
パナソニック インフォメーションシステムズ
陳煥奇 総経理
生年 1962年
出身 上海市
●新ステージ×新挑戦 三洋電機のパナソニックへの統合に伴い、2015年2月、当社はパナソニック インフォメーションシステムズの完全子会社となった。社名も三洋信息系統(上海)から松下信息系統(上海)へと変更している。
売上高の9割方はグループ会社から稼いでおり、これまでは三洋電機の中国拠点向けITサポートと、オフショア開発をメインに展開してきた。しかし、今回の会社再編を受け、当社のターゲット領域は中国のパナソニックグループ全社に広がった。パナソニックグループは、中国に100社程度の現地法人を有しており、開拓余地は大きい。まずは、この領域を着実にカバーしていく。
ただ、グループ企業向けのビジネスとはいえ、簡単に案件が獲得できるわけではない。これまで別の日系IT企業にITサポートを任せていたグループ企業も多く、競争は避けられない。しかし、当社にはロットトレース/ショップフロアシステムや、RFID/バーコード固定資産管理システム、業務プロセス管理システム、受発注システムなど、中国で開発した独自のソリューションがある。中国での導入実績を生かし、グループ企業に横展開できると考えている。もちろん、ニーズに応じてグループ外の日系企業にも提供していきたい。
新たなステージに挑戦するため、社内体制も強化する。今後は、拠点の拡充や人員の状況も検討していく。モバイルベースの営業支援システムや、工場現場向けの倉庫管理システムなど、時代に対応した新たなソリューションも研究・開発していく。
愛司聯發軟件科技(上海)
SRA
柏本宜史 董事長
生年 1970年
出身 岡山県
●次のステップへ突入 設立当初から手がけてきた日本向けオフショア開発事業が、完成形に近づいている。日本のエンドユーザーとの100%直接契約で、当社が営業や受注後の設計、品質管理を手がけ、実際の開発は現地のパートナー企業が担当するモデルだ。過去3年間でオフショア受注量は3倍に伸びており、現在は1300人/月程度をパートナーに委託している。内部設計の品質は、日本国内と同等レベルまで向上した。オフショア開発の市場環境は厳しくなっているが、当社の場合、日本国内と同等の金額になるまでコストは問題にならない。今後も拡大する。
2015年には、次のステップとして中国国内事業も本格化した。証券や信託など、金融業のシステム構築に関する知見・ノウハウを応用し、モバイル関連ソリューションを中心に提供する。当社のBA(Business Analyst)が、パートナー企業が保有するMADP(モバイルアプリケーション開発基盤)を活用して、顧客の要望に合わせたシステムを構築する。BAは、主に顧客の要望をシステム上で反映するためのBL(Business Logic)設計やクラウドサービスをDMAPと連携させるためのAPI開発などを担当し、システムの実際の開発は現地のパートナー企業に委託する。中国の金融機関では、一昨年頃からリスクヘッジの意識が高まっており、資産運用など関連システムの需要が期待できる。すでにいくつかの案件が進行中だ。
中長期的には、対日オフショア開発事業と中国国内事業の売上比率を同等にすることを目標としている。
恩愛軟件(上海)
NCS&A
呂興平 董事長 総経理
生年 1964年
出身 浙江省南通市
●再出発 日本コンピューター・システム(NCS)とアクセスの合併に伴って、両社の中国子会社が統合して今年1月に誕生したのが恩愛軟件(上海)だ。日本および中国国内向けに事業を展開している。
現在、売上高の約9割を日本向け事業で賄っているが、その主体となっているのは、日本本社向けのソフトウェア研究・開発だ。例えば、日本の主力商材である「RIVERSE PLANET」は、複雑なITシステムの構成を解析して、メンテナンスの効率化を実現するソフトウェア製品だが、この多くの部分を中国側が開発している。日本本社にとって、今や中国の高い技術力は欠かせない存在となっており、今後も安定した開発量を期待することができる。
日本向けには、大連分公司を中心にオフショア開発も行っているが、コスト構造は厳しく、受注量が増えている状況にない。大連側も、開発パートナーを活用し、自社で人員を多く抱えることは避けている。大きく伸ばせるビジネスではないので、今後は中国の国内向け事業に期待したい。ただし、中国国内向け事業はまだ模索段階。現在は製造業を中心に、10社程度の日系中小企業のITサポートを行っているところだ。1社1社に対し、ていねいできめ細かなサービスを提供して、コツコツと信頼関係を構築していきたい。
二つの会社が統合したことにより、2015年はシステム開発の手法を変更したり、社内の体制を整備したりと、会社としての基盤づくりに励んだ。16年は、本格的な立ち上げを果たす。