セールスフォース・ドットコム(SFDC、小出伸一会長兼CEO)は、業種別ソリューション開発のための新しいパートナープログラム「Salesforce Fullforce」を日本で立ち上げた。参加メンバーには、グローバル市場で活躍するコンサルティングファームの日本法人やグループ法人が名を連ねる。彼らのビジネスコンサルソリューションの一要素としてSFDCのサービス群を組み込んでもらい、顧客のビジネスモデルそのものの変革を支援し、それを実現するためのITシステムの開発・提供までを一気通貫でスピーディに行うことを意図した取り組みだ。SFDC曰く、「(SaaS、PaaS市場のトップベンダーである)当社だけが実現できる最先端のパートナーエコシステム」で、従来のITビジネスの枠を越えた価値の実現を目指す。(本多和幸)
新しい顧客接点が必要に

手島主税
執行役員
アライアンス本部副本部長 Salesforce Fullforceについて、業種別ソリューション開発のためのパートナープログラムと説明するだけでは、多くの人が「どこが新しいのか」と疑問をもつだろう。ソフトウェアメーカーの各種業務アプリケーション向けに、パートナーが業種別のテンプレートを開発して提供するようなビジネスモデルはむしろ一般的だからだ。セールスフォースにも、各種テンプレートなどをもとにした業種別ソリューションを提供する既存パートナーは数多く存在する。SFDCでパートナー戦略を担当する手島主税・執行役員アライアンス本部副本部長はこうした疑問に対して、「Salesforce Fullforceは、SaaSのテンプレートを開発して付加価値を乗せてもらうようなモデルとは次元が違う、まったく新しいパートナープログラム」だと説明する。産業分野を問わず事業環境がめまぐるしく変わり続けるなかで、ユーザー企業の継続的な成長を実現するために、彼らの経営戦略立案から実行まで、ITシステムの整備も含めて一気通貫で支援できるエコシステムの構築を目指したのがSalesforce Fullforceのポイントだ。
このプログラムを立ち上げた背景を、手島執行役員は次のように説明する。「新しい時代のビジネスに共通している課題は、不特定多数に対するマーケティングや購買の働きかけといった施策を脱して、いかにパーソナライズした顧客接点をつくっていくかということ。一方で、クラウドやモバイル、ソーシャル、ビッグデータといった新しいテクノロジーによって、異業種間の融合や、UBERのような新興企業による既存産業の破壊のような大きな変化が促進され、顧客接点のあり方も変わり続けている。そうした環境の変化に継続的に対応しながら、個別の顧客の細かなニーズにもとづいたビジネスにどうシフトしていくかが、すべての産業で問われるようになってきている」。
手島執行役員が「パーソナライズした顧客接点をつくる」と表現する施策は、ITの力がなくては成立しない。そして、新たな顧客接点を創出するという取り組みは、ビジネスモデルの変革を伴うものでもある。「“顧客の成功”こそがSFDCの目標だが、これを継続的に実現していくには、最新のITソリューションをどう活用するかという議論と一体で、ユーザーの新しいビジネスモデルの検討そのものを支援できるパートナーを揃えるべきだと考えた。そのためのプログラムとして、Salesforce Fullforceにたどり着いた」という。
経営・事業戦略とITの融合を図る
日本では、Salesforce Fullforceの立ち上げ時点で、アクセンチュア、デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)、プライスウォーターハウスクーパース(PWC)、パソナテキーラの4社が参加している。アクセンチュアが保険、DTCが製造、PWCが不動産、パソナテキーラが文教と、各業界向けのSalesforce Fullforce認定ソリューションも整備済みだ。この認定ソリューションは、各パートナーが、SFDCのクラウドサービスをプラットフォームとして、業種特化の知見をもとに独自につくったテンプレートやSFDCのPaaS、さらには「AppExchange」上のSFDCパートナーソリューションを駆使して、新たな顧客接点創出のためのソリューションをスピーディに構築するものだ。
ただし、すでに説明したとおり、Salesforce Fullforceの本質は、単に「SoEアプリをかんたんにつくることができる」という点ではないという。Salesforce Fullforceパートナーは、各業界に関する知見を生かし、業界固有で発生する新しい顧客接点や法規制の変化などを踏まえて、ユーザー企業の新しいビジネスモデル設計という最上流から支援する体制を整えている。課題設定をして、新ビジネスの全社的な戦略を策定し、組織やビジネスプロセスを構築して、それに合ったITシステムを開発・実装して運用するまでを、一体的にサポートする。さらに、稼働後も市場の変化や顧客の要求を常にキャッチし、事業戦略やITシステムに継続的な変更と修正をいち早く加えていく体制も整える。Salesforce Fullforce認定ソリューションは、一種の「リファレンス(標準)」であり、こうした検討プロセスの短縮に貢献するパーツの一つといえよう。手島執行役員は、「まさに、経営戦略や事業戦略とITの融合を目指した。いま求められているのは、アジェンダ(課題設定)からITまでの議論のサイクルをいかに短くして、実証をベースにビジネスモデルとITシステムの継続的なブラッシュアップができるか。通常のビジネスコンサルでは、戦略・業務設計とITのコンサルが分断されているが、Salesforce FullforceはSFDCのソリューションを使うことを最初から意識して業務設計をしてもらうスキームなので、アジリティが飛躍的に高まる。マルチベンダーを前提とするコンサルファームも、顧客や市場が求めるスピードに対応するためには、SFDCの技術が必要になっている」と、力を込める。
SFDCは、Salesforce Fullforceを、エンタープライズ向けビジネスの成長に向けた核となる施策と位置づけており、グローバルでは約2年半前にプログラムを立ち上げ、すでに43の認定ソリューションがある。今後は、国内のコンサルファームや大手SIerなどもメンバーに迎え入れることを積極的に模索していく。SFDC社内にも、パートナー、ユーザーの両方をサポートする産業分野ごとの専門家として「インダストリースペシャリスト」が配置されているが、このリソースも増強する方針だ。