国内で初めてクランプメーターを開発するなど、老舗の電気計器メーカーとして市場に存在感を示す共立電気計器。売り上げの約70%を海外向けのビジネスが占め、品質と技術力を武器にグローバルで実績を伸ばしてきた。ところが近年、グローバル市場の勢力図に変化が起き、対抗策を講じる必要が出てきた。キーポイントになったのは、ITを活用したプロセスのビジュアル化だ。
【今回の事例内容】
<導入企業>KEW(THAILAND)電気計測機器メーカーである共立電気計器が100%出資して、1987年、タイに設立した。以来、同社グループの主要生産拠点の一つとして稼働している
<決断した人>共立電気計器 取締役 菊池真一 氏
共立電気計器の競争力強化を目指し、タイの100%子会社であり、主要生産拠点であるKEW(THAILAND)の生産管理・会計システム導入をリード
<課題>ファブレスメーカーが競合として台頭するなかで、さらなるコストダウンやリードタイムの削減が求められていた
<対策>生産管理パッケージを導入し、製造プロセスのビジュアル化を進めた
<効果>リアルタイムで製造プロセスや会計の情報を把握し、事業の舵取りに活用できるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>経営課題に合わせて、経営層がプロジェクトをリードすることで、 導入効果を最大化できる
ファブレスメーカー台頭に危機感
輸出ビジネスが大きなポジションを占める共立電気計器は、グローバル市場で競争力を発揮できる生産体制を構築すべく、約30年前にタイに100%自社資本の製造子会社として、KEW(THAILAND)を設立した。以来、KEW(THAILAND)は、グループの主要生産拠点の一つとして、同社の成長に貢献してきた。
しかしここにきて、グローバルの電気計器市場では、中国や台湾のEMS企業と連携するファブレスメーカーが台頭してきたこともあり、共立電気計器も戦略の見直しを迫られることになったという。菊池真一・取締役は、「われわれはあくまでも、工場を自社でもつメーカーとしての強みを生かした事業展開をしたいと考えた。そのためには、中国、台湾の工場に勝てるように、当社の生産拠点の機能をもっと強化する必要があった」と振り返る。そこで、3年ほど前に、KEW(THAILAND)の生産ラインを強化して当面のメイン工場として活用することを決め、設備投資の具体的な計画を実行することにした。生産ラインを拡充するとともに、「リアルタイムで製造プロセスをビジュアル化してロスを極限まで少なくし、リードタイムの削減、コストダウン、さらなる品質の向上を目指した」(菊池取締役)。
コンペティターに勝てる事業基盤を整備することをミッションに現地入りした菊池取締役は、まず現状把握から始めたが、課題はすぐに明確になった。経理と製造の業務プロセスが分断されていて、マネジメント層に必要な情報が、早くても1か月後にならなければ把握できなかったのだ。「手書きの発注書を手入力でデータ化し、原価計算にも3週間4週間のタイムラグが発生するような状況だった。競合と戦うにはあまりにもスピード感がないし、精度も悪い」(菊池取締役)。そこで、生産管理と会計のパッケージソフト導入に踏み切る決断をした。

製品数が多く、手作業でカバーするプロセスも多い
RFPへのマッチング率向上がカギ
本社でERP製品の導入にも携わった経験をもつ菊池取締役は、KEW(THAILAND)への生産管理・会計パッケージの導入にあたって、「アドオンやカスタマイズはしない」という方針を決めていた。「既存の業務プロセスに合わせて追加開発をすると、コストがふくれあがってしまうし、パッケージを使って業務を標準化することでグローバルで勝負できる生産性を実現できる」と考えていたからだ。
いくつか採用候補となる製品を選び、一次評価、二次評価という2回の選考プロセスを経て採用されたのは、東洋ビジネスエンジニアリング(BーENーG)の生産・販売・原価管理パッケージ「MCFrame」と、会計を中心とした海外現地法人向けのコンパクトなERPパッケージ「A.S.I.A.」の組み合わせだった。KEW(THAILAND)への提案は、BーENーGのタイにおけるパートナーであるMaterial Automation(Thailand)(MAT)が行った。
実は両製品は、他の候補と比べてコストが高く、「本命ではなかった」という。これに対してMATの担当者は、「MCFrameを当初はフルモジュールで提案していたが、KEWさん側にご説明するなかで、その下のサイズでも要件をクリアできそうだという見通しも出てきた。そんなかたちで先方のRFPに対するマッチング率を上げ、運用の仕方も含めて知恵を絞って提案をブラッシュアップした」という。こうしてコストの問題はクリアされ、さらに、「MCFrameはタイでユーザー会も立ち上がっていて、そこに招いていただいて、導入効果などについて実際のユーザーのお話を聞くことができた」(菊池取締役)ことも、採用を後押しした。
こうして採用した新しい生産管理・会計システムは、15年4月から本格的に稼働している。まだ運用については試行錯誤している部分もあるというが、菊池取締役は、「打ち合わせ時に、売り上げはもちろん、在庫や生産計画の進捗などをリアルタイムで確認したり、シミュレーションできるようになったのは大きい」と話す。
中国、台湾のEMS企業は少量生産にも短納期で対応する体制を整えており、共立電気計器にとっては、品質やコストでは負けていなくても、リードタイムの差で案件を失ってしまうという事例も出てきているという。今後は、さらなるリードタイム削減に向けたMCFrameの活用方法を模索する。(本多和幸)