経済成長の減速や人件費の高騰など、市場環境が変容してきた中国。現地に進出した日系IT企業は2020年にどうなっているのか。中国で約20年のビジネス経験をもつ有識者2人に、現状の課題と将来の予測、また、生き残るコツについて率直な意見をうかがった。
独自の勝ちパターン構築がカギ
.jpg?v=1490861859)
サイボウズ中国
増田導参
副総経理/COC
天津へ留学後、香港系企業に就職し、1997年に上海へ出向。2000年、北京で独立起業し、文具の通信販売を手がける。その後、英国への留学を経て、02年に上海のベンチャー企業に参画しオフィス総合サポートを展開。07年、サイボウズ中国の設立に伴い副総経理/COOに就任した。 ──中国に進出している日系IT企業の現状について、どうみておられますか 増田 他社の状況をみていると、それなりの投資をかけて器をつくったものの、実際には想定していたよりも儲かっていないケースが多い。だから、手っ取り早く顧客を得るために、すでに顧客基盤のあるパートナーと手を組んでやろうとする傾向があると思います。しかし、自分で売り切れないものを他社に売ってくれと期待しても、実際に形にするのはすごく難しい。こういう事態になって、困っているのが現状ではないでしょうか。とくに、ローカルビジネスには現地パートナーが必要だといわれますが、実際には提携していても、上手くいっている企業はあまりない印象です。
──では、どうすればよいのでしょうか まずは、中国は大きな市場だからといって、そのすべてを開拓しようとするのではなく、的をある程度絞って、自分たちの勝ちパターンを地道につくって、それからビジネスを広げていくことが重要だと考えています。大変なことですし、1年2年で成果が出るものではないですが、きちんとコスト意識をもって腰を据えてやっていけば、それなりに黒字にできると思いますし、活路はみえてくるはずです。
──だからこそ、サイボウズ中国は、直販を中心としたビジネスを展開しているのですね 増田 ええ。ただし、最初から直販がやりたかったわけではありません。結果として、そのやり方で成長してきたというだけです。
当社はクラウドサービスを2007年に始めて、着実に1件1件お客様をつかんできました。クラウドなので、お客様の規模が大きくなるにつれて、われわれのサービスも大きくなる。「kintone」の販売を開始した時には、「Garoon on Cybozu.cn」の顧客基盤がすでにあって、「ここのお客様なら案件が獲れるかもしれない」というデータベースがありました。だからこそ、この2年でkintoneは120社程度の顧客を獲得できました。過去の積み重ねが無駄ではなかったという証です。
──2020年に向けた御社の戦略は何でしょうか 増田 コストを抑えながら、自分たちの正攻法を直販でみつけて、それがうまくいけば、代理店も活用していく。まずは着実に、一歩一歩、今ある課題に対して目標を設定してこなしていく。そして、社員のモチベーションを保ちながら、次のステップを踏むための準備をするしかありません。このスタイルは今後も同じです。直販では時間がかかるといわれても、サイボウズ中国はこの方法で成長してきました。
また、当面の目標は、17年末までに1000社の顧客を獲得すること。現在、当社には約660社のお客様がいます。これが、日系で800社、ローカルで200社の顧客基盤に育てば、次のステップとして、チャンスが到来したときに、別のプロモーションなど、新しいビジネスのやり方も検討していきます。
日系企業は激減の可能性大

クオリカ上海
水沼 充
総経理
中華圏でのビジネス歴は約20年。台湾で5年ほど事業を経験した後、2000年頃から中国ビジネスに従事。06年から日系IT企業のオフショア開発拠点で総経理を務め、11年4月、転職を経てクオリカ上海の総経理に就任した。 ──2020年に日系IT企業はどうなっていると予測しますか 水沼 正直にいえば、企業数は相当減ると思います。極端な話、現在の10分の1程度に減ってしまうかもしれません。なぜなら、日系IT企業はすでに赤字でキャッシュフローが回らなくなっているところが多い印象です。逆に、儲かっている話はほとんど聞きません。最近では、日系の大手総合ITベンダーが中国子会社を清算したことが、周辺のIT企業に衝撃を与えました。
ローカル企業も成長していて、日系IT企業が中国でやる仕事が少なくなっています。また、投資規模やビジネススピードなどの観点で、彼らと日系企業とでは格が違います。新しいサービスを続々と提供しており、とくにゲームやインターネット分野の成長は著しい。こうした領域で日系が競争することは難しく、現在はスタートラインにすら立てていない印象です。
──では、どんな企業が生き残るのでしょうか 水沼 大手の銀行や製造業などのITサポートで収益をあげられる企業や、特徴がある製品・サービスを保有している企業など、本当の意味で実力をもったところでないと20年に生き残ることは難しいでしょう。正直、システム開発では粗利で50%、営業利益で15~20%くらいないとやっていけません。また、為替に左右されないビジネスモデルも必須です。
──とくに課題となるのは何でしょうか 水沼 人件費の高騰は由々しき問題で、事業の継続に関わる一つのポイントです。当社では、15年度は社員の給料を前年度から据え置きにしました。大事なスタッフが他社から引き抜かれることもやむを得ない、苦渋の決断です。しかし、ふたを開けてみれば、転職した社員はいませんでした。私はふだんから社員とは中国語でコミュニケーションをとっていて、日本からの出向者ではなく、中国の現場側の立場として、彼らと接してきたことがこの結果につながったと考えています。
──20年に向けた御社の戦略を教えてください 水沼 注力分野である飲食業は、中国ではこれから発展していく段階にあります。外食産業・飲食業向け店舗・本部支援システム「TastyCube」は、日系大手飲食業の運用が安定してきたことで、順調に伸びています。今後はパートナーとの連携などを通して、さらにローカル企業に手を広げていきます。決済サービスを提供している現地企業との連携も模索していきます。
製造業向け生産管理システム「AToMsQube」も伸ばします。最近では、中国の地方政府からお声掛けをいただくなど、商機が広がっています。中国政府は「中国製造2025」政策を進めていますし、当社にはコマツの事例もありますので、関心が高まっています。そういう意味では、当社の商品は、市場のニーズとマッチしているといえます。