人材採用のウェブサービスを主力事業とするビズリーチ(南壮一郎社長)が、企業向けHRソリューションベンダーとしてのビジネスを新たに立ち上げた。セールスフォース・ドットコム(SFDC、小出伸一会長兼CEO)と資本・業務提携し、スピーディな成長を目指す。コンシューマ・サービスの領域で強烈な存在感を示すスタートアップであるビズリーチにとって、エンタープライズITの市場に参入することには、どんな狙いがあるのだろうか。(本多和幸)
ビズリーチが企業向けITソリューションとして開発・提供するのは、人事管理全体を網羅するクラウドアプリケーション「HRMOS(ハーモス)」だ。段階的に機能モジュールをリリースしていく計画で、6月には第一弾として、企業の採用管理の効率化やコスト削減を実現する「HRMOS 採用管理」の提供を開始した。今年秋には「HRMOS 勤怠管理」、来春には「HRMOS 評価管理」をリリースする。
同社はHRMOSを人材の採用から育成、登用、評価までをデータにもとづいて最適化し、AIも活用しながら人事部門の意思決定をサポートしていくソリューションに仕上げる意向。SFDCのCRM/SFAなどともデータ連携し、営業部門の人事評価や人材の配置に活用できるようにしたいという。従業員数100人~300人程度の企業をまずはメインターゲットとして、3年以内に2000社以上の導入を目指す。

竹内 真
取締役 プロダクト責任者の竹内真・取締役は、HRMOSの源泉は、同じく竹内取締役が責任者として立ち上げた「スタンバイ」事業にあると説明する。スタンバイとは、採用検索ウェブサービスで、求職者も求人情報を掲載する側も無料で利用できる。ビズリーチはこのスタンバイのなかで、求人を掲載する企業向けに、無料で求人ページを作成して企業の採用ページとして利用できる「スタンバイ・カンパニー」というサービスも提供しており、これがHRMOS 採用管理の原型になった。竹内取締役は、「スタンバイ・カンパニーで、無料の求人掲載だけでなく、ユーザー企業がもっと使いやすいように、応募者の管理やレポーティング機能を追加したりといったことをやってきたが、これが思いのほかいいものに仕上がった。自然言語処理や機械学習など、AIに近い技術を使っていたし、既存のバックオフィス系のソリューションに新しい技術を差し込めるのではないかという手応えを感じた。今春に大型の資金調達をした(SFDCのコーポレートベンチャー部門をはじめ計10社から37億円超を調達)こともあり、資金面、技術面の環境が整った」と話す。
既存のHR系ソリューションとの比較では、採用のプロセスもデータドリブンにできることが最大の差異化ポイントだといえよう。HRMOS 評価管理までリリースされれば、採用後の活躍もシステム上でフォローでき、採用の成果をPDCAサイクルで検証できるという。「業務をPDCAで改善していくというやり方はかなり浸透しているが、採用の現場だけはデータをフィードバックするという世界観がなかった。HRMOSは、その会社でどんな人が成果を出しやすい傾向があるのかなどをサジェストでき、企業の戦略的な人材活用を強力に支援できるはず」(竹内取締役)。
さらに、「GoogleやFacebookなどが代表的だが、コンシューマ向けのウェブサービスはデータにもとづいてインサイトを可視化するようなサービス設計があたりまえになっているが、ビジネスサイドにはそうしたソリューションが極端に少ない」と竹内取締役は指摘する。HRMOSは「コンシューマサイドのサービス構築をしていた技術者が本気でビジネス向けのアプリケーションをつくったらどうなるかという一種の実験でもある」といい、市場にどう受け入れられるのか、注目だ。