業務ソフトウェアメーカー大手の応研(原田明治社長)が、中堅・大企業向けの最上位製品としてERPの「大臣エンタープライズ」をリリースしてから、3年が経過した。機能向上、販路拡大の地道な取り組みを継続的に進めた結果、ここにきて成長のスピードが加速している。2016年の売上高累計は、8月末時点ですでに前年(16年1月~12月)を超えた。応研は、従来の主力製品である中堅・中小企業向け基幹業務システム「大臣NXシリーズ」と並ぶ柱を確立しようと参入した新規市場で、確かな存在感を示しつつある。(本多和幸)
多業種展開企業で圧倒的な価格競争力

末永 徹
大臣エンタープライズ
プロジェクトリーダー 大臣エンタープライズは、現時点で販売管理と会計モジュールの2製品をラインアップしている。なかでも、大臣エンタープライズが金看板として市場に訴求しているのは販売管理だ。応研の末永徹・大臣エンタープライズプロジェクトリーダーは、「もともとのコンセプトが生きるのは販売管理の領域で、ビジネスもここが先行している」と話す。
販売管理でとくに強みを発揮できる製品コンセプトとは何か。大臣エンタープライズがリリース以来市場に訴求してきたのは、「顧客の個別の業務プロセスやビジネス環境の変化に柔軟に対応するためのカスタマイズを、従来のアドオン開発などと比べて非常に少ない工数で実現できる」ことだ。スクラッチ開発はいうに及ばず、従来のERP製品でも、ユーザーごとに個別の追加機能の開発を求められるケースは少なくない。開発工数が膨れあがった案件は作業期間、コストが肥大化するため、ユーザーの負担が増え、導入を担当するSIerの利益も圧迫する。応研はこの点に着目。必要な機能のみを開発し、標準画面に差し込みができる「プラグイン」機能や、アプリケーション内でGUIを使った画面設計ができる「ビジュアルアイテム」などの開発ツールを用意し、大幅な工数削減と業務要件への柔軟な対応を両立できる製品に仕上げたという。
大臣エンタープライズビジネスが急成長を遂げている背景には、こうした強みが生きる属性のユーザーを見定め、重点的にアプローチを続けてきた成果が現れ始めているという事情もありそうだ。末永リーダーは、「大臣エンタープライズは、多業種展開している企業にとくにメリットを感じていただける製品として当初からアピールしてきた」と説明する。「例えば、事業部や業務ごとに入力画面を変えたいという要望があっても、開発ツールを使えばアプリケーションのなかで簡単に複数の画面をつくることができる。その数が多ければ多いほど、工数を積み上げたときに、入力画面ごとの個別開発が必要な製品との差が出てくる。工数削減の効果が現れやすいお客様にはきちんと評価していただけるという勝ちパターンがはっきりしてきた」(末永リーダー)。
最近では冷凍食品の物販も手がける大手外食チェーン店で採用された。事業ごとに別の基幹システムを導入していたが、これを大臣エンタープライズで統合した案件だ。なんと、受注から半年で本稼働までこぎ着けたという。末永リーダーは、「要件定義に3か月弱かけて、実際の開発・導入は1か月半程度。まさに私たちの開発ツールが生きた事例」と力を込める。結果として、大臣エンタープライズは高い価格競争力を発揮できているという。営業の現場では、オービックやGRANDITといった国産ERP、さらにはSAPをはじめとするグローバルベンダーのERPと競合するケースも増えてきたが、十分に戦えると感じているようだ。
JIETや情産協と関係深め会員をパートナーに
大臣エンタープライズの成長をさらに後押ししているのが、パートナーエコシステムの充実だ。当初は、長年協力関係にあるNXシリーズの主要パートナーと連携し、同製品のメリットが生きる顧客の開拓や導入事例づくりを進めてきた。これが芽を出し始めたことを受け、次のフェーズとして、大臣エンタープライズのパートナーの面的拡大にも踏み出している。
応研がとくに重点的にアプローチしていきたいと考えているのが、これまで受託開発を主に手がけてきた全国の中小SIerだ。JIET(日本情報技術取引所)や各都道府県の情報産業協会との関係を深めており、その会員企業を中心にパートナーが急速に増加している。現在、応研のウェブサイトに掲載されている大臣エンタープライズパートナーは約20社だが、必要な技術・ノウハウを習得中の未公表パートナーもかなりの数にのぼるという。
末永リーダーは、受託系SIerにとっても、大臣エンタープライズは大きなビジネスチャンスをもたらす製品であると強調する。「JIETの会員はSES、受託ビジネスが中心で、いまは仕事も潤沢だといわれているが、経営層の方々はこの需要が一段落した後にどうするのかを心配されている。基幹系業務はなくならないので、大臣エンタープライズを扱ってもらえば、これをベースに彼ら自身の顧客を開拓してもらうこともできる。受託系のSIerは、パッケージを使ったSIビジネスは儲からないというイメージがあると思うが、大臣エンタープライズは違うということを広く訴求していきたい」。
JIETは情産協とメンバーが重なっているケースも多く、JIETのイベントなどで応研のプレゼンを聞いたJIET会員が、所属の情産協でも情報を提供してほしいと依頼してくることもあるといい、新規パートナーへのリーチは面的な広がりをみせている。技術者向けのセミナーは毎月開催していて、「一度話を聞いてもらえさえすれば、かなりの確率でファンになってもらえる」(末永リーダー)という手応えを感じている。
また、3か月~4か月に一度、東名阪でパートナー同士のビジネスマッチングも行っている。開発パートナーとリセラー、あるいは開発パートナー同士を結びつけ、事例や開発資産の共有を図っているという。ここから案件を創出する流れもできており、大臣エンタープライズビジネスの成長を支える基盤になっている。

上野眞宏
取締役開発部長 製品開発のロードマップとしては、当面、販売管理の機能強化に重点を置く方針だ。上野眞宏・取締役開発部長は、「業種・業態ごとの専用の機能の実装を拡充するなど、パートナーの開発工数をさらに削減し、スクラッチ製品と真っ向勝負できるレベルの柔軟な対応を実現できるところまでいきたい」と話す。「詳細は明かせない」としながらも、向こう2年以内をめどに、大臣エンタープライズのクラウドソリューションも世に出す計画だ。「単にサーバーをクラウドに移しただけでなく、クラウドだからこそ実現できるメリット、特徴を備えた製品を考えている」(上野取締役)という。同社は近い将来、大臣エンタープライズを、NXシリーズに売上高でも並ぶ正真正銘の中心事業に育てたい意向だが、現在展開中の施策を順調に実行できれば、「十分に実現可能」(末永リーダー)とみている。