富士通は、11月1日に主要SI子会社の富士通システムズ・イースト、富士通システムズ・ウエスト、富士通ミッションクリティカルシステムズを吸収合併する。近年、NECグループや日立グループといったハードメーカー系のSI子会社は集約傾向にあり、富士通も同様だったが、単体でも大手SIerといっていい規模を誇る3社を本体に吸収合併するという、さらに踏み込んだ決断をしたかたちだ。約1万4000人のシステムエンジニアを富士通本体に集めることで、富士通は何を実現しようとしているのか。決断の背景には、デジタルトランスフォーメーションのトレンドが加速するマーケットの流れに取り残されるわけにはいかないという危機感があった。(本多和幸)
成長が見込まれるSoEをメイン事業に育てる
今回の吸収合併に伴う具体的な動きとしては、3社を富士通のグローバルサービスインテグレーション部門に吸収したうえで新体制を構築するかたちになるが、まずは3000人のSEを集めて「デジタルビジネスフロント」組織をつくる。富士通は今年4月、クラウド、AI、IoTといったデジタルビジネスのコアテクノロジー関連事業を集めた組織として「デジタルサービス部門」を設置したが、同部門や富士通研究所がもっている技術・製品などをデリバリする、いわゆるSoE(Systems of Engagement)領域専門の部隊だ。

窪田隆一
本部長 窪田隆一・グローバルサービスインテグレーション部門ビジネスマネジメント本部長は、「IoTのPoCなどはこれまでやってきたが、逆にいえばそのレベルにとどまっていて、SoEビジネスはまだ軌道に乗っていないと経営陣は認識している」と話す。富士通のビジネスは、基幹システムの構築などSoR(Systems of Record)領域が中心であり、強みを発揮できる領域でもあるわけだが、これまでのところ同社のSoEビジネスは、あくまでもSoRの周辺ビジネスに過ぎなかったというのが実情だった。業種特化でFinTech分野の取り組みなどは一部進めているが、既存のビジネスに引っ張られてなかなか大きく育てるビジョンが描けなかったのだ。
さらに、デジタルビジネスへの取り組みは、SI子会社も個別に行ってきた。「小さい事業がグループ内に散在するような状況で、やはりそれでは大きな推進力にはならない。SoEは大きな成長が見込める事業領域であり、富士通のメイン事業として展開していくために、グループ内のリソースを集約すべきだと考えた」と窪田本部長は説明する。
ただ、いくらSoEで成長が見込まれるといっても、SoRのSIビジネスで培った堅い顧客基盤を生かして徐々に大きく育てていくという考え方もできそうなものだが、富士通はなぜ3社を吸収合併してまでSoE専門のデリバリ部隊組織を急いだのだろうか。それは、富士通の経営陣に、「デジタルビジネスの市場で他社に後れを取るようなことがあれば、現在の経営基盤であるSoRビジネスすら顧客基盤を浸食され、いつの間にか失われてしまうという危機感がある」(窪田本部長)からだ。また、SIそのものにも、AIなどデジタルビジネスの要素を取り入れた自動化、効率化が必要になっているという認識も富士通内部では支配的で、デジタルビジネス領域で果敢に攻めなければ、SoRビジネス自体での顧客ニーズの変化にもついて行けなくなるという課題意識がある。
子会社だけの統合を選択しなかった理由はガバナンス
3社の吸収合併には、SoEビジネスの強化とともに、グローバルなデリバリ能力の強化という目的もある。各社が個別に展開していた海外ビジネスを集約し、グローバルで通用する商品づくりや先進商材の発掘、M&Aなどを含め、グローバルビジネスの司令塔としての役割を果たす「サービステクノロジーヘッドクォーター」もデジタルビジネスフロント傘下に立ち上げる。3社の海外ビジネス推進メンバー約500人と富士通約500人を合わせた1000人規模の組織になるが、海外リージョンの人材200~300人とも協業していく。窪田本部長は、「グループの総力を結集した強い商品づくりに取り組み、フロントアプリケーションやデジタルビジネスでグローバルプレイヤーとしてきちんと戦えるようにならないと、海外ビジネスは伸びない。そう簡単にうまくいくとは思っていないが、まずは社内のナレッジやノウハウを集めることが大事。海外メンバーも含めて知恵を出し合えば、何か出てきそうだとう期待はある。K5もグローバル展開を始めており、そこに何か新しいものを乗せて海外リージョンに展開するということをイメージしている」と見通しを語る。
一方、国内向けの既存ビジネスについては、現在、業種、地域別に編成している組織を、中央官庁や金融、通信キャリア向けミッションクリティカルシステムの大規模開発などを行う「社会インフラビジネス」、医療、公共、文教向けのパッケージ製品などを展開する「パブリックサービスビジネス」、一般的な民需ビジネスの「エンタープライズビジネス」の三つに再編する。3社の既存ビジネスとエンジニアの多くはここに組み入れられることになる。
ところで、富士通グループのナレッジ、ノウハウの共有やエンジニアの最適配置を考えるだけならば、NECのようにSI子会社を1社に集約するという選択肢もあったはずだが、富士通はそうしなかった。これは、ガバナンス強化を優先した結果だ。仮に3社が本体に合流せず、独自に合併して9400人の巨大なSI子会社ができた場合、デジタルビジネスを推進しようとしても組織を動かすプロセスが複雑になり、極端にいえば子会社がなかなか富士通側のいうとおりに動いてくれないという事態が起こり得ることを懸念したようだ。ここにも、富士通がSoE領域に注力し、デジタルビジネスを本気でスピード感をもって開拓するという意思が表れているように思える。