【テキサス発】米デルテクノロジーズは、10月18日から20日までの3日間、米テキサス州のオースティンで、プライベートイベント「Dell EMC World 2016」を開いた。米デルの米EMC買収により誕生したデルテクノロジーズ、さらにはデルの法人向け事業とEMC本体を統合したDell EMCブランドの正式なお披露目の場となった。19日午前中の基調講演に登壇したマイケル・デル会長兼CEOは、「世界一のプライベートITカンパニーとして、あらゆる市場セグメントでナンバーワンを取る」と、デルテクノロジーズの新たな船出を宣言した。(本多和幸)
デジタル産業革命を牽引するという責任感

マイケル・デル
会長兼CEO 「第1回目のDell EMC Worldへようこそ」――。デル会長兼CEOの基調講演の第一声には、万感の思いが込められていたように思える。デルがEMCを670億ドルで買収すると発表してから1年近くが経過した今年9月、ようやく買収が完了し、売上高740億ドル、従業員数14万人という、世界最大の非上場総合ITベンダー「デルテクノロジーズ」が誕生した。実際にはデルテクノロジーズは持ち株会社で、傘下に事業会社としてのデルを新たに設立し、PCや周辺機器などのクライアント・ソリューションはそのままデルブランドで、EMC本体の事業やデルのサーバー、ネットワーク機器といったエンタープライズIT事業は「Dell EMC」という新ブランドで展開していく。なお、旧デル、旧EMC傘下のVMware、Pivotal、RSA、SecureWorks、Virtustreamといった企業は、個別の企業として事業を継続する。こうした一連の動きを踏まえ、毎年秋にデル創業の地であるオースティンで開催していたプライベートイベント「Dell World」は、今回から「Dell EMC World」になったというわけだ。
デル会長兼CEOは基調講演で、32年前のデルの創業からの道のりをあらためて振り返るとともに、IT市場のトレンドの変遷をおさらいし、デルが「テクノロジーの民主化を進めてきた」と、市場で果たしてきた役割を自己評価した。さらに、現在を「デジタルによる第3の産業革命(米国ではインダストリー4.0とほぼ同義で使われている)の時代を迎えている」と位置づけた。多くのイノベーションが生まれる可能性が高まる一方で、多くの企業は、デジタルトランスフォーメーションへの準備が十分ではなく、デジタルネイティブな新興企業の台頭などにより自らの事業の継続性が脅かされる不安を抱えていると指摘し、「顧客にとって最も信頼でき、一緒にデジタルの将来を構築していくパートナーになるテクノロジー企業が必要。だからこそ、デルテクノロジーズという会社をつくった」と、力を込めた。
デルは、オンプレミス環境、複数のパブリッククラウド、プライベートクラウドなどを適材適所で組み合わせて使う考え方を「ハイブリッドクラウド」と定義し、デジタルトランスフォーメーションを支えるITインフラとしては、それこそが現実解だと以前から主張してきた。デル会長兼CEOは、「ハイブリッドクラウドに向けての旅路では、データセンターの“モダナイズ”、IT部門のあらゆるプロセスの(SDxによる)“オートメーション”、そしてそれぞれのワークロードの実行環境を最適化する“トランスフォーメーション”という、三つのステップが必要になる」と指摘。モダナイズはDell EMC、オートメーションはヴイエムウェア、トランスフォーメーションは基幹系システムのワークロードに最適化したIaaSを提供するVirtustreamと、すべてのステップをカバーする有力なブランド・企業群が集結したことをアピールした。さらにはCloud Foundryのディストリビューションを提供するPivotal、デルが2010年に買収したインテグレーション機能特化型(異なるクラウドサービス同士やクラウドとオンプレミスを統合する)PaaSのBoomiなど、PaaSレイヤも網羅していることも説明。「米ガートナーのマジッククアドラントの20部門で市場のリーダーとしての評価を獲得しており、R&Dには毎年45億ドルと大規模な投資をしている。一言でいえば、デルテクノロジーズは、次の産業革命に備えるための非常に重要なインフラを提供可能な、信頼できる(テクノロジー、ソリューションの)プロバイダ。多くの製品分野でトップに立つ会社として、デジタル産業革命を牽引していかなければならない」と、デルが市場のデジタル化ニーズに応えられる存在であることを強調した。
統合の成果としてHCIアプライアンスを発表
また、デルテクノロジーズは今回のDell EMC World 2016に合わせて、複数の新製品・サービスを発表した。一例を挙げると、旧EMC本体とデルテクノロジーズ傘下で独立企業として事業を継続する米ヴイエムウェアのテクノロジーを融合したハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)製品「VxRail」のアプライアンスに、デルの「PowerEdge」サーバーを搭載したモデルをラインアップすることを明らかにした。デル会長兼CEOは、これを製品戦略における統合の成果の象徴として、基調講演で自ら紹介。「デルとEMC、ヴイエムウェアのイノベーションを結集した、世界でも一流の製品が早くも登場することになる。データセンターの将来を担う製品だ」と、自信たっぷりのコメントも聞かれた。
ただし、EMC側からみると、これはVxRailアプライアンスのサーバーの選択肢にPowerEdgeが加わったに過ぎない。Dell EMCブランドの真価を世に問うたといえるまでには、当然ながらもう少し時間がかかりそうだ。基調講演では、デル会長兼CEOのほか、EMC出身で、Dell EMCインフラストラクチャソリューショングループのデヴィッド・ゴールデン・プレジデントと、デルで長くPCビジネスに携わり、現在はクライアントソリューション事業のトップを務めるジェフ・クラーク副会長も登壇し、それぞれエンタープライズ事業とクライアントソリューションの新製品や事業戦略の詳細を説明した。デル会長兼CEOは、基調講演の最後に、クラーク副会長とは壇上でハイタッチを交わしたが、ゴールデン・プレジデントとは同じ壇上には立たなかった。これは、基調講演後の記者会見でも同様だった。これに特別な意味があったのかどうかはわからない。ただ、Dell EMC World 2016で発表された新製品・サービスは、約8割がEMC関連のものであり、クライアントソリューション事業からはゼロだった。デル会長兼CEOはPC事業にも変わらず注力していく意向は示したが、EMCとの統合で、デルのオリジンであるクライアントソリューション事業のプレゼンスが相対的に低下する可能性は否定できず、そこに複雑な思いを実は抱えているのではともうかがわせた。
なお、来年5月には、早くも第2回のDell EMC Worldが開催されるが、これは、従来「EMC World」としてEMCが開催していたプライベートイベントを衣替えしたものになる。開催場所も、これまでのEMC Worldと同様に米ラスベガスで、以降、Dell EMC Worldは、毎年春にラスベガスで開催されることになりそうだ。つまり今回は、オースティンで開催される最後のDell EMC Worldだったということだ。デルの故郷からは、やはり巣立っていくことになる。