富士通の構造改革が正念場を迎えている。田中達也社長は「任期中に営業利益率10%達成にめどをつける」とし、売り上げありきではなく、ビジネスの「質を変える」と宣言。しかし、営業利益率10%達成の障壁となるのが、富士通が「ユビキタスソリューション」と呼ぶパソコン、携帯電話、カーナビなどの端末類だ。同事業セグメントは1兆円規模。もしこれを連結から外すとなれば、当然ながら売上高は1兆円減ることになる。どのようなかたちになるのかはまだはっきりしないところが多いものの、構造改革の方向性はおぼろげながらみえてきた。(安藤章司)
現状は2~3%ゾーンを行き来
年商4兆7392億円、コンピュータメーカーではいわずと知れた国内最大手の富士通の課題は、その営業利益率の低さ。現状では2~3%ゾーンを行き来しており、これを早ければ2017年度には5%ゾーン、最終的には10%にもっていく。

富士通
田中達也
社長 「売り上げありきではない」と話す田中達也社長が着目しているのが、収益性が低く、なおかつ中核事業ではない領域の「独立/分散化」である。おおまかにいえば、今の富士通にとっての非中核事業はコンシューマ領域で、中核事業は企業向け(BtoB)のITソリューションとなる。具体的にはパソコンやスマートデバイス、カーナビ、インターネット接続プロバイダなどのコンシューマ領域を遠ざけるとともに、たとえ収益性が低くても海外のSI(システム構築)事業をはじめとする富士通の中核事業に近い領域は、逆に本体との連携を高めて収益力を改善させる。
直近の「独立と分散」を列挙すると今年2月に、パソコンは「富士通クライアントコンピューティング」、スマートフォンは「富士通コネクテッドテクノロジーズ」に分社化。パソコン事業については、中国のレノボの助力を得ることで競争力を高める検討を進めている。カーナビなどの開発を担当する富士通テンは、富士通の連結から外し、デンソー51%出資に資本構成を組み替えることを検討。また、今年6月に富士通によって完全子会社化したニフティのプロバイダ事業は非中核事業と位置づける一方で、ニフティが手がけるクラウド事業については、富士通本体のクラウド事業と相乗効果が見込めるとみているようだ。
悩ましいのが、パソコンやスマートデバイス、自動車関連は、ITソリューションをワンストップで提供していくうえで「決してなくならない」(田中社長)領域であることだ。単純に事業売却すれば済むという話ではない。
先行する日立とNECの構造改革
参考になるのが事業構造改革で先を行く日立製作所の取り組みである。日立キャピタルと日立物流の出資比率を減らして持分法適用会社にするなどして、連結売上高ベースでおよそ1兆円減らしている。理由は金融や物流の分野でナンバーワンになれる可能性が低いことと、日立製作所が中核事業と位置づける社会インフラと距離があることが、連結から外した主な理由。「金融や物流は社会インフラでは?」と言いたくなるが、金融や物流のシステムを構築することが日立製作所の本業であり、金融や物流を自ら行うのとは違うという考え方にもとづくものだ。
とはいえ、金融や物流に関する最新のノウハウは必要であるため、事業を完全に売却するのではなく、持分法適用会社とすることで日立流の「独立と分散」を実践しているといえる。
振り返って富士通はどうか。パソコンやスマートデバイス、カーナビなどが集中しているユビキタスソリューション事業セグメントの売上高はざっくり1兆円。本業と接点は少なからずあるものの、中核事業ではないこれらの事業領域は、日立のように持分法適用会社として連結から外すことで、「独立と分散」させる選択肢も有力視される。
パソコン事業で富士通に先駆けてレノボと合弁事業を手がけるNECは、「NEC」のブランドを残しつつ、パソコンで世界トップシェアのレノボの力を借りることで、ブランドの維持と競争力を高めた。この点、パソコンやPCサーバーを完全に売却したIBMとの違いがある。富士通としても、パソコンで「富士通ブランド」を残したいが、現状のままではジリ貧になってしまうため、レノボの力を借りたいというのが本音なのかもしれない。
中核事業も楽観視できない
ざっくり1兆円規模を連結から外したとしても、レノボやデンソーといった外部企業の力を得ることで収益力が改善し、かつ「独立/分散化」した企業群が富士通の持分法適用会社であり続けるのであれば、連結営業利益率の向上には大いに役立つ。あわよく、NECのように富士通ブランドも残すことができれば、富士通がユビキタスソリューションと呼ぶ端末系の領域から完全に撤退することも避けられる。
では、富士通が中核事業と位置づけるITサービスやSI領域は、現状、どうなのか――。富士通が「テクノロジーソリューション」と呼ぶこれらの領域の足下をみると、国内についてはおおよそ堅調に推移している。強みとするこの領域をさらに伸ばすために、旧富士通システムズ・イーストと旧富士通システムズ・ウエスト、旧富士通ミッションクリティカルシステムズの国内SE会社を11月1日付で富士通本体に吸収。旧SE子会社のSE約1万人を本体内のSEとともに再編し、規模のメリットを打ち出す施策を打った。
ハードル高い海外SIビジネス
ただし、海外の利益率は依然として厳しい模様だ。SIer最大手のNTTデータも、海外のSIerを傘下に収めることで海外売上高比率を伸ばしているが、利益面でみると富士通と同様、楽観視できない状況が続いている。NTTデータはM&A(企業の合併と買収)が続いたことからのれん代の償却で利益を圧迫する傾向にあるが、それを差し置いても国内のような高い利益率を海外で獲得するのは容易ではない。富士通では海外のITサービスやSIを中核事業と位置づけていることから、ここはNTTデータと同様、石にかじりついても伸ばしていく構えだとみられる。
売上規模を一回り小さくしてでも、田中社長が掲げる営業利益率10%の高収益体制を目指すべきなのか、富士通は決断を迫られている。