中古車販売大手のIDOM(旧:ガリバーインターナショナル、羽鳥由宇介社長、羽鳥貴夫社長)が昨年12月オープンした店舗「HUNT(ハント)常滑店」は、「変化をつけられるお店」という、他店とは一線を画したテーマを掲げている。店内の什器を固定せず、展示する車が変わるときに合わせて什器の位置も転換することで、お店自体が変わるというのだ。そんなHUNT常滑店の店舗づくりに一役買っているのが、「ABEJA Platform」である。
【今回の事例内容】
<導入企業>IDOM(イドム)「ガリバーインターナショナル」として、1994年10月に設立。一般消費者から買い取った車をオークションで中古事業者に販売する自動車買い取り・販売事業で成長してきた
<決断した人>海外事業セクション (元SC事業部チームリーダー)勝田将哉 氏
商業施設への出店を担当するSC事業部のトップとして導入を決断。現在は海外事業の新たな分野で活躍中
<課題>新たにオープンする「HUNT常滑店」では、目的客でない顧客の情報収集を模索した
<対策>ABEJAの「ABEJA Platform」を導入。来店客の人数、属性、滞在動態などが把握できるようになる
<効果>「殺風景な空間の方が顧客の滞在時間が長い」など、新たな気づきを得、店舗内の車や什器の配置を転換して、さらに売り上げアップを狙える店に
<今回の事例から学ぶポイント>感覚と経験に頼るのではなく、確かなデータをもとに店舗づくりを行うことで、顧客満足度の向上や、売上増が見込める
目的客以外の情報にヒントがある
IDOMはもともと、一般消費者から買い取った車をプールセンターに保管し、2週間の在庫期間内に中古車オークションで売り切るという中古車卸売りのビジネスモデルを確立してきた。しかし近年では、買い取った中古車をプールセンターで保管するのではなく、一般消費者向けに直営の展示場や小売店で展示販売し、その期間中、売れなかった場合にオークションで売り切るというモデルに転換。クルマの買い取り・販売を行う従来の「Gulliver」をはじめ、大型展示場の「WOW!TOWN」、軽自動車専門店の「ガリバーミニクル」、輸入車専門店の「LIBERALA」など、各ジャンルごとに応じたブランドを冠する店舗を全国に展開している。
そうしたブランドのうちの一つであるHUNTは、「すべての人に、おでかけを。」をコンセプトに、クルマを含めたライフスタイルを提案する店として、現在、全国4か所の大型商業施設内に出店している。なかでも、2号店として2015年12月にオープンした愛知県常滑市のHUNT 常滑店は、IDOMが展開するどの店舗とも異なるテーマを掲げている。
そのテーマとは、「変化をつけられるお店」。店内の什器を固定せず、展示するクルマが変わるタイミングに合わせて什器の位置も転換し、店内の見せ方を変えられるというもの。現在までも、こうした施策を取り入れた店舗はほかになく、同社にとって初の試みであった。
当時、SC事業部のトップとしてHUNT常滑店出店の指揮を執った海外事業セクションの勝田将哉氏は、商業施設への出店のカギは、クルマを買わない顧客を含めたすべての来店客のデータを分析することにあるとにらんでいたという。「商業施設の店舗に来るお客様のほとんどが目的客ではなく、クルマを買わないが、買う見込みがあるお客様ではある。そうした目的客ではない来店客のデータを収集・分析し、究極的にはリピート構造を分析できれば、商業施設出店の勝ちパターンがみえてくるはず」と考えたのだ。そこで、店舗オープン前の10月頃から、来店客を分析できるシステムの導入を検討。「当社にノウハウがないなかで、一緒にやっていくスタンスをとってくれた」というABEJAの「ABEJA Platform」の採用を決定し、開店を迎える。
意外な事実が浮かび上がる
ABEJA Platformは、ディープラーニングを活用して顧客の属性や人数をはじめとしたさまざまな情報を収集・分析・可視化するクラウドサービス。店舗に設置したカメラから、来店客の滞在動態をヒートマップで読み取る「ABEJA Behavior」や来店者数をカウントする「ABEJA Counter」、データ解析を行う「ABEJA DMP」、解析結果をグラフや図表で可視化する「ABEJA Dashboard」などで構成され、これらの機能を一元的に提供する。
HUNT常滑店では、ABEJA Platformを利用して得た情報をもとに、多いときは2日に一回のペースでクルマや什器の配置転換を行い、積極的に検証を重ねた。最初は同店における店舗運営のあたりまえがなかったため、立てた仮説の正否が判然としなかったものの、導入から1、2か月を経て、効果が浮かび上がってくるようになる。
例えば、売れ筋のクルマだけでなく、その周囲に置いたクルマの売れ行きもよいということだ。勝田氏によると、「それまでは、『売れるクルマが売れる』という考えから、一押しのクルマを一番目立つところに置くというのが自動車業界のセオリーだった。しかし、一押しのクルマのまわりに置いたクルマの売れ行きもよく、最初は偶然かと思っていたが、その仮説をもとにクルマの配置を変え、可視化されたデータが数値として示してくれることによって判明した」。また、「死角となるような殺風景な空間の方が来店客の滞留時間が長く、さらに営業をそばに配置していない方がよりクルマを吟味する傾向にあり、それによって売り上げも伸びる」ことがわかったという。そのほか、クルマや什器の裏側などが通りやすかったり、店舗の間口が広いことで意図していなかったところからの顧客流入があることがわかるなど、クルマの配置による顧客の導線づくり、“売り上げを伸ばしやすいゾーン”づくりが可能になったという。
ABEJA Platformによって得たノウハウを活用して、現在もクルマや什器を定期的に転換し、最適なパターンを模索している。勝田氏は、「感覚や経験に頼るのではなく、確かなデータをもとに有効な施策を打てる」と手応えを感じている。「ABEJA Platformにより、店づくりの勝ちパターンがみえてくれば、常滑の方式を他の店舗にも応用できるようになる。徹底的に解析して、成功例を探っていきたい」と今後の抱負を語った。(前田幸慧)