中国・大連市の大連高新区(大連ハイテク産業区)は10月27日、東京・新宿で「日中連携懇談会」を開催した。中国の経済環境の変化から、従来型のオフショア、アウトソーシングビジネスを見直す機運が高まるなかの催しで、当日は日中IT企業から大勢の関係者が参加。日中連携への関心の高さがうかがえる内容となった。
大連の優位性をアピール
冒頭では、大連高新区の靳国衛主任が登壇し、「大連IT産業『新たな挑戦』」と題して基調講演を行った。


大連高新区
靳国衛
主任 靳主任は、1996年に始まる大連IT産業の歩みや、対日ビジネスにおける優位性を紹介。日本・大連間の交通の便、経済貿易シェアの高さ、豊富な日本語人材やコストメリットを他の国々・地域に勝るポイントとしてあげた。さらに、大連への事業移転・集約を行っているという日系企業の傾向、IT専攻の大学新卒生を毎年2万人以上輩出している人材供給システムなどを新たな優位性としてアピール。「96年から、多くの日系企業が大連に進出し、成功を収めている。20年が経った今、大連の優位性はさらに拡大しており、大連はこれからも変わらず信頼していただける、最もよい選択肢であり続ける。引き続き大連をお選びいただき、大連で新たな価値を創り出そう」と参加者に呼びかけた。

野村総合研究所
嶋本 正
会長 続いて、野村総合研究所(NRI)の嶋本正会長が登壇し「大連とNRIグループの関わりと今後の展望」と題し講演した。
NRIでは現在、日本における事業環境の変化から、長期経営ビジョンとして、得意領域における収益基盤を固めるとともに、新領域への事業拡大を推進中。「オフショア開発の推進やコストパフォーマンスの向上、レベルの高いIT人材の定着によって、得意領域の生産性向上を図っていく。また、中国国内事業におけるパートナーシップの強化や、アジア・オセアニア市場の開拓、モバイル決済やシェアリングサービスといった中国で先行しているサービスを日本でも展開したい」として、大連を拠点とする企業に協力を仰いだ。

アクセンチュア
程 近智
会長 次に登壇したアクセンチュアの程近智会長は、「アクセンチュア大連デリバリーセンターのご紹介」と題し講演した。
アクセンチュアは世界に60か所以上のデリバリーセンターを構え、BPOサービスを提供。とくに日本をはじめとしたアジア地域においては大連のデリバリーセンターが主力となって事業を行っている。程会長は講演のなかで、効率化すべき業務、抜本的に改善しなければならないバックオフィス業務などを、大連の部隊を活用して適正化した二つの事例を紹介し、「大連センターの成長を長らくみてきたが、社員のレベルが高く、積極性をもった人材が多い。大連からマネージングディレクターとなり、日本のお客様に対して仕事をしている人が何人もいる。大連センターのホワイトカラーの生産性は日本と同等レベルになっている」と、大連の人材の優秀さを強調した。
日中の新たな連携を促す

東軟集団
劉積仁
会長兼CEO 次に登壇したのは、東軟集団(Neusoft、ニューソフト)の劉積仁会長兼CEO。「中日ソフトウェア産業協業の未来」と題して講演した。
劉CEOは、「ソフトウェアの世界は変化が激しい。今後もさらに大きな変化が待っているだろう。これからはインターネット、IoT、AIの時代。これらにふさわしいビジネスモデルを考え、これらを活用した新しいビジネスモデル、エコシステムをいかに構築できるかが重要だ」と主張。同社としても、より価値創造できる会社を目指し、サービス提供やビッグデータ、医療、教育など新たな分野に取り組む。「今までの中国と日本のソフトウェア産業では、主に製造業分野で提携していた。これからは新しいサービス分野でも深く幅広く提携していきたい。日本の既存の技術を活用し、中国の大きな市場で提携すれば、これからはより期待がもてる協業ができるだろう」と語った。

パクテラ・テクノロジー・ジャパン
宮下和浩
社長 続いて、パクテラ・テクノロジー・ジャパンの宮下和浩社長が「ハイブリッドオフショアモデル:ソリューションバリュー提供実現」と題し講演した。
同社では現在、従来型のオフショア開発を見直し、より付加価値の高いサービスを提供できる体制へのモデルチェンジを推進している。昨年は、コンサルティング会社を設立。また、デジタルマーケティング、テスティングなど五つのソリューションをメニュー化し、ソリューションを軸としたSIサービスを提供する。ほかにも、BPOやシステム運用におけるAIの活用、大連を含めた各デリバリ拠点間との連携強化などを図っている。「日本、中国、新技術・サービス、(これまでやってきた)保守開発サービスのそれぞれで人材やスキルを融合し、よりお客様の要望に合うよう最適調合しながら提供していく」ことがハイブリッドオフショアモデルであると語り、「このモデルで新たな価値を提供していく」と意気込みを語った。

大連華信計算機技術
王悦
社長 最後は、大連華信計算機技術(大連華信)の王悦社長が登壇し、「ニューチャレンジ・リバランシング――大連対日企業ならではの日・中IT協業のあり方」と題して講演した。
王社長は、日本企業が中国への集中発注から東南アジアなどへの発注分散、ニアショア回帰の傾向にある一方、それにともなってIT人材不足やコスト、英語力といった問題が発生していることから「まだ中国に優位性がある」と強調。中国企業の対日ビジネスでは、上流工程を支援する能力をはじめ、サービス能力の増強が急務であり、さらに、「日中間の協業は、単にコストダウンを目的とせず、真のビジネスパートナー関係へ変革する必要がある」と語った。そこで、王社長は日中IT企業間の「リバランシング」を掲げ、「中国対日IT企業は単一方向的に日本から受注する状態から、共同で中国・海外市場を開拓する」ことの重要性を指摘して、大連IT企業の努力を促すとともに、日本と中国の官民連携強化を訴え、話を締めくくった。