世界の産業用PC市場でトップクラスのシェアを握る台湾のアドバンテックは10月末、台湾・桃園市の拠点で今年のパートナーサミットを開催した。組み込みや産業オートメーションの世界では盤石な地位を築いた同社だが、今後ターゲットとするのは巨大市場への成長が期待されるIoT。IoTソリューションの構築に必要となるゲートウェイ機器やクラウドプラットフォームをワンストップで提供し、SIerやサービス事業者のIoTビジネスを支援することを戦略の中核に置くと宣言した。
日本向け事業が急成長
アドバンテックは、最終製品のブランドとしてはほとんどその名を目にすることのないメーカーだが、POSレジ、デジタルサイネージ、医療機器といった製品に組みこまれるエンベデッドPCや生産ライン、施設管理でのオートメーションシステムでは世界的に大きなシェアをもつ企業だ。具体的な製品としては、ボードコンピュータ、データ収集モジュール、産業用通信機器などを提供している。

台湾・桃園市の開発生産拠点「林口キャンパス」
同社日本法人のマイク小池社長によると、各国の市場のなかでも、世界トップクラスの高い売上成長率を示しているのが日本市場だという。各種機器に組み込まれるコンピュータの需要が伸びていることが背景にあるが、日本でのビジネスが好調なもう一つの理由として、国内の産業構造の転換と、それに伴う意識の変化があるという。

台湾本社の何春盛・総経理(左)と日本法人のマイク小池社長
従来、日本の産業用コンピュータ市場はほとんどが国内大手電機メーカー各社によって占められていたが、現在では各社ともIT事業の重点をハードウェアからソフトウェア・サービスへ移しており、熟練技術者の数も減少していることから、国内のハードウェア需要に応えられるだけの生産体制が失われつつある。その一方、現代では日本企業においても海外のリソースを活用することに対する抵抗感は小さくなっている。台湾アドバンテックの何春盛(チェイニー・ホー)総経理は、「過去の日本はクローズドな市場だったが、ここ3年ほどで明らかに経営者の考え方が変わってきた。日本の大手電機メーカーなどが『一緒に仕事をしよう』とわれわれに声をかけてくれる機会が増えている」と話し、かつては競合的な立場にあった日本メーカーが今は協業の相手となり、技術やアイデアを持ち寄って、すぐれたシステムやサービスをともに開発するパートナーになりつつあると説明した。日本市場での売り上げはまだ全体の約5%程度で、伸びしろは大きいとみている。
IoT基盤をパートナーと共有
今後の成長戦略として掲げるのが、今後大きく広がると期待されるIoTへの取り組みだ。同社では、今後のIoT市場の拡大をフェーズ1から3の3段階にわけて捉えており、そのなかでどのようにビジネスを成長させるか、ロードマップを描いている。
3段階のうち、「フェーズ1」は組み込みPCを中心としたIoT用ハードウェアの市場拡大期で、これは今まさに売り上げが伸びている領域だ。一方、IoTが企業のビジネスを加速させたり、社会システムの効率化に寄与したりと、実際に価値を提供できるようになる時代を、最終段階の「フェーズ3」に位置づけており、これはアドバンテックが手がけるビジネスではなく、同社の今後のパートナーとなるSIerやサービス事業者が実現する世界であると強調している。
しかし、現在のフェーズ1から、一足飛びでいきなりIoTソリューションを実現するのは難しい。多くのSIerやサービス事業者は、アプリケーション開発の経験は豊富でも、IoTで必要となるハードウェアの制御に関して十分なノウハウをもたないからだ。そこで、中間の「フェーズ2」としてアドバンテックが取り組み始めたのが、センサのデータを集約するエッジサーバーやエッジ機器を制御するためのクラウドサービス、IoTで汎用的に利用される機能を提供するAPIといった、ハード・ソフト・サービスを統合したプラットフォーム事業だ。フェーズ2で取り組むこの戦略を「シェアリングプラットフォーム事業モデル」と呼んでおり、同社が提供するIoT向けのプラットフォームを多くのパートナーがシェアすることによって、革新的なサービスを世の中に提案していく方針を示している。
例えば、同社ではIoT用のクラウドサービス「WISE-PaaS」をすでに提供しており、これを利用することでエッジ機器の稼働状況を遠隔で一元管理したり、データ暗号化などのセキュリティ向上を図るとともに、AzureやBluemixといった提携先のクラウド上にあるアプリケーションやデータとの連携を図ることも可能になっている。さらに、サードパーティが開発したIoT向けのアプリケーションやミドルウェアをWISE-PaaS上で公開することも可能で、アドバンテックのプラットフォームを利用することで、パートナーは自社の強みを収益に転換できるモデルとなっている。

センサデータの集約およびクラウドとの仲介役を果たす「Edge Intelligence Server」
今回のパートナーサミットでは、同社のIoTゲートウェイ機器を利用して生産ラインからデータを収集し、製造工程の可視化システムを構築した島根富士通の事例が紹介されたほか、製造業向けIoTソリューションの実現に向けた日本IBMとの提携関係がアピールされるなど、日本市場を意識したプレゼンテーション内容も多く盛り込まれた。
何総経理は、「日本には自動車、カメラ、家電などすぐれた製品があり、台湾にはわれわれのようなコンピュータ技術での世界的な競争力がある」と語り、力を合わせることがグローバル市場での成功につながると日本企業に呼びかける。「IoTは完璧なものを目指すより、小さなことからでも『まずやってみる』のが重要」とも述べ、何かと慎重な姿勢を示すことの多い日本企業に対し、IoTの時代には大胆さも求められるとの考えを示した。