セールスフォース・ドットコム(セールスフォース、小出伸一会長兼CEO)は、今年9月、同社製品プラットフォーム上で活用できるAI「Salesforce Einstein」を発表し、すでに一部機能の提供を始めている。国内市場向けにも、認知度向上策に力を入れる。AIへの注力がエンタープライズIT市場の大きなトレンドとなったなかで、「セールスフォースのAI」が目指す価値とは何か――。(本多和幸)
セールスフォースは2015年から今年にかけて、M&Aポートフォリオを急ピッチで整備してきた。これに自社の技術開発の成果を融合させてできあがったのが、Einsteinというブランドだ。
提供方法としては、Einstein自体のライセンスなどを用意しているわけではなく、CRM/SFAの「Sales Cloud」をはじめとする同社のクラウドアプリケーション、さらにはPaaS製品などに組み込んだかたちで提供するのが基本だという。つまり、セールスフォース製品のバージョンアップのタイミングで、Einsteinを活用した新機能を継続的に拡充していくということになる。また、別途費用が必要になるアドオン型の機能も随時追加していく。

御代茂樹
シニアディレクター 同社の御代茂樹・プロダクトマーケティングシニアディレクターは、「例えばIBMのWatsonは、AIを企業が活用する道筋を示した先行者ではあるが、(コストの問題を含め)多くの人がAIのメリットを享受できるようにするまでには至っていない。セールスフォースがAIを提供するうえで前提としたのは、(トップベンダーとして君臨する)CRMのためのAIをつくりあげることだった。M&Aにより多くのAI関連サービスを当社のプラットフォームに取り入れ、セールスフォースユーザーなら誰もが、AIによる各アプリケーションのスマート化や、AIを活用したアプリ構築ができるようになった」と説明する。基本的には、すべてのセールスフォースユーザーにAIのメリットを解放し、AIの“民主化”を進めていく方針だといえよう。
では、具体的にEinsteinによりどんなことが可能になるのだろうか。主力商材であるSales Cloudを例にあげると、Sales Cloud内の取引先、リード、商談といった情報はもちろん、外部のメール、SNS、カレンダー情報なども取り込み、リードを確度順にスコアリングしたり、最適なタイミングでの最適なアクションをレコメンドしたりといったことが可能になるという。「営業マンは、過去のデータなどをもとに、大量のリード情報からどれが案件になりそうかを判断して、誰にどんなかたちでコンタクトを取るか考え、行動していた。Einsteinによりここに工数を割く必要がなくなり、営業マンは顧客とのコミュニケーションの中身に集中できるようになる」(御代シニアディレクター)というわけだ。

及川喜之
CTO また、同社の及川喜之CTOは、「AI活用のメリットを最大化するためには、どんなデータを集め、どのように加工し、どんなアルゴリズムで分析したら意図した結果が出るかという検証を繰り返して、最適なモデルをつくりあげていく必要がある。こうした業務をデータサイエンティストが担っているが、自社でデータサイエンティストを雇わなくても、セールスフォースの知見を活用してAIのメリットを享受できるのがEinsteinの本質」だと訴える。すでに米本社では、170人規模のデータサイエンティストチームを整備し、先端のAI研究に取り組むとともに、その成果を製品開発エンジニアチームに提供するなど、Einsteinの機能開発や機能向上を網羅的にサポートする体制を整えている。