クラウド事業ではSaaS、IaaSに注力していたNECが、11月よりPaaSにも本格進出した。基盤技術としては米レッドハットの「OpenShift」を採用。OpenShiftをベースとしたPaaSは、レッドハット自らが手がけるサービスを除くと国内では類をみない。PaaSベンダーとしては後発のNECだが、コンテナ型の開発・運用に最適な環境を提供することで、これからビジネスのデジタル化に着手する企業の需要を取り込もうとしている。(日高 彰)
ハイブリッド環境を強みとするNECクラウド
NECでは2014年4月、同年開設した基幹データセンター「NEC神奈川データセンター」などを基盤とする「NEC Cloud IaaS」を開始し、パブリッククラウド事業への本格進出を図った。
ただし、同社ではこのサービスを指す際にパブリッククラウドという表現は積極的には用いていない。Cloud IaaSの基盤となる同データセンターでは、顧客所有のIT資産を預かるハウジングサービスを合わせて提供している。そのため、当面のクラウド化が難しいシステムについては、ハウジング側のラックに搭載し閉域ネットワークで利用できる。また、顧客の要望に応じて、Cloud IaaSと同等の機能をもつクラウド基盤を、顧客専用のプライベートクラウドとして構築・提供するセミオーダーメイド型のサービスも提供している。あえてパブリッククラウドと呼ばないことからは、AWSやAzureと正面からぶつかるのではなく、Cloud IaaS、プライベートクラウド、ハウジングなどをハイブリッドで提供できることを強みとして訴求したいという意図が感じられる。
またPaaS領域では、デバイス制御・データ収集基盤や、大規模データ分析用のデータウェアハウスなど、ビッグデータやIoT向けの機能群を「NEC Cloud PaaS」のブランド下で順次提供してきた。
コンテナの業界標準技術でPaaSを固める
Cloud PaaSの新サービスメニューとして目玉となるのが、この11月に提供を開始した「PaaS基盤サービス」だ。ある機能に特化したサービスとして用意されてきたこれまでのメニューとは異なり、デジタルビジネスのためのアプリケーション開発・実行環境自体を提供するもので、開発・更新のプロセスを自動化するCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリ)ツールや運用管理機能なども含む、包括的な基盤サービスとなっている。

NECがこのサービスで狙うのは、ウェブやモバイルなどの世界で生まれる新しい技術を活用して新ビジネスを立ち上げる、いわゆるデジタルトランスフォーメーションにこれから取り組む企業だ。今回のPaaS基盤サービスでは、コンテナ型の開発・運用に最適な環境を提供することで、アプリケーションの迅速な投入と継続的な改善を可能にし、顧客のビジネスのデジタル化を支援するのが目的だ。

木村好孝
シニアマネージャ PaaSを実現するためのソフトウェアとしては、IBMのBluemixやNTTコミュニケーションズのCloudn PaaSで採用されている「Cloud Foundry」が知られているが、NECのPaaS基盤サービスでは、もう一つの有力技術とされる米レッドハットの「OpenShift」を採用した。NECのプラットフォームサービス事業部クラウドプラットフォームサービス部の木村好孝・シニアマネージャは、同社がOpenShiftを選択した理由を以下のように説明する。
第一の理由は、コンテナ技術として多くの技術者が活用している「Docker」のサポートだ。現在のOpenShiftは、Red Hat Enterprise Linux、コンテナ技術のDocker、コンテナ管理サービス「Kubernetes(クーバネティス)」から構成されている。それぞれ、コンテナ型の開発・運用ではデファクトスタンダードの技術として利用されており、現在も技術コミュニティが活発な動きをみせている。木村シニアマネージャは「技術者が『コンテナをやるならこのスタックを使おう』と選択する技術そのもので構成されているのがOpenShift」と話し、すぐに使えるコンテナ環境として最適な技術を選んだ結果と説明する。
OSがエンタープライズシステムで標準的なRed Hat Enterprise Linuxであることは、Javaのサポートが充実していることや、既存システムとの親和性や技術者の習熟度でも有利だ。また、NECとレッドハットが長年の協業関係にあることもメリットだ。レッドハットの米国本社を含む技術者や、コミュニティと構築してきた“パイプ”があったからこそ、プラットフォームサービスとして提供できるレベルにまで品質を高めることができたという。
ビジネスへの貢献を示せるか
技術的には、OpenShiftやCloud Foundryを使えば誰でも自前のコンテナ型開発・運用環境を構築することは可能だが、クラウドネイティブな企業以外がその環境をつくり上げるのは難しい。一方、PaaS基盤サービスではDockerに最適な開発環境に加え、バックアップ、ログ、監視といった運用に不可欠なシステムをオプションとして提供しているので、顧客はアプリケーションの開発と改善に集中することができる。木村シニアマネージャによると、現在最も引き合いが強いのはFinTechに取り組もうとする金融機関で、すでにある銀行がPaaS基盤サービスを利用した開発に着手しているという。
ただ、コンテナ型開発・運用環境そのものは他のクラウド事業者も提供している。NECのPaaSならではの強みとなるのは、今後提供を予定しているAIエンジンの部分だろう。NECでは、現在は自社のソリューションとして提供している予測・検知・自動化といったAI機能を、順次APIでアクセス可能な形でPaaSに載せていくとしている。とくに、デジタルビジネスの世界では、アプリケーションは単に業務の道具として動けばよいのではなく、顧客のビジネスの成長に直接寄与することが求められる。群雄割拠のクラウド市場でNECのPaaSが存在感を高めるには、それを活用したビジネスの成功例を1日でも早く示すことが求められる。