【北京発】3月5日~16日、第12期全国人民代表大会第5回会議(全人代=国会に相当)が開催された。大会の目玉である初日の開幕式では、李克強首相が政府活動報告のなかで、2017年のGDP成長率を6.5%前後とする主要所期目標を掲げたほか、携帯電話の国内長距離通話料・ローミング料金の廃止など、ICTに関わる重点活動について言及した。(取材・文/上海支局 真鍋 武)
政府活動報告をする李克強首相
政府活動報告では、まず16年の活動を回顧した。李克強首相は、「中国共産党第18期中央委員会第6回全体会議は、習近平総書記の『核心』としての地位を正式に明確化した」と前置きし、習氏への政治権力の集中を印象づけた。そのうえで、「経済・社会発展の年間主要目標・主要任務をしっかりと達成し、『第13次5ヵ年計画』の幸先よいスタートを切った」と活動を評価。中国の16年のGDP成長率は6.7%だった。消費者物価は2%上昇したほか、工業部門企業利益が前年の2.3%減から8.5%増に好転。問題となっている鉄鋼業・石炭業などの過剰生産能力の解消も進めた。
ICT関連では、第4世代移動通信(4G)の利用者が新たに3億4000万人増加し、光ファイバーケーブルを新たに550万km強敷設。政務サービスのインターネット化を推進したほか、12の越境EC総合試験区も新設した。また、李首相は、「『インターネット+』行動と国家ビッグデータ戦略を推進し、『中国製造2025』を全面的に実施し、『大衆創業・万衆創新』関連の政策措置の徹底と充実化をはかった」と説明した。
中央共産党第19回全国代表大会の開催を控える17年は、中国の発展において重要な意義をもつ年となる。李克強首相は、17年の主要所期目標について、「GDP成長率は6.5%前後とし、実際の取り組みにおいてよりよい結果を得るよう努める」と説明した。16年のGDP成長率目標は6.5~7%。3年連続での目標引き下げとなる。重点活動としては、鉄鋼・石炭などの過剰生産の解消などを引き続き進める一方で、イノベーションを原動力とした産業転換によって発展を図る。李首相は、「現在、この段階にまで発展したわが国には、改革とイノベーションに頼る以外に活路はない」と強調した。
イノベーション推進にあたっては、新興産業の育成・発展を重視する。李首相は、具体的な分野として、新素材、集積回路、バイオ医薬品と並んで人工知能(AI)、第5世代移動通信(5G)を挙げた。中国政府は昨年5月に「“互聯網+”人工智能三年行動実施方案」を発表し、18年までに国内AI産業を1000億規模に発展させる方針を掲げたほか、5Gの実用化に向けた具体的なアクションプランをすでに策定している。また、李首相は、「『中国製造2025』を踏み込んで実施し、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、IoTの応用を進め、新技術・新業態・新モデルによって在来産業の生産・管理・マーケティングモデルの変革を促す」と意欲を示した。
約1時間40分間にわたる政府活動報告のなかで、もっとも会場がどよめいたのもICT関連の政策に関する発言だった。李首相は、「このインターネットの時代においては、各分野の発展に、速度がより速く、コストがより低い情報ネットワークが不可欠である」と強調し、「携帯電話の国内長距離通話料・ローミング料金を年内にすべて廃止する」と表明。約3000人の全人代代表が結集する会場は、10秒ほどの長い拍手が続いた。
中国の携帯契約は、省を跨ぐなど、契約地域外からの通話・ローミングで上乗せ料金となる仕組み。例えば、上海で契約しているユーザーが、出張時の北京から電話を掛けると追加料金が発生する。このことは、中国で携帯電話を利用する個人・企業のコスト増大の要因となっている。
全人代開幕式の翌日には、実際に中国移動通信、中国電信、中国聯通の通信大手3社が、長距離通話料・ローミング料を10月に廃止すると正式に発表した。同時に、中小企業向けのインターネット接続料や、国際長距離通話料も大幅に引き下げる。通信キャリアにとっては、業績に影響が出る恐れがあるが、中国の通信政策を研究調査する専門家は、「中国の通信キャリアの利益率は高く、これまで料金を取り過ぎていた」と指摘。実際、最大手の中国移動通信では、15年度通期の純利益が1085億3900万元、利益率が16.2%と国有企業としては非常に高い水準だった。
このほか、政府活動報告では、ホームネットワーク・システム(デジタルホーム)やオンライン教育などの情報関連消費の拡大、実店舗での販売とインターネットショッピングとの融合発展の後押し、行政村への光ファイバーの敷設完了、医療保険関連情報のネットワーク化の推進などのICT関連政策も掲げられた。調査会社IDC中国では、「健康、文化、旅行、デジタルホーム、教育、ECなどの産業でIT商機がますます拡大する」と分析している。
開幕式終了後には、習近平国家主席と李克強首相が言葉を交わす場面もみられた
1日に1万5000社が誕生求められる起業家支援
イノベーションを原動力とした発展を目指す中国では、「大衆創業・万衆創新」政策として、起業家の育成に力を注いでいる。政府活動報告によると、2016年に中国では新規登録企業が1日平均1万5000社も増えた。インターネットを活用したビジネスを手がけるベンチャー企業も多い。
ただし、数が増えているとはいえ、すべての企業が成功するわけではない。政府活動報告では、倒産企業数に関する言及はなかったが、全人代期間に記者会見した中国国家発展和改革委員会(発改委)の寧吉喆副主任は、「失敗はどの国であってもすべてを防ぐことはできない」と述べ、一定数の倒産企業が存在する事実を認めた。
国家発展和改革委員会の記者会見。新任の何立峰主任も出席した
急増するベンチャー企業を育成し、持続的な成長に結びつけるためには、投融資支援や経営マネジメント研修、ビジネスマッチングの機会提供といった支援が欠かせない。そこで、中国の主要な開発区や産業パークでは、ベンチャー企業支援の「衆創空間」と呼ばれるインキュベータが続々と立ち上がっている。寧副主任は、今後の起業家育成の取り組みについて、「環境の改善」「基礎能力の強化」「短所の補完」「『インターネット+』およびビッグデータ活用の推進」、「伝統産業の転換」の5つを挙げた。