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分散台帳技術の実用化が近づく?Rippleが決済システムの世界を変えるか 邦銀コンソーシアムによる実証実験、商用化への動きが加速

2017/03/30 09:00

週刊BCN 2017年03月27日vol.1671掲載

 国内外への送金を担うシステムのあり方が大きく変わるかもしれない。SBIホールディングス(北尾吉孝社長)とその子会社であるSBI Ripple Asia(沖田貴史代表取締役)が事務局を務め、地銀を中心に邦銀47行が参加している「内外為替一元化コンソーシアム」は、分散台帳技術(Distributed Ledger Technology、DLT)を活用した米リップル社の最新決済基盤「Ripple Solution」をクラウド上に実装した独自の決済プラットフォーム「RCクラウド」の実証実験を進めている。これが順調に進んでおり、商用化までの道のりがクリアになったという。国内外を問わず、24時間365日のリアルタイム送金が従来よりもずっと低コストで実現できる世界がいよいよ到来するか――。(本多和幸)

世界初、日本発のFinTechとして発信

 内外為替一元化コンソーシアムは3月2日、RCクラウドの構築完了と実証実験の実施、商用化に向けた活動の継続などをあらためて宣言した。SBI Ripple Asiaの沖田代表取締役は、「サンドボックス型のPoC環境を用意して、今年1月に本番と同等のシステム・機能を構築し、2月から参加各行に利用してもらった。外国為替、内国為替での送金機能が動作することが確認できた」と説明する。今後もRCクラウドの機能強化や周辺機能の開発、本番稼働に向けた追加実験などを進め、内国為替(国内送金)、外国為替(海外送金)とも、年内には商用利用の開始例が出てくる見通しだという。
 


沖田貴史
代表取締役

 現在、国内送金は、各行の勘定系システムと全銀システム、日銀ネットを連携させ、全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が決済しているほか、海外送金は、国際金融取引のメッセージを伝送するネットワークシステム「SWIFT」(世界200か国以上、8000超の金融機関が参加)をコアにした仕組みが構築されている。ただし沖田代表取締役は、「とくに海外送金では、複数の中継銀行を経由するため、時間やコストの不確実性などが大きな問題となっているし、国内送金の仕組みはかなりよく考えられてはいるものの、利用時間の制限などがあり、当然ながらインターネット、モバイル時代の行動様式を考慮したものにはなっていない」と指摘する。RCクラウドは、24時間365日、リアルタイムの決済が可能で、従来のシステムに比べて手数料などの送金コストも大幅に削減できる、内外為替の一元的な決済プラットフォーム構築を目指している。これにより、前述の既存決済インフラを置き換えようと構想している。

 RCクラウドに実装されるRipple Solutionは、同社が独自開発したDLTである「インターレッジャー・プロトコル(ILP)」を基盤とした金融機関向け決済ソフトウェアの統合製品だ。金融機関の内部システムをILPに対応した台帳に接続し、コンプライアンス情報や手数料、推定支払処理時間などを相互にやりとりできる「Ripple Connect」、支払いの成否を暗号理論的に確認し、取引参加者間の資金の流れをコーディネートする「ILP Validetor」などが、Ripple Solutionを構成する主要要素だ。現在、先行して導入が進んでいる欧米では、「大手銀行を中心に、外為を主用途として採用されている」(沖田代表取締役)が、RCクラウドは、Ripple Solutionをコンソーシアム会員が専用のプライベートクラウド環境で共同利用することで、導入・運用のコスト削減を図ろうとしている。

決済プラットフォームの新たなデファクトを目指す

 ちなみに、リップルはもともとRCL(リップル・コンセンサス・レジャー)というブロックチェーン技術をもっていて、これをRipple Solutionの基盤にも使っていた。「RCLは5秒で決済を完了できるが、それでも遅いという指摘があった。また、透明性が高いがゆえに、取引内容が他の銀行から丸見えの状態だという根本的な課題もあった。それらをひっくるめて解決すべく新しく開発したのがILP。ただし、ILPは(データ構造上)ブロックもチェーンもないので、分散台帳技術ではあるが、ブロックチェーンではない」(沖田代表取締役)のだという。RCクラウドも、当初はRCLを基盤として使う予定だったが、リップル全体が次世代決済基盤をILPベースで提供していく方針を固めたため、RCクラウドもILPを使うことになった。

 コンソーシアムの今後の活動では、RCクラウドの商用化をさらに強く意識していく。コンソーシアム参加銀行がRCクラウドを採用する際に各行のシステム改修コストをなるべく抑えるべく、既存の勘定系システムとRCクラウドを接続するための共通基盤として「共通ゲートウェイ」の構築を検討していくほか、スマートフォン用送金アプリ開発などの議論も進める。沖田代表取締役は、「共通ゲートウェイの発想は会員銀行側から出てきたアイデア。RCクラウドは多くの人に使ってもらってなんぼなので、コンソーシアム参加の間口を広げ、参加コストも勉強会レベルの水準にしているが、基本的には自行での採用を念頭に各会員には積極的に活動していただいている」と説明する。さらに、事務局の中心であるSBI Ripple Asiaは、リップルのソリューションを広くアジア地域で展開すべく、SBIホールディングスが60%、リップルが40%を出資して設立した会社で、「SBIの北尾、リップルのCEOであるクリス・ラーセンは20年来のつき合いがあり、SBIはリップルにも出資している。トップ同士の信頼関係のなかで日本市場での自由度は相当認めてもらっている。コンソーシアムの活動も、こうした前提があってこそ可能になった。米国主導ではなく、米国の先進技術を使いつつもFinTechで日本発の取り組みをしたいというのがわれわれの発想だった」と強調する。

 なお、内国為替については、みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループの三大メガバンクとデロイトトーマツグループが設立したブロックチェーン研究会が、bitFlyerの国産ブロックチェーンプロダクト「miyabi」を使った実証実験を行い、昨年11月に報告書を発表した。これについては、「内国為替の決済プロセスをすべて網羅しているわけではないという点でわれわれの取り組みとは違う」というのが沖田代表取締役の見方だ。みずほフィナンシャルグループは内外為替一元化コンソーシアムにも参加しているほか、国際的なブロックチェーンコンソーシアム「R3」のプロジェクトとして、SBIホールディングスと共同で、米リップル社の技術を活用した実証実験も主導している。沖田代表取締役は、「もともとRipple Solutionは大銀行を主要ターゲットにしてきており、コンソーシアムに入る入らないは別にして、日本のメガバンク各行とも個別には商談を進めている。当面、RCクラウドやRipple Solutionは全銀ネットやSWIFTなど既存の仕組みとの併用で普及していくことになるだろうが、いずれは決済プラットフォームのデファクトになる」と話し、邦銀の利用行拡大に大きな手応えを感じている様子だ。
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