証券業向けビジネスで数十社獲得を視野

 FinTechブームが、証券業界に大きな影響を与えつつある。一つは、FinTechベンチャーによる証券業界への新規参入。テクノロジーが証券市場を活性化させるとの期待も大きい。もう一つは、次々と登場するFinTechサービスをいかに活用するべきかということ。いくら先進的なサービスが登場しても、既存システムに柔軟性がなければ有効活用できない。このFinTechブームを追い風に、成長が鈍化していた証券IT市場に風穴を開けることを狙っているのが、NTTデータグループの日本電子計算(JIP)だ。(安藤章司)

新規参入で活気づく証券ビジネス

 ビジネス活性化の“起爆剤”に位置づけられているのが、FinTechベンチャーをはじめとする新規参入組である。直近では、エンドユーザーに投資診断や投資対象の選定などの支援をネット上で自動で行う「ロボアドバイザー・サービス」を手がけるFinTechベンチャーからの受注を獲得。このユーザーは世界最先端のロボアドバイザー技術に注力するため、基幹システムはすばやく導入できるJIPの共同利用サービスを選択している。
 

写真左から森 英康部長、野村容啓上席執行役員、奥出賢次統括部長

 JIPの野村容啓・上席執行役員証券事業部長は、「新規参入があれば、それだけ証券業界そのものが活気づき、システム投資の起爆剤にもなる」と期待するとともに、FinTechベンチャーにシステムを導入するだけでなく、JIPが運営する証券業向け基幹システムと外部FinTechサービスのAPI連携を推進していく。新規参入組にとって差異化要素となる領域に経営リソースを集中してもらい、基幹システムはJIPが運営する共同利用型の基幹システムとAPIで連携する流れをつくっていくことで受注を伸ばす考えだ。

 外部サービスとのAPI連携を早くから重要視していたJIPは、今年4月末までにおよそ3年の時間をかけて共同利用型の証券業向け基幹システムを刷新。商品名も「SIGMA21(シグマ21)」から「Omega(オメガ)」へと変えた。最新のAPI連携に対応できるようにソフトウェアのフレームワークをつくりかえるとともに、ハードウェアもメインフレームからオープンシステムへ移行させている。

 証券業務で必要な口座開設や申請書類などの入力事務の代行を請け負うBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)とセットで、「手間のかかる基幹システムの運用や事務作業をすべて当社に任せてもらう」(森英康・証券事業部事業企画部長)ことで、証券業界への参入障壁を少しでも下げられるよう努めていく。

ビッグデータや決済も注力領域に

 JIPの証券業向けシステムは、「リテール」と呼ばれる個人や中小企業向けの小口業務を主な対象としている。「株を買う楽しさや、手軽さ、多様な資産運用のニーズに柔軟に応えていく」(奥出賢次・証券事業部開発企画統括部長)ことが求められ、なかでも個人向けの各種のFinTechサービスは、リテール市場を活性化させる力強い追い風になる。決済一つ挙げても、例えばビットコインなどの仮想通貨に対応したり、一つの銀行口座で複数の証券会社の決済に使える“証券版デビットカード方式”による利便性の向上を検討している。

 証券会社ごとに開設していた口座を一つにまとめてデビット方式で即時決済するニーズは大きく、スマートフォンの操作でA証券向け、B証券向けの決済を即時に行い、売買と連動させるといった新しいUI/UXによって、リテール顧客の使い勝手を向上させる動きを支援していくものだ。

 証券会社の営業担当者向け支援システムの拡充にも取り組む。冒頭のロボアドバイザー・サービスのようなネット証券が台頭する一方で、昔ながらの営業担当者による営業スタイルも変わりつつある。ネット証券を活用するユーザーは短期売買の傾向が強く、従来型の対面販売を活用するユーザーは資産形成を重視するケースが多い。証券会社の営業担当者はデータにもとづく中長期の展望をユーザーにより詳しく示していくことが満足度向上につながる。そこで、個々の顧客に最適な提案をする土台となるデータを共同利用型のOmegaシステムからビッグデータ分析の手法を用いて生成し、証券会社の営業担当者に役立つよう加工して提供できるようにした。

 FinTech連携の加速や、NTTデータグループが得意とする最新の決済サービスの導入、ビッグデータ分析手法による証券会社の営業担当者支援を行うことで、向こう5年で他社リプレース数十社、FinTechベンチャーなど新規参入組からの受注も同様に数十社規模での獲得を目指す。証券業向け関連ビジネスの売り上げを累計300億円程度上乗せする目標を掲げている。
 

JIP対NRIの全面対決
“リテール”領域で激しく競合

 証券業向け基幹システムを巡っては、日本電子計算(JIP)と野村総合研究所(NRI)の一騎打ちの様相を示している。とりわけ小口ユーザーが中心の“リテール”領域で激しく競合。NRIは野村證券をはじめ大手顧客を多数もち、JIPは準大手や中堅・中小の証券会社に強いとされている。

 JIPが顧客ターゲットとしているのは、全国約280社の証券会社および投資信託を手がける地銀の一部など150社の計430社。これにFinTechベンチャーをはじめ新しく証券業に参入してくる会社が加わる。資産形成にFinTechの新しい技術が役立つことから、株式市場が活性化すると期待されている。

基幹システム側でもAPI連携による決済や、仮想通貨対応などのFinTechサービスを取り入れていくことが強く求められており、JIPでは証券業向け基幹システムの共同利用サービスを全面刷新することで対応。さらにNTTデータグループの総合力を活用することで競争を有利に展開していくことを狙う。